良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ALWAYS 3丁目の夕日』(2005)映画賞を総なめにした話題作。ベタですが、直球も良いですね

 山崎貴監督による超話題作であり、映画賞を総なめにしたこともあり、近年の邦画の中ではかなりの注目を浴びた作品ではないでしょうか。ドラマ自体はあの時代、わが国ならば何処にでも転がっていたであろうと思われるおはなしを見せています。  出来上がりつつある東京タワーの様子を要所に挟み込み、高度経済成長期に向かいつつあった右肩上がりのわが国でのあの頃の、小市民達のささやかな幸せとほろ苦いエピソードを綴った人情喜劇的な作風に仕上げられていました。  もともとこのような小市民ドラマといえば、松竹の十八番だったジャンルであり、東宝によってこの作品が製作されたというのは正直驚きではありました。しかし東宝もただのホーム・ドラマをわざわざ製作するわけもなく、全篇に特撮をちりばめた見事な喜劇を作り上げました。  普通これだけ大がかりに特撮を使用する場合、他の会社ならば大々的に宣伝して、特撮をアピールするはずですが、さすがに特撮では群を抜く実力を誇る東宝はそのような部分をアピールするような下品な作品にはしませんでした。  CGによる特撮が完全に芝居を盛り上げる脇役として機能しています。特撮が全く邪魔にならずに、嫌味にならずに作品世界に同化していました。製作者が何を見せたいのかがはっきりと分かる作品でした。蒸気機関車がらみのシーンは夕日の明るさと絡み合い、美しい映像が多くありました。  俳優で印象に残るのは主役の吉岡秀隆よりも、むしろ作品上では脇役として配置された人々であり、彼らが見事な演技と存在感を示していました。とりわけ素晴らしかったひとりは堤真一(鈴木オート)であり、もうひとりは堀北真希でした。  堤真一によって演じられた鈴木オートは毒と暖かみを両方合わせ持つキャラクターであり、彼によって命を吹き込まれたこのキャラクターは絶妙であるばかりではなく、実際の主役は彼なのではないかと思うほどでした。汗と油の臭いがする、このキャラは最高の出来でした。  また堀北真希がここまでやれるとは全く思ってなかったので、新鮮な驚きでした。大事に育てていって欲しいですね。浮ついたところがなく、新鮮かつ、しっかりとした目の力と存在感を持つ彼女はこれからどのような女優になっていくのか楽しみです。  登場人物の名前の付け方もひねくれていて、茶川龍之介、古行淳之介、川渕康成などの名前が出てくるのが妙に可笑しい。言い出せば、鈴木オートだって、自動車のスズキのようでもあり、捻った笑いどころも嬉しい。  西岸良平原作のコミックスから製作された映画であり、全くコミックスの方は未見なのでなんとも言えませんが、原作ファンの方でも満足できる仕上がりなのではないでしょうか。映画ファンが見ても、時間が経つのを忘れたほどです。    50代以上の方、40代以上の方ならば、そして30代以上の方でも見ただけでも引っ張られていってしまう映像が数多くあります。何気なく配置されている看板や小物を見ただけで、その時代へタイムスリップしていってしまうのです。ノスタルジアですね。  東京タワー、蒸気機関車、洗濯機、白黒テレビ、電気冷蔵庫(昔は氷式)、はじめてみるコカ・コーラ(なんだそりゃ?しょうゆみたいなもん、のめるか!といってしまう鈴木オートは最高!)、フラフープ、野球盤、富山の薬売り、少年冒険小説、力王たびオート三輪、ラヂオ実況の「長嶋対金田」、『おーい 中村君』、『ダイアナ』、そして空手チョップの力道山。  羅列するだけでも響いてくる言葉とイメージが多くあり、それらが多い人ほどこの作品にはまっていけるのではないでしょうか。イメージが示される度、瞬間瞬間に、かの事物に対する思い出が蘇り、しばらく作品から離れていってしまいました。  寄り道できる映画は楽しい。普通は集中して見るのですが、この作品はコメディということもあり、気楽に自分の中にある思い出の世界に寄り道できます。なんの捻りもない、いわば直球の演出もここでは気持ち良い。  娯楽の王道を行く作品に仕上げた監督の手腕は素晴らしい。観て楽しいというのが映画の基本であり、活動写真の基本です。展開が誰にでも読める映画であっても、見せ方が良ければ、皆が納得しながら見続けられるのです。  とかく捻りがないとか、善人ばかりで現実味がないとか言ってしまう人もいるかとは思いますが、思い出を美化して何が悪いのでしょうか。ファンタジー・コメディに現実味を求めるのは不毛です。  最初は土台だけしかなかった東京タワーが徐々に巨大に高く聳え立っていく様子は雄大であり、わが国にあった上昇志向と高度経済成長の象徴としても相応しい映像でした。しかもこの特撮はでしゃばらないのです。スタッフとしては本当はもっともっと見せたいのだが、自制の効いた演出により、現実味が与えられているように思えます。  最後に見ていて、印象の強かったシーンをひとつ。吉岡が小雪に結婚を切り出すくだりがあり、最初二人で隣り合って仲良く座って呑んでいたのが、小雪が立ち上がり、カウンターの中に入り、距離を置いて、再び吉岡と向き直るという場面があります。心理学的に見れば、興味深い考察が可能かも知れませんね。 総合評価 86点 ALWAYS 三丁目の夕日 通常版
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