良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ウルトラ6兄弟対怪獣軍団』(1974)出来れば、ずっと幻でいて欲しい怪作…。

 制作は1974年で公開は1975年となる、この作品はおそらく今後、円谷プロ正規ルートでの販売経路を通して、日本の特撮映画ファンの手に入ることはないだろう。1970年代に円谷プロが交わした、ひとりのタイ人、ソムポート・セーンドゥアンチャーイとの契約のためである。
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 円谷プロとしては痛恨の契約となってしまったのが、タイ国チャイヨー・プロと結んだ、ある契約だった。それは海外での円谷怪獣ワールドの住人達(『ウルトラQ』から『ウルトラマンタロウ』まで)の二次利用権を明け渡す内容のものである。  現在も国際法廷で争われている、究極の著作権裁判でもある。詳しく知りたい方はグーグルなどで検索して下さい。六十年代後半から始まった『ウルトラQ』に始まり、七十年代にかけて、当時の子供からは圧倒的に支持されていたウルトラシリーズであった。  しかしながら内情は倒産寸前だった円谷プロとしては、金策のために行った窮余の一策ではあったが、30年以上もその契約に縛られてしまい、世界展開で主導権を握れず、結果としてはこの騒動も会社が買収される遠因になってしまったのではないだろうか。
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 では映画として、もっとも肝心な内容はどうだったのだろうか。監督に東條昭平、特殊技術に佐川和夫、主題歌にはささきいさおを起用し、「ぼくらのウルトラマン」を仕上げた。音楽の使い方は非常に雑でウルトラシリーズのいろいろな曲が出鱈目に散りばめられています。  まず何の予備知識もないファンが面食らうのは舞台がタイ国で、出演者もすべてタイ人、お話もなんだか仏教臭い民話的価値観が全編を覆い、ドラマの表現も特撮センスも円谷プロ的ではないことだろう。  この作品の希少価値を知らずに見ていた人ならば、おそらく最初の10分でビデオを巻き戻すか、かけっ放しで他のことをするかもしれません。全編がトイレタイムと呼んでも差し支えない。ビートルズのアルバムで言うと、リンゴ・スターの歌みたいなもんです。  タイ人の会話が日本語に吹き替えられている映画を初めて観ました。しかも使われている声優も滝口順平ドクロベエ!など)、兼本新吾(みみずくの竜!など)らタツノコ・プロ臭が強く、すべてに適当で、あまりにも違和感が大きすぎて、受け入れるまでに10分以上かかります。
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 しかもこの滝口、兼本両人が声を当てているのが、なんだか薄汚れた感じで体臭が強そうなタイ人ZAT隊員(タロウの時の警備隊です!)スーツを着込んだ二人組なので、いきなり脱力します。女性用水着で汚い貯水池で泳いだり、熱いのに何故か長袖ユニフォームを着ていたりして、滅茶苦茶です。「おしおきだべ~!」と言いたい衝動を何度も感じました。  さらにラーマーヤナヒンズー教)というか、昔話というか、西遊記(ほ~んこんに、い~ったら、猿がいた~♪と聴こえた『モンキー・マジック』byゴダイゴ)を見ているような妙な雰囲気も流れ出すので、目が拒否権を発動しても不思議ではない。
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 仏教とヒンズー教がなんだかチャンポンされています。タツノコプロも、ミラーマンも、うる星やつら諸星あたるの声優、古川登志夫)も、めぞん一刻(五代さんの声優、二又一成)も、ウルトラマンも一緒にごった煮状態にされています。  誰が人選したのか知りませんが、酔っ払っていたか、何も考えていないかのどちらかでしょう。まあ、ある意味今では誰も出来ない伝説の声優たちの夢の共演ではあります。  しかも日本語版ではタイトルが『ウルトラ6兄弟対怪獣軍団』と出てはいるが、タイ国版ではその名もズバリ『ハヌマーンと7人のウルトラマン』なのである。何故七人かと言うと日本人の解釈ではウルトラマンウルトラセブンウルトラマン・ジャック(新マンのことです)、ウルトラマン・エース、ウルトラマン・タロウ、そしてゾフィーを合わせての「兄弟」としての解釈なのですが、タイ側から見ると、ウルトラの母も合わせての七人のようです。
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 ところで「ハヌマーンって、誰?」という人がほとんどだと思いますので、簡単に言うと彼はどうやらタイ国の伝説のヒーローで、白い猿なのです。ルックスは最悪で、なんかあったらすぐに無意味に踊りだします。またその踊りのセンスも最低で、こんなのに付き合わねばならないウルトラ兄弟と円谷怪獣が気の毒でならない。  本物のハヌマーンは本来大きくないようなのですが、怪獣と戦わなければいけない今回はウルトラの母のハンドパワーにより、タイ人のガキと融合させられ(ピッコロみたいです!ピッコロの声優さんも実は出ています!)、巨大化する能力を手に入れます。
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 次回の映画では許可を取っているのかは定かではありませんが、仮面ライダーとつるみ、キング・ダークと戦うという節操の無さをさらけ出しているそうです。だってライダーなら巨大化しなくて良いんで、経費が安上がりに済みますからね。
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 Ⅹライダーを苦しめた呪博士が操縦するキング・ダークは山よりでかいほど巨大じゃないかという声も聞こえてきそうですが、しっかり御大ダークも現地タイでは人間サイズに変更されていました。驚愕の映像がこちらです。
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 話に戻りますと、最初はなんだか不思議な太陽絡みの仏教説話から始まり、この時点で日本ファンはどうやらこれは慣れ親しんだウルトラシリーズとは違うことを理解しなければならなくなります。それはともかく、子供たちはコイツを大好きで、よく手を振っていました。
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 物語は主人公で、タイの少年コチャン(コーちゃんではない!コーちゃんならまだ感情移入できたかも…)が仏像泥棒を捕まえようとして失敗し、三発もの銃弾!(そのうち一発は眉間に命中!)を浴びて銃殺されるという日本やハリウッドの常識を簡単に覆すシーンへと続く。  子供向け映画でこれは良いのかと子供心にも違和感がありました。昔、おそらく小学四年生で見たとき以来でしたが、このシーンとハヌマーンの奇妙な飛行シーン(なんだか佐川急便の飛脚のような走っているようなイメージの飛び方で「卍」を意識しているようです)のみ覚えていました。
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 先述したとおり、ウルトラの母のハンドパワーで復活したコチャンではありますが、彼が祝復活の第一にしたことは彼を惨殺した悪党達に復讐することから始まりました。肝が据わっていないというか、超人としてのスケールが小さすぎてげんなりします。しかもハヌマーンに変身する時の効果音はウルトラセブンが変身する時の音と映像スタイルです。
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 さて無事に変身したハヌマーンですが、その復讐方法が凄まじく、「仏様を盗むようなヤツは死んでも構わない!」というスローガンのもと、お灸を据えるなどという生ぬるいものではなく、か弱い人間ひとりひとりを猫が鼠をいたぶりながら殺すように、サディスティックに殺害していきます。タイでは仏像を盗んだら死刑になるんでしょうか?
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 最初のひとりは追いかけられた末に巨木の下敷きになり、圧死させられます。次のひとりも絶対勝てない追いかけっこの末に踏み潰されてしまいます。残った一人はさらに最悪で、さんざん逃げ回った後、サディスティックな笑みを浮かべたブサイクな巨大白猿ハヌマーンに握りつぶされて最後を迎えます。
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 『大魔神』が悪代官をやっつけた爽快感は皆無です。しかもタイ版では握りつぶされる時に血が滴り落ちるそうですが、僕が見たのは日本版なので、さすがにカットされていました。  本来なら、製作者の意図を尊重すべきであるという立場を取る僕でも、さすがにヒーローが行う惨殺を許すわけには行かない。どうせならウルトラ兄弟全員でこのふざけた大猿をやっつけて欲しかった。それほど感情移入できないようなヤツを主役に持ってこざるをえなかった当時の円谷プロチャイヨーの力関係を考えると情けない限りです。
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 ハヌマーンはこのあと怪獣軍団とまずは1対5で戦います。惨殺された泥棒たちの敵をとるために現れたかのような怪獣たち。復讐に手を挙げたのはゴモラ、アストロモンス、タイラント、ドロボン、そしてダストバン(きみはたしかミラーマン怪獣だろ!)でした。  なぜ強いゼットン、バルタン星人、アーストロン、ブラック・キング、メフィラス星人パンドンベムスター、テロリスト星人、キングジョーたちでなかったのだろう。ゴモラ以外はなんだか国際プロレスに来日した微妙な外人レスラーみたいな面子でした。
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 当然ひとりでは勝てない大猿を見るに見かねて、ウルトラ兄弟が駆けつけ、「6対5」の団体戦が行われます。「6対5」です。怪獣よりもヒーローの方が多いなんて奇妙だ。最初からおかしなマッチメークになっていて、常にウルトラ兄弟の誰かが暇を持て余す展開になってきます。
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 ツープラトンやら三人がかりなど通常の円谷作品ではありえない連携技(どう見ても、怪獣たちを虐めているようにしか見えない!)を繰り出し、脱力をさらに強要してきます。卑怯な大猿に影響されてしまったウルトラ兄弟たちもいじめっ子に加担してしまい、収拾のつかない集団リンチ的展開になっていきます。
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 酷いのにも程があると思わせるのがハヌマーンの武器使用です。こいつは集団で襲い掛かるのみならず、三つ又の槍やでっかい角棒を振り回し、素手で勝負している怪獣に当たろうとするのです。さすがにこれにはウルトラ兄弟も一歩引いた目でヤツを眺めている。
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 怪獣たちも酷い。とりわけゴモラが曲者で、声変わりしたのかラドンの声で鳴き、念力まで身につけていました。中途半端な技を得て、かえって見苦しい最後を迎えます。その他の怪獣たちもいたぶられて次々に殺されていく。  怪獣のほとんどが『ウルトラファイト』など問題にならないくらい面白半分に八つ裂きにされ、身を剥がれ、骨をむき出しにされたりするし(しかもここらへんのシーンが笑いどころのように編集されている!)、残ったゴモラは全員に押さえつけられた挙句に卑怯な大猿に棒で殴りつけられた上、刃物でバラバラに惨殺されます。
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        <写真はNGとでもいいたげなウルトラ兄弟のポーズ!>  まるでウルトラシリーズには見えず、どちらかというと残酷描写と宮崎勤のために市場から締め出されてしまった『ギニー・ピッグ』シリーズに近いノリで、集団リンチを公認するかのような演出には閉口させられます。
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 無茶苦茶さが徹底されているのを痛感するのがウルトラマンの行動時間です。セブンはともかく、ウルトラマンは三分間しか地球に居れない筈なのに20分以上、平気な顔をして闘っています。タイは暑いから大丈夫なのだろうか?  最後のハヌマーンによる抱擁シーンもエースがいたり、いなかったりと画コンテも何もあったもんじゃない。ウルトラ兄弟の扱いが非常に悪い。まるで内山田洋とクールファイブ状態になっています。エースは特に影が薄い。いなくてもいいんじゃないか?
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 こんなのはウルトラシリーズとは認められないし、怪獣に対する愛情が微塵も感じられない最低な演出に、金だけが大事だった当時の円谷プロチャイヨーに幻滅を覚えました。永久に葬られても良いと思える珍しい一本でした。  最低映画振りではエド・ウッド監督の『プラン9・フロム・アウタースペース』に引けをとらないほどの劣悪なフィルムの塊です。 総合評価 18点 ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団
ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団 [VHS]