良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ALWAYS 三丁目の夕日’64』(2012)大人気シリーズの第三弾。3D作品として登場!

 今年、映画館での二本目。邦画大人気シリーズの第三弾で、前二作ではまだ可愛らしかった須賀くんをはじめとする子役たちの現実的な成長等もあり、おそらくはシリーズ最終話、もしくは区切りとしての位置付けで製作されたのがこの作品のようにも見えます。  今回は吉岡秀隆の茶川家と堤真一の鈴木家の各主要キャストの別れと出会い、そして住み慣れた夕日町三丁目を離れて、新しく人生を始めようとするエピソードが中心になっています。もし続くとすれば、スター・ウォーズ・シリーズの三部作が終わり、新たなるプリークウェル三部作を始めるのだろうか。ただしファンがついて来るかどうかは不明です。  昭和の良かった頃の良いエピソードばかりを集めている映画なので、昔を美化しすぎだという辛口の意見もあるでしょう。じっさいこの頃の日本人は朝から晩まで一日中、年がら年中働き続けているのが普通で、残業セクハラ当たり前、休日出勤や飲み会に出席しないと出世できない時代で、排気ガスや工場の黒煙で健康被害が出ても無視される風潮が強い雰囲気でもある。
画像
 街にはチンピラや米兵が闊歩し、生活もはなはだ不便で、街の治安もまだまだ悪い。そういう真実が一方であったとしても、せっかくお金を払って映画館まで観に来ているのだから、嫌なことを二時間だけでも忘れて、懐かしさを心から楽しめる作品が今の日本にはあって良いし、必要だと思います。  ノスタルジーを見せる映画でありながら、この作品は最先端の3D映画でもある。では3Dは機能しているのかと疑問に思う方もいるでしょうが、この作品は立体的な演出を映画館で観る価値があります。  そもそも3D作品には二種類あり、企画段階から3Dとして測量チームを加えながら、きちんと製作されたものと後から流行に便乗して無理矢理3Dにしたものとが混在している。この手の作品での3Dは平面からそれだけが飛び出ているので違和感しかない。
画像
 また3Dにする必要性を感じないものがほとんどで、映画館を出ていくときに「3Dって楽しいな!」と思えたのは正直言って、先駆者であるジェームス・キャメロンの『アバター』のみでした。『アバター』に関しては3Dで見ないと無意味な作品でした。  これ以降、いろいろと多くの3D作品を見ていて、もっとも不満に思ったのは一番立体的に浮き上がっているのが字幕で、肝心の画面は平たいままで、立体感がまるでないということでした。  字幕こそ引っ込んでいて構わないので、見せたいところをきちんと処理する技術がないのならば、通常通りの作品を公開すべきだと何度も思いながら映画館を後にすることばかりでした。
画像
 『アバター』以来、10作品以上は3D作品を映画館で見てきましたが必要性を感じたのはこれだけでした。今回、『ALWAYS三丁目の夕日』が3D作品になっているのを知らずに、普通に観に行きました。  そして、着いた時間の関係上、3Dしか見られなかったので、仕方なく割り増し料金を払いました。結果的には先入観もなかったことがプラスに働き、素直に楽しめたので、立体的演出の出来の良さに驚きました。  下手な洋画の3Dよりもよっぽど素晴らしい。見所をいくつか書いていきますので、どうせ見に行かれるのであれば、少々お値段は高くついてしまいますが、3Dをオススメします。
画像
 まずは冒頭で子供たちが飛ばしていたゴム動力の飛行機が風に乗って、どんどん高く大空に昇っていく。このとき舞台となる夕日町三丁目の風情と全貌を捉えながら、まだ路面電車が走っている街並みを立体的な映像でゆったりと見せていく演出で観客を物語世界にぐいぐいと誘い込んでいく。  このシーンは序盤最大の見せ場に繋がっていきます。大空に昇っていく飛行機の視点から物語全体の俯瞰の視点に変わり、この視点は東京タワーのてっぺんまで昇っていくというお決まりではあるものの、みんなが一度は見たかったポジションに観客を連れていく。つかみは上手くいっています。  このシーンでは3Dの楽しさをもっとも堪能できます。3Dメガネを掛けて、映画館でこのシーンを見ると、自分に向かって東京タワーのてっぺんが間近に迫ってくるのです。劇場でしか楽しめない巨大スクリーンでのアトラクションなので、後々にDVDが発売されても感慨が全く違うシーンになってしまうでしょう。
画像
 たぶんはじめて3D作品を見るであろう高齢者には楽しい体験となるでしょう。前回の『ALWAYS 続・三丁目の夕日』のオープニングでは東宝スコープが映し出されたあと、昭和の大怪獣ゴジラが東京の街に襲い掛かり、住人たちが逃げ惑うという特撮ファンには懐かしい下りがありました。  毎回楽しませてくれるオープニングで今回は3Dを選択しています。高齢者が多いと予想される観客の集中力を削がないようにポイントというかアクセントとして3Dを使用している。  次に印象的だったのは日常生活の中でよくあった光景を3Dで見せてくれた点でした。これを不要と見るか、あって良いと見るかは人それぞれ違うのでしょうが、個人的には楽しく140分以上を過ごせましたので、3D演出を好意的に捉えました。
画像
 1964年の夏、つまり東京オリンピックがあった日々のワクワク感だけでなく、何気ない生活のなかでの懐かしさを表現しているシーンが多々あります。  そのうちのひとつはまだ舗装されていない河原道を歩いているときに我が世の夏(春?)を謳歌するようにブンブン飛び回るとんぼの大群が画面一杯に横切っていくカットでした。田舎にはまだ残ってはいますが、都会では見ることが出来なくなってしまったこの風景には懐かしさを感じます。  堤真一森山未來を殴り倒すシーンにも3Dが使われていて、この演出はまるで『巨人の星』で星一徹がちゃぶ台をひっくり返す場面を何故か思い出しました。鈴木オートの大きくなったガラス扉をぶち破りながら、跳ね飛ばされてくる森山を見ると、実際にこんな殴られ方をすると死んでしまうのでしょうが、ここでは笑える場面として描かれています。
画像
 人間関係がしっかりと描かれた作品でもあり、吉岡と須賀くんとの葛藤と愛情、堤・薬師丸夫婦と堀北真希の深い愛情と結び付きなど新たな人生を歩んでいく様子が語られていく。  吉岡と結ばれた小雪は実生活同様に身重になり、出産する。彼女はまたこじんまりした居酒屋の女将にもなっている。せっかくなので、ハイボールを出してくれたら笑えたのですが、普通に日本酒をつけていました。  まあ、ウィスキーのCMが流れているときにも思ったのですが、あんな感じの女将がいる飲み屋があれば、さぞ流行るだろうなあと思っていましたが、まるであれでは吉岡はひも状態にしか見えない。
画像
 今回は今までと違い、茶川家の人々は三人一緒に住んでいるのが特徴で、前二作品ではあまり家での絡みはなかったと記憶していますが、これが5年という年月の経過なのでしょう。須賀くんには部屋があてがわれ、向かいの鈴木オートに就職した堀北真希にも個室が与えられています。  いまでは個人ごとに部屋があるのは当たり前ですし、下宿でも個人部屋が普通でしょうが、家自体が狭かった時代、雨風を凌げればそれで良いと思われていた時代に各々に部屋があるというのは恵まれた環境といえます。  最終的に厳しい親心を示す吉岡は自分が実父にされたのと同じような方法で須賀くんに別れを告げる。これはこれで良いのですが、実子が出来ると同時にもらいっ子を家から追い出しているようにも見えるので、周りの評判が五月蝿くなりそうです。
画像
 堀北真希森山未來と結婚する。付き合っているうちはキャバレーに出入りし、ヤクザとも親しげに会話をするような大変な遊び人に見えた森山の真の姿が明らかにされ、さらに下町の医者である三浦友和の知り合いだと分かると、途端に周りの人々も彼を信用しだすのがなんだか可笑しかった。  下町って、結構団結力があったのはよく知られていますが、よそ者をすぐには受け入れず、警戒するのも事実です。自分も大阪の下町にかなり長くいましたので、こういう感じはなんとなく分かる。
画像
 オリンピック・イヤーは東海道新幹線が開通した年でもあり、開会式でのブルー・インパルスのアクロバット飛行とともに懐かしいこだまの車両が登場してくる。  今回は東京オリンピックのあった1964年を舞台にしていましたが、もしまた続編を作るとすれば、それは大阪での万博博覧会やアポロ月面着陸になるのでしょうが、それって『20世紀少年』と重なってしまうので、止めた方が賢明なのかもしれません。 総合評価 78点