良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『小さき勇者たち ガメラ』(2006)脚本に問題あるが、事前の予想を大きく上回った作品!

 土曜日の第一回目上映ということもあり、早めに映画館に足を運びました。上映時間30分前にもかかわらず、観客はオレ一人だった。もしかすると貸し切り状態になってしまうのかもしれないと覚悟を決めたのが10分前。すると家族連れが3組ばかり合わせて10人が入ってきました。子供ばっかなので、一人でいると少々バツが悪い。

 場末の1スクリーンしかない映画館に10年以上ぶりに行ってみました。設計ミスのためか、本来は最も良い席であるはずの一番後ろの真ん中にいるのに、トイレの芳香剤のキツイ匂いが常に鼻についてくる。集中しにくい状境に陥ってしまったようです。

 興行で、トイレの臭いが立ち込めるのは、学生時代に平和台球場の外野席でのプロ野球観戦でずいぶんと慣れてはいたのですが、まさか21世紀の映画館で同じような目に合わされるとは思いもしませんでした。

 事前に見た『小さき勇者たち ガメラ メイキング』での印象が最悪だったので、正直いうと行くべきかどうかかなり迷ってしまったのですが、対象が怪獣映画ということもあり、映画館の大スクリーンで観ないと真価は分かるものではないと思い直し、本日足を運びました。

 印象としては予想を大きく上回る、上出来といっても良い作品でした。あらためて思うのはメイキングであれ、マスコミ情報であれ、出来るだけ情報はないほうが良いという事でしょうか。とかく、メイキングでは監督はじめスタッフ達の思い上がりや舞台裏を見せられるため、本編を観る楽しみが少なくなってしまうのですが、今回もそれに当てはまっていたので、期待はしていませんでした。それがために余計によく感じたのかもしれません。

 演出の中に、オマージュというか何というか昔観た映画のパロディがふんだんに盛り込まれていました。『ガメラ対大悪獣ギロン』(包丁がトトの前に刺さる)、『ゾンビ』(ショッピングモールで扉を開けようとして何十人も叩きまくるシーン)には拍手しそうになりました。

 また『ジョーズ』(おっさんが姿なき怪物に食われるシーン)、『サンダ対ガイラ』(海中から獲物を狙うアングル)、そして怪獣ジーダスジラースジェロニモンに似ている事など特撮ファンには笑える映像が沢山あります。

 カメラの動き自体は特撮シーンをしっかり作っているという自信からか、無駄な動くがあまりなく好感を持ちました。実写ドラマシーンではいかにも松竹らしい人間臭さのあるロケーションの選択、街並みの映像、そして家屋の描写に優れていました。伊勢志摩の自然と雰囲気を上手く引き出せていたと思います。

 かの地の素晴らしさは行ってみないと分かりづらい部分もあるかもしれませんが、このフィルムにも良さは出ています。海岸の風景、山々の静かさなど上手く切り取っていました。フィルターをかけて撮影したようですが、懐かしさを思い起こさせるような良い効果を生み出しています。

 主人公の少年(富岡涼)の父親(津田寛治)が営む食堂の汚れ具合が素晴らしく、この家屋だけでももう一本映画が撮れるような良い雰囲気のある家屋でした。ロケハンが上手くいった好例ですね。

 イメージの遊びもなされていて、富岡涼たちがスケボーのリンクで遊んでいる様子と遊んでいてフライパンに落ちるトト(子ガメラ)のイメージがシンクロされています。このときにギロンへのオマージュも出てきます。昭和シリーズへの敬意でしょう。ギャオス以来のガメラ昭和シリーズの怪獣文化を継承すべく、怪獣ジーダスはちゃんと人間達を貪り食います。

 怪獣映画で必要なのはドラマ場面ですが、この作品では実写場面に優れたところが多く、逃げ惑う群集シーンでの斜角ショットと斜め構図の採用によって不安感を醸し出す描写、思い切り降らせる雨などが特に優れている。逃げ惑うシーンで他人を突き飛ばしても顧みないシーンは『宇宙戦争』(オリジナル版)でも記憶に残っています。

 なによりも怪獣映画の花形、特撮チームの頑張りは特筆すべきものでした。ジーダスによってなされる一連の破壊シーンは特に良く出来ている。アーケードをぶっ壊す、ビルを破壊する、橋を破壊するなど建築物の破壊の出来が素晴らしい。残念だったのはジーダスが思ったほどカッコ良くないことでしょうか。

 もっとも、怪獣映画の醍醐味である、映画館の大スクリーン上で暴れてくれる分にはそれほど大きな問題はないのですが、のちにDVD化された折に、小さくなった彼をTVで見ても強い印象を与えてくれるとは思えません。

 対戦相手になぜもっと強力な相手を選ばないのかが理解しかねます。ギャオスを再び引っ張り出す工夫のなさには呆れ果てます。ガメラはもはや大映のエースではなく、ゴジラと並んで日本怪獣の金看板なのですから、いつまでもラッシャー木村のような扱いをして欲しくない。

 前述したように実写部分の出来はとても良いのですが、最大の貢献をしているのは大人ではなく、主人公の少年を演じた富岡涼とヒロイン役の夏帆の二人です。彼ら二人で芝居を締めています。脇役にも寺島進を使ったり工夫している様子が窺えます。

 問題なのは可愛いトト(ロザーナを歌わないし、トイレでもない)ではなく、後半のストーリー展開と台詞に尽きます。対決シーンが少なすぎるのが第一です。怪獣映画なのに肝心な対決には明らかにウェイトが置かれていない。消化不良の感があるのは否めない。

 また訳のわからないのが赤い石(ガメラのお守り?)を夏帆がいる病院から運ぶのだが、見ず知らずの「選ばれた?」子供たちが、理由も知らずに危険地帯まで順番にリレーをして、富岡涼に届ける。それをビルの上層階まで走ってガメラに渡す。子供が自衛隊の立ち入り禁止区域に入れるわけない。根本的におかしくなってきます。

 また下で見ているときにすでにジーダスガメラの近くに迫っているのに、なぜか小さい子供が走って26階まで登るまで攻撃してこない。まるで合体ロボが合体し終えるまで何故か待っている昔の戦隊物を思い出しました。トイレより臭い、子供だましの臭いが立ち込めだします。

 止めを刺すのが大人から言わされているのが、モロに分かる胡散臭い台詞の数々でした。子役の演技でなんとか持っていたこの映画を、脚本家と監督が自分よがりの台詞と思い上がりで台無しにしてしまいました。

 しまいには子供たちによる人間の鎖まで飛び出す始末で、これにはさすがに寒気がしました。何故昼間の、それも危険地帯に子供が何十人もいるのか?あまりにもいい加減な演出方法には製作者の節操のなさが暴露される。

 メイキングでは子供のために作ったなどと、きいたふうなことを散々言っていたが、結局は自分達大人の感覚で、思い通りにコントロールしたかっただけなのが明らかになる。作品を崩壊の危機から救ったのは子供たちの演技と良い仕事をした特撮チームである。前半には優れていた演出が何故にこれ程後半に壊滅状態になったのかが不思議である。

 音楽も最悪で、後半のそれはおぞましいほど作為的で偽善に満ちている。写真としては素晴らしい出来だったのに残念だ。作品中の台詞でも、続編が製作されることを匂わせていましたが、心配になっています。

 良かったと思えるのは回転飛行と火炎放射が一度きりしか出てこない事で、猪木のプロレスのように必殺技を最後まで取っておいて、観客を焦らすのは演出としては優れています。もっと、回転飛行が観たかった。

 大人が考える子供向けでは、子供の支持を得るのは不可能である。大人向けの怪獣映画を作って、はじめて子供は怪獣映画を好きになるのです。みなさんも子供の頃、早く大人になりたかったでしょう?

総合評価 72点