良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『地球防衛軍』(1957)地味な印象を与えますが、特撮映画史上ではとても重要な作品です。

 2008年も明け、21世紀が始まり、すでに早くも10年近く経った現在、何の予備知識もなく、そして製作順など歴史を考えずに観ていくと、この『地球防衛軍』はずいぶんと地味な印象を与えてしまうかもしれません。  しかし『地球防衛軍』は東宝特撮映画史上では非常に重要な位置付けをなす作品なのである。まずは東宝独自のワイド・スクリーンである東宝スコープに特撮映画としてはじめて取り組んだことを挙げられる。
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 特撮が最も輝くのは劇場の大画面であるが、その大きな画面にさらに横幅が加わったのである。逃げ惑う群集を右手前に、鉄橋を防衛ラインとして応戦する自衛隊を左側に、そして侵略者ミステリアンの兵器モゲラを画面奥に配置して、一度にすべてを見せた構図はワイドスクリーンの特性を上手く引き出した特筆すべき画面作りであった。  戦闘シーンでの特撮と実写の切り替えも素晴らしい。実写の自衛隊員が火炎放射機で応戦するカットからパンして、特撮のモゲラに火炎が噴射されるシーンはこの作品の屈指の見せどころです。火炎放射の角度とスピードのシンクロを意識しながらパンしたカメラ・ワークの勝利ではないでしょうか。
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 これらだけではなく、第一次ドーム攻撃時の戦闘機からの視点ショットもファンを唸らせる。ミステリアン・ドームへ向かい、攻撃して離脱していく一部始終の軌跡をコックピットからの視点で捉えた一連のショットは素晴らしいの一言に尽きる。飛行機を操縦した経験のある映画ファンは稀でしょうが、このショットを通して疑似体験できるのではなかろうか。  視点ショットだけではなく、オープニングでの宇宙空間から星空を挟んでの盆踊り会場へのティルトも凄まじい力技ではないだろうか。これを見たときにはある映画を思い出しました。
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 それは『2001年 宇宙の旅』であり、キューブリック監督の代表作であるこの映画では、猿人の投げた原始の武器である骨(過去)が核ミサイル発射衛星(未来)に変化しましたが、ここでは逆に環状のミステリアン宇宙ステーション(未来)から環状の飾りのついた盆踊り会場(原始)に変化しました。エイゼンシュテイン的に見ると、相似性のある形状なので、双方根は同じであると表現したのでしょうか。  しかも『2001~』では過去も未来も戦闘に明け暮れていますが、この映画では人類はエイリアンに対しては団結し、立ち向かいます。この映像をどう捉えるべきなのか。ミステリアンを文明の成れの果て、地球を文明の隆盛へ向かおうとする原始的な星として見ると、また見方が変わってくるのかもしれません。
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 その他印象に残るシーンに戦車から逃げる自衛隊員のシーンを挙げておきます。実写の自衛隊員とミニチュアの自衛隊員が吸い込まれていく戦車から脱出する様子は上手く出来ていました。いかにも作り物ではあるのですが、こういった細部まで特撮で表現しようとしたスタッフの心意気を買います。 空自の攻撃方向が画面右から左方向、陸自の攻撃方向が画面左から右に統一されているのも心憎い演出であります。  色の使い方にも気遣いが見られる。初期のカラー東宝特撮作品に特有の暖かみのある色調は見ていて落ち着きます。また色の使い分けも見事でした。それは最後のドーム攻撃時に防衛軍最終兵器の発する光線の色が他とはまったく違う赤色で表現されていることである。他は青白いか黄色くらいまでで、真紅の燃え盛るような光線は序盤の山火事以外ではこの時しか使われない。
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 パニック映像を豊かにする、山々や近隣の街を破壊する映像もどんどん進化している。序盤に破壊された後の村の惨状、洪水で破壊されていく町や村はまさに特撮らしいスペクタクル・シーンと言える。この作品での山の崩れ方は『空の大怪獣ラドン』での阿蘇山が崩れていく時よりもさらにリアルに、そして迫力を増して仕上がっていた。  制作には田中友幸伊福部昭円谷英二、そして本多猪四郎という東宝が誇る「特撮黄金の四人」が携わっている。出演者も同じく、平田昭彦河内桃子白川由美志村喬、藤田進、佐原健二、土屋義男ら東宝オールスターズの勢揃いであった。
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 登場してくる兵器やコスチュームのデザインも秀逸で、とりわけメカニックのそれは強く印象に残る。マーカライト・ファープ、空挺α号とβ号、ミステリアンの宇宙基地、メタリックに輝くモゲラなどは円谷作品の中でも指折りの傑作でしょう。  ミステリアンのヘルメットがゴレンジャーみたいではあるが、ゴレンジャーよりもこちらの方が20年近く早いので良しとしましょう。ただちょっとばかりこのヘルメットは大きすぎるような気もしないではありません。  じっくりと二度、三度と観て欲しい作品です。見るたびにジンワリと良さが染み出てくる味のある一本であり、玄人好みの特撮映画です。SF路線を走っていた頃の東宝作品のレベルは他社の比ではありません。『宇宙大戦争』『世界大戦争』『地球防衛軍』、そして『妖星ゴラス』の四本は他とは一線を画す内容であり、大人が観るSF映画として、今も輝きを失ってはいない。また何度も見るでしょう。 総合評価 88点 地球防衛軍
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