良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『東京湾炎上』(1975)技術には時代を感じますが、テーマはかなり根深い。

 1975年に公開された、『東京湾炎上』は東宝特撮パニック映画のうちの一本で、いまとなっては誰にも顧みられる事もない『ノストラダムスの大予言』とは違い、今の国際情勢に照らし合わせてみても、過去のものに過ぎないとは言えない、深刻なテーマであるテロリズム、アフリカ問題が含まれています。  最近『日本沈没』がリメイクされましたが、むしろやるべきだったのはこの『東京湾炎上』の方ではないでしょうか。タイムリーなストーリーを求めるのであれば、こちらのリメイクが観客に与えるインパクトがより現実的であります。  貧者の側からの計画的な組織犯罪に対しては国家も警察力も有効策をなかなか打てないのが現状です。とりわけ生還を期待しない自爆テロ的な犯罪には無力です。法律によって、規制できるのはせいぜい持ち込みや移動くらいでありますが、テロ対象国に拠点があれば、それすら思うようにはいかない。  狙う者と狙われる者では、狙う者の方が強いのです。戦いは先手必勝というのは自明の理であり、先制攻撃が成功さえすれば、先手は次の行動を容易に進められる。受け手は初動で、攻撃への対応をしなければならないので、どうしても次への対策が遅れてしまう。ペースを握っているものは受け手の対応を予想しながら動けるという利点を持つので、つぎつぎに攻撃を仕掛けて、撹乱できる。  そのために体制側にとって、もっとも必要なのはすべての可能性のある事象に対してのしっかりとした準備である。この部分さえ出来ていれば、大抵の事件には対応できます。ここでの読みを甘く見積もっているとさらに甚大な被害が広まる恐れがあります。  こういった対策を現政府は持っているのかは非常に疑わしい。攻撃を受けてから反応するという、いわばカウンター型のスタイルを戦争で持つのは危険である。とりわけ殺傷力の高い兵器に対しての抑止力となるのは、さらにそれより殺傷力が優れている兵器しかない。  世界の秩序を保っているのは宗教でも国連でもなく、軍隊と兵器、そしてそれを提供する企業です。サッカーのワールドカップにしろ、ボール(爆弾)、ユニフォーム(鎧)、シューズ(戦車)などの兵器はアディダス製(ドイツ)、ナイキ製(アメリカ)、ルコック製(フランス)、ロット製(イタリア)、たまにミズノ製(日本)です。それがボーインググラマンなどの兵器メジャーや石油メジャーに変わるだけです。  究極の外交手段が戦争であり、このような世界戦争に発展するきっかけになるのが大規模なテロ活動なのではないでしょうか。実際にわが国にせよ、アメリカにせよ、イラク戦争同時多発テロによって、かなりの国力を消耗させられました。気力も消耗しました。警備に割く費用を出すのも税金ですし、余計な事に気を使わなくてはならないのも、国力の消耗なのです。  長くなりましたが、本編に戻ります。演技では丹波哲郎藤岡弘、下川辰平宍戸錠渡辺文雄、水谷豊、ケン・サンダースなど渋めの俳優を多く起用し、重厚なテーマを持つ作品を支えています。ヒロイン役に金沢碧を使っているのですが、全く無意味な配役で、必要性がありませんでした。  特に目立ったのはケン・サンダース、水谷豊、藤岡弘であり、藤岡は『日本沈没』での演技が認められたためか、ここでも主役を張っています。ケン・サンダースの演じた、狂気のテロリストは気持ち悪いが凄みがあり、強い印象が残っています。  東宝特撮パニック映画といえば、『日本沈没』、『地震列島』、『世界大戦争』、『首都消失』、『妖星ゴラス』など多岐にわたり、子供の頃にすべてを楽しんで見ましたが、若い人たちが見ると、特撮部分についての批判やドラマ部分への抉りの浅さなどが問題にされるようです。  しかしこれらが作られたのは30年も前なのです。縦社会でもあった、そのころには表現上、暴力、性的描写、軍隊、皇室、スポンサーに対する批判のタブーなど、いろいろな制約が今では考えられないくらい数多くあり、「なんでもかんでも見せりゃ良い」という現在の製作姿勢とは違うということが全く理解されていない。  特撮にしてもそうで、日進月歩を今でも続けている唯一の分野である特撮技術を「昔のものはチャチだ、お金が掛かっていない」などというのは特撮への冒涜であり、時間の経過を全く考慮に入れていない近視眼的なものの見方です。  CGにはない暖かみを、制作者の体温を感じられない自分の感受性の欠如を反省すべきでしょう。映画は一人で作るものではなく、集団の協調によってはじめて完成するのです。一箇所気に入らない部分があったからといって、すべてを否定できるほど単純な映画はない。  もっともそうは言っても、個人的に気に入らない部分は当然あります。なにがなんでも爆破すればよいという姿勢は『日本沈没』のときにも見られていて、その貧困な発想には憤りを覚えましたが、また繰り返された事に呆れ果てました。円谷プロ出身の人が特撮を仕切ったのに、この程度なのはがっかりしました。  液体中のシーンでの無音演出も繰り返されました。前回は深海で、今回は石油タンクの中でした。石油タンクの中の映像というのははじめて見ましたので、新鮮ではありました。  特撮の見せ場としては、テロリストを欺くために鹿児島の石油施設のミニチュアを制作し、作品中の特撮監督が破壊シーンと実写シーンを演出して、テロリストに見せるというエピソードがあり、ここは最大の見せ場でした。当時の小さいテレビでこの映画を見たときには迫力に圧倒されました。円谷プロ東宝の意地を感じる映像でした。  テロリストに特撮だと見破られるきっかけとなるシーンがあるのですが、それは特撮の出来のためではなく、ある自然現象による影響のためでした。  東宝の素晴らしさは戦争で培った特撮技術をまずは『ゴジラ』およびゴジラ・シリーズに注入し、『ガス人間第一号』などの怪奇人間シリーズに使用し、当然戦争映画にも腕を振るい、それらをパニック映画にも活かしたことです。  他社が立てた、こういった作品の企画はほとんどがキワモノとして見られるのに対し、東宝がやれば、大作として見られるのはこれまでの特撮に対する取り組みへの伝統と信頼があってこそかもしれません。 総合評価 65点 東京湾炎上
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