良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『マジカル・ミステリー・ツアー』(1967)ビートルズが自分よがりに作ってしまったクズ映画。

 ポップ音楽史上、もっとも意義のあるアルバムだった『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』が大成功を収め、意気軒昂だったビートルズの陰で、一人のスタッフが亡くなりなした。彼の名前はブライアン・エプスタインで、長年ビートルズのマネージャーを務めてきました。アメリカでの成功も彼の企画力と熱意が功を奏してのものです。

 しかし、1966年にツアーをやめ、TV出演もほとんどしなくなり、スタジオに引きこもる生活が始まってからはマネージャーである彼の仕事も激減し、徐々に疎外感を味わうようになったようです。同性愛運動に公然と姿を現し、ドラッグにはまり込み、寂しく死を迎えました。

 この『マジカル・ミステリー・ツアー』はそんななか、はじめてビートルズ自身の手によって手がけられたBBCのクリスマス番組用の企画でした。しかし、結果は惨憺たるもので、ビートルズの成功神話に影を落とすことになりました。

 原因としては、まず放映される時のフォーマットがモノクロだったことが第一の原因でしょう。あのカラフルでサイケデリックな映像世界をモノクロで見せられても、視聴者はさっぱり理解できなかった事でしょう。視聴者の側も白黒TVを持つ世帯の方が圧倒的に多く、発信側のBBCまでが、最初からモノクロでこの作品を放映してしまったのは配慮に欠けていると言わざるを得ない。

 本来、そういった雑務や交渉を一手に引き受けていたブライアンの死は、こうしたところでも歪みや無理解を生み出していきます。崩壊のプロセスが始まるのは一般にホワイト・アルバム・セッションにジョンが連れてきた日本人女性、小野洋子が原因とされてはいますが、ブライアンの死こそが根本の原因であると思います。誰よりもビートルズに愛着を持ち、気を使ってきた彼を失ったのはバンドの求心力を急激に落とし、バンドの存続自体にも影響してきます。

 そんな状況下にあった、彼らが犯したはじめての失敗が、『マジカル・ミステリー・ツアー』だったのです。モノクロ・フォーマットで放映された次の日には酷評で埋め尽くされましたが、ビートルズはBBCの責任だとして、再度カラーで放映させました。しかし結果は同じで、恥をさらに大きくしただけだったようです。

 一バンドではなく、業界全体にとてつもなく大きな影響を及ぼすビートルズの失敗は、彼らが示してきた成功の大きさに比例して、業界にも深刻に受け止められたのではないでしょうか。やりたい事と儲かる事は違う、という当たり前の事実に残念ながらビートルズのメンバー達は最後まで気付きませんでした。

 アップルの設立、グループの崩壊、アップル事態の財政悪化、アラン・クラインのマネージャー就任、そして解散と続いていく悪い流れのきっかけとなったのが、ブライアンの死とこの映画の大失敗でした。

 ビートルズ映画で主役を務めてきたリンゴも流石に精彩がなく、存在感も薄い。脚本自体もいい加減で、バスに乗り込んだ彼らとコメディアンらが行く先々で起こることを記録していくという無謀で無思慮な企画だった事もあり、内容は無きに等しく、クズのような映像の合間にビートルズの曲をはめ込んで体裁を整えているだけの仕上がりになってしまいました。

 ドラッグ体験を映像化し、バス旅行のハプニングを同時収録する試みは完全に的を外しました。サイケ映像を高評価する向きもあるようではありますが、それは贔屓の引き倒しというものでしょう。

 ファンが見ても「なんじゃこりゃあー」というのが本音ではないでしょうか。せっかくの幻想的な楽曲に、クズ映像のイメージを植え付けられてしまった事が悔やまれます。『サージェント~』で使われた方法論がここでも使用されて、幻想的なイメージを高めています。

 『マジカル・ミステリー・ツアー』、『ザ・フール・オン・ザ・ヒル』、『フライング』、『ブルー・ジェイ・ウェイ』、『ユア・マザー・シュッド・ノウ』、『アイ・アム・ザ・ウォルラス』の6曲がサントラとして収録されました。綺麗な曲ばかりで、本当にもったいない。

 アルバムとしては6曲というのは少なすぎるためか、イギリスでは6曲入りのEP盤として発売されましたが、アメリカでは上記6曲に『ハローグッバイ』、『ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー』、『ペニー・レイン』、『ベイビー・ユー・アー・ア・リッチマン』、『愛こそはすべて』というシングル盤ですでに発売されていたものをB面にぶち込んで、アルバム仕立てにして売り出しました。

 現在では、このアメリカ盤のスタイルが世界公認とされていて、イギリス仕様の物はCD化されませんでした。この変更はキャピトル・レコードが行った唯一のビートルズへの貢献です。『リヴォルヴァー』までのアルバムをすべてバラバラに切り刻んだ悪名高いキャピトルではありますが、この『マジカル~』のアルバムだけはファンにも好評です。

総合評価 54点