良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965) 人間が怪獣と戦うとこうなるんですね!

 最近、自分のブログ更新記事を眺めていると、ほとんど音楽映画と怪獣映画しか扱っていない事に気付きました。現在の興味の対象がそっち方面に向いているので仕方がないと言えば仕方ないのですが、このままではそれ専門になってしまうかもしれません。  新作評なんて、他に誰でもやってくれる人がいますので、こちらは新旧に関係なく、まずスポットを浴びる事などないであろう作品に光を当てていこうかと思っています。ジャンルは関係ありません。  特撮はもちろんですが、いまの若いファンには振り返られる事も無く、そのまま忘れられようとしている巨匠達の作品群とB級特撮作品を交互に振り返っていくつもりです。  溝口健二監督、フリッツ・ラング監督、エルンスト・ルビッチ監督、アンドレイ・タルコフスキー監督、山中貞雄監督、そしてD・W・グリフィス監督の作品群をしっかり書いていこうと思っています。  ただし堅苦しい物ばかりではこちらも疲れるので、エド・ウッド監督作品、『ピンク・フラミンゴ』、ホドロフスキー監督作品、そしてレンタル巡りをして最もくだらなそうな作品をピックアップしてお伝えできれば良いかなと思います。  で、今回もやっぱり特撮物です。「フランケンシュタイン」という名前はホラーファン、そして怪物映画ファン、もしかしたら「怪物くん」ファンには忘れられない強いインパクトを持っています。  こういうのを見る度に、「フランケンシュタイン」は「怪物」ではなくて「博士なんだ!」と何度も心の中で叫ぶのがフランケン物の常です。  今回の設定は実は割とイケテいるんです。メアリー・シェリー女史の「メ」の字もこの作品世界には出てきません。一応、フランケンシュタインの出身はドイツのほうだというぼんやりとした情報だけがもたらされるのですが、ほとんど原作は関係ありません。  フランケンシュタインの怪物は実はナチス生物兵器であるという、今まで一度も聞いたことのない説を高島忠夫(マッド・サイエンティスト役)とともに東宝が唱えます。  ちなみに「キング・コング」という商標はRKOの金看板だったため、メカニ・コングと戦う『キング・コングの逆襲』ではわざわざオープニングでことわりの字幕を入れているほどだったのですが、ここではいっさい「フランケンシュタイン」について何の断りも入れていない。  なのに、なぜさらに権利関係がうるさい「フランケンシュタイン」物をやりたい放題の設定で塗り固めて、好き放題に撮影されたこの作品に、こうもすんなりと何事もなかったかのように上映されたのか事情が分かりません。  もしかしてまったく認可を受けていなかったりすると、販売中止とかになってしまうんでしょうか。それともメアリー・サイドがアジア地域での著作権とか取っていなかったんでしょうか。こちらのほうがミステリーですね。  確かこの映画、海外でも一部の地域で上映されたはずなのですが、何のトラブルも無かったのが不思議です。まさか権利にはうるさいであろうはずのイギリス人が黙っているはずはないでしょうから、きっと東宝の偉いさんと向こうの権利者の間で、話し合いでも持たれたんでしょう。たぶん。  ここにでてくるフランケン(以下本家と区別するため、こう呼びます)は成長すると、身長が20メートルを超える怪物になり、本家のボリスと戦っても100パーセント、勝利を収めてくれるでしょう。餌が凄く、兎や牛を生のまま喰らうという野蛮さを見せ、観客を引かせてくれます。  でっかいゾンビみたいで、『フランケンシュタイン』のボリスのような哀愁は皆無です。『フランケンシュタイン』のファンとしてはこのへんの描写が残念でした。もの哀しく、何故自分は生きなければならないのか、何故生かされてしまったのかという根源の問いのない、この東宝ビッグ・フランケンは怪獣映画の副作用のような存在でした。  このフランケン役を務めた人がまた貧相で、筋骨隆々とは程遠く、思い切り日本人で、でっかく見えず、なぜこんなひとをわざわざ主役にしたのかさっぱり訳が分かりません。ゴジラがマンネリ化していたから、はけ口に使ったのでしょうが、人間が怪獣と対戦するというのはあまりにもふざけていて、まるで夢の中で、子供がヒーローになって、キングギドラを倒しているのと大差ない。  何故か巨大化するフランケンと何故か出現するバラゴンが、何故か富士山のそばで偶然出会い、戦いだす。これははっきりいって『天才バカボン』の世界なのです。フランケンは人間が巨大化して、原始人の衣装を着けただけで武器はない。相手のバラゴンは光線を吐くのですが、当たらないし、当たっても効かない。  フランケンの攻撃もバカボン並みで、石を投げる、木を投げる、火で脅す、後ろに回って乗っかるなど意味不明の攻撃を仕掛け続けます。バラゴンも相当のバカもんで、彼に終始付き合い続けます。  ただこの戦闘シーンで山火事になり、火事をバックにして戦闘が行われるのですが、この後方は火事、前方は戦闘というこのシーンはとても美しく撮られていて、見所といえるかもしれません。落城していくお城の中で戦っているという感じに似ています。  最終的には『プライド』のような首への攻撃(ネック・ブリーカー)でバラゴンをKOして終了かと思いきや、何故か「オオダコ」が富士五湖のいずこからか出現し、フランケンと対戦します。このときの台詞がまた素晴らしい。(高島)「ありゃ、なんだ?」 (アダムス)「タコじゃないか?」  富士五湖って、「湖」じゃんと思う暇もなく、キングコングが戦ったように彼も戦いますが、蛸の寝技にあい、あっけなく湖に引きずり込まれます。  この映画の凄いのはここからで、主人公の生死すら分からない状況なのに、自衛隊はもう二人ともいないからいいや、とばかり「撤収!」と叫び、全員さっさと引き上げてしまいます。ヒロインを務めた水野久美さまも特に何事もなかったようにコメントも冴えません。  そのあと「終」の文字とともに、山火事のアップで本当に終わってしまいます。なんなんだろう、これ。本当に「撤収」してしまいました。ドリフの「後半」のようないい加減さに笑いが出ます。  見所といえば、前述した戦闘シーンの他に、俳優陣の豪華さを挙げることができます。水野久美志村喬、藤田進、土屋嘉男、小杉義男、沢村いき雄、ニック・アダムスらが主戦級、端役にちりばめられているのです。さすがは本田猪四郎監督ですね。 総合評価 56点   フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)
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