『M:Ⅰ:Ⅲ』(2006)スパイ大作戦のパート3!マクガフィンが登場するのが嬉しい!
公開前の大掛かりなプロモーションも記憶に新しい、J・J・エイブラムス監督、トム・クルーズ主演による大ヒットシリーズ『ミッション・インポッシブル』の第三作目に当たるのが、この 『M:i-3』ということになります。
前二作をまったく知らなくとも、一般の人が観て、十分に楽しめるであろうという「いかにもハリウッド」な作品には仕上げられてはおりますが、裏を返せば前二作や『スパイ大作戦』以来のファンからすると、存在を無視されたような感覚を味わいかねない作品とも言えます。
過去との繋がりが全く感じられないこの作品を愛せる方がどれほどいるのかがまずは疑問となるであろう、というのが第一印象でした。あの有名なテーマ曲とトム・クルーズがいなければ、この映画のタイトルは何でも良かったんじゃないだろうか。それこそ『トゥルー・ライズ2』でも十分だったような気もしました。そのまんま『トゥルー・ライズ』じゃねえか!と思うシーンもありました。
コアなファンほど楽しめないような続編は作って欲しくはないですね。派手な見せ場がかなり多いので、普通に観に行けば、そこそこ楽しめるのは保障されている作品ではありますが、それ以上でもそれ以下でもない。なんせさっき観たばっかりなのに、記憶に残っているシーンがあまりないのです。
アクションシーンには「さすがハリウッド!」といえる派手な特撮が見られ、特撮ファンとしては楽しめるのですが、やっていることがルパン3世並みの変装マスクやビル渡りでは興ざめしてしまうのです。たしかにアニメでしか見れなかったような前述のシーンでも実写で再現できるようになったというのは技術の進歩なのですが、正直あまり感慨は湧いてこない。
ドラマ部分もおそらく脚本に問題があるのでしょうが、トム・クルーズ以外の人物に体温を感じません。とりわけ敵役であるフィリップ・シーモア・ホフマンのキャラクターの掘り下げ方に深みがないのは致命的ではないでしょうか。彼が大物なのかどうかもはっきりしませんし、唐突に裏切る上司にも意味を感じません。ヒロインを演じた、ミシェル・モナハンにも全く魅力がありませんでした。
前回の反省があったのでしょうが、個人で動いていた印象の強かった前作に比べ、チームで動く姿勢が戻ってきているのは良い傾向ではありました。あくまでもスパイという体制側の人間だったはずで、一匹狼のゴルゴやランボーじゃないわけですから、仕事仲間との協調で作戦を遂行していかねば、漫画になってしまう。
特殊部隊のような装備で固められ、昼夜を問わないヘリや戦闘機での攻撃など、国の経費を自分達の都合で湯水のように派手に使いまくる国家公務員?による戦闘シーンが多いのは現実味がまるでなく、失笑気味に観ていました。
隊員の妻を救出するために、情報部の職員が上司に許可も取らずに、上海まで勝手に渡航して、他国政府の許可も無く、銃火器を保持して、それらをぶっ放しながら活動するなどありえませんし、もしやったら国際問題になります。いくら娯楽映画だからといって、あまりにも現実から離れてしまうのはどうなんだろう。
全体的に暗めの画調で纏められていて、夜のシーンが多かったのは本来のスパイ映画の名残を残していて、好感が持てるのですが、あまりにも多すぎるドンパチシーンの連続には冷静になって引いた目で見てしまう自分がいました。
アクションシーンの編集は優れていて、延々と続く派手な立ち回りであるにもかかわらず、目が疲れませんでした。配慮がされているのか、いつか見たようなシーンの連続だったので、既視感があったためなのかは定かではありません。
マザーグースの一節がバチカン・シーンで出てくるのにはニヤリとしました。
ハンプティ・ダンプティ サット・オン・ザ・ウォール
ハンプティ・ダンプティ ハド・ア・グレイト・フォール
クドゥント・プット・ハンプティ・トゥゲザー・アゲイン
いわゆる「覆水盆に返らず」なのですが、この映画に出てきたのは意外に感じました。
見た目で印象が深かったのは、上海シーンでした。トムが追跡するために走りまくるシーンでの運河からのドリーとパンの効果が素晴らしく、また黒ずんだような運河の川面が何故か美しく感じました。発展途上の中国の最新の部分と昔ながらの部分が交互に行きかう様子は、昭和三十年代後半のわが国のような感じなのでしょうか。
「ラビット・フット」という機密を探し続け、殺し合いが繰り広げられるのですが、最後までこの「ラビット・フット」の正体は明かされない。つまりこの「ラビット・フット」はマクガフィンだったのです。劇場で鑑賞中に、ヒッチコック監督作品のようなテイストを感じました。ヒッチ作品の閉じ方を予想してからは監督の意図を楽しみながら観ていました。
マクガフィンを理解していない人が観ると、消化不良になったり、不満に思えるかもしれませんが、ヒッチ・ファンが観れば、「うん。これで良いんだよ。」と妙に納得する映画なのかもしれません。
総合評価 64点