良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ゴジラの逆襲』(1955)前作の大ヒットを受けて製作された二作目はシリアス路線の佳作でした

 昭和のゴジラ映画といえば、監督に本多猪四郎、特撮に円谷英二、製作に田中友幸、そして音楽に伊福部昭を迎えて制作される作品がかなり多い。実際に、この黄金のカルテットが作り上げた傑作映画の『ゴジラ』(1954)は特撮史上のみならず、日本映画史上でも大きな意味を持つ作品でした。  その翌年に制作される続編には当然、彼ら四人が顔を揃えそうなものですが、この『ゴジラの逆襲』では本多猪四郎伊福部昭が抜け、代わりに小田基義が監督に、そして音楽を佐藤勝が書き上げました。  作品自体は前作同様、大人向きのシリアス路線を継承したため、甘さと浅さはありますが、十分に鑑賞に耐える作品として仕上がっています。音楽も伊福部音楽とは一味違う独特な世界観を持っていて、違いを楽しむには格好の作品です。特撮映画音楽も作り手によってかなり違った印象を観客に与えてくれる良いテキストかもしれません。  全体の仕上がりとしては全体ほどのインパクトを望むべくもなく、地味な印象が付きまといます。小田監督が淡々と冷静に撮り上げたような感じでした。彼が果たしてこれを撮りたかったのかどうかは定かではありませんが、どこか冷たさが画面を支配している。  シリアス物の割りに俳優たちで印象に残るのは千秋実くらいで、他の人の印象は驚くほど薄い。それはドラマ部分の演出が甘いのと俳優たちの力を引き出せなかった監督に責任があると言わざるを得ない。大スター・ゴジラを活かすためにも「共演者」たちの頑張りがもっと必要だったのです。  続編物には本来成り得なかった終わり方をした前作でしたが、お金が大好きな東宝は何事もなかったかのようにセカンド・ゴジラを登場させました。この二代目こそはデストロイアと戦って過労死するまで、四十年以上怪獣映画界をぶっちぎりでリードし、親会社である東宝を潤し続けた大スターでした。  記念すべき大スター、二代目ゴジラの初出演作がこの『ゴジラの逆襲』だったのです。そして、この作品以降ゴジラは「対戦物」の歴史を歩んでいく事になります。プロレスの興行のように、毎回強敵怪獣(レスラー?)と対戦し、各地を巡業しながらファンを開拓していきました。  東京デビューした初代を参考にしたかは知りませんが、二代目の顔見世興行は大阪で行われました。歌舞伎や芝居のメッカである大阪を選んだのは偶然だったのでしょうか。ミナミ、京橋、天満橋あたり?を気持ちよく破壊するゴジラはヒールの役割を十分に発揮しました。  今回そのゴジラに差し向けられた第一の刺客は四足怪獣アンギラスでした。渋い寝技の達人にして熟練の畳職人のような容姿を持つアンギラスは地味な二作目に相応しい対戦相手だったのではないだろうか。最初からキングギドラキングコングを出してしまうと、後が続け難くなりますので、この選択は正解です。  スーツ・アクターが中に入るので、どうしても後ろ足が気になってしまいます。このスーツというスタイルで特撮を使うのであれば、四足怪獣は出すべきではありません。わざわざ四足怪獣を出さねばならない意義を見出せないのです。もちろんアンギラスに恨みはなく、その職人振りは好みのタイプではありますが、後ろ足は興を殺ぐ。  それはさておき作品中で最も恐ろしかったのは、前回の破壊の様子を8ミリに収めたサイレントの記録フィルムを対ゴジラ関係者たちが、締め切った暗がりの部屋で息を潜めながらゴジラの破壊の一部始終に見入るシーンでした。『ゴジラ』(1954)がサイレントでもしっかりと成り立つフィルムであることを証明する映像ではないでしょうか。  長い間、ゴジラ好きを自認する人ほど、監督を務めるのが本多猪四郎でない場合には一抹の不安を覚えてしまいます。小田基義監督はその後、ゴジラ作品を撮ってはいませんが、ご本人としても自分には向いていないと思いながらやっていたのでしょうか。  シリアス路線を継承し、暗闇を上手く使い、怪獣映画というB級作品の趣はしっかりと出せてはいるのですが、東宝にとってはこれはB級ではなく、会社が抱える大スター、ゴジラの続編なのです。監督が口を差し挟む余地がほとんどなかったのかもしれません。  いつもと違う要素はもうひとつありました。それは音楽に起用されたのが伊福部昭ではなく、佐藤勝だったことです。とかくゴジラを長く見ている者ほど、伊福部昭を神聖視しがちですが、佐藤勝が付けた音楽も決して悪くはありません。伊福部のようなミステリアスな雰囲気はありませんが、力強い音楽でした。むしろ今回のような地味な作品には伊福部音楽ではゴージャスになり過ぎて、かえって合わなかったかもしれません。  作品を通して観た場合、どうしても見せ場に欠ける印象が強いのは否定できない。アンギラスとの決戦を作品の中盤に持ってきてしまい、しかもあろうことかアンギラスを倒してしまったために、作品のクライマックスに軍用機との戦いを持ってこざるを得ませんでした。これは監督だけではなく、脚本のミスであり、製作サイドのミスである。  また軍用機との戦いもゴジラを退治するのではなく、あくまでも氷の中に閉じ込めるだけというのはあまり締りがない。前作で使用された対ゴジラ兵器であるオキシジェン・デストロイヤーのような新兵器も全く登場せず、通常兵器と特攻精神のみでゴジラに当たる空自には失望します。  雪に埋もれるだけという納得の行かない終わり方で、観客がすっきりとした気分で映画館を出れない作品に成り下がりました。怪獣映画はスカッと終わるべし。  まあ、後々思うと、このような終わり方をしても、どんどん続編を出し続けて行ったのはそれだけゴジラを観たいという観客が多かったのでしょう。以後、二代目ゴジラはヒールで登場する時にはほとんど最後は海に飛び込んでそのままというエンディングばかりになります。  ベビーフェイス転向後も、ひとりでは勝てない相手(つまりキング・ギドラ)と戦うときはいつも「両者リングアウト」、「時間切れ引き分け」、3対1とか2対1(酷い時には集団対1)のハンディキャップ・マッチを連発していく。シングル・マッチでキングギドラに勝つのは1991年まで待たねばならない。アンドレ対猪木のようです。    対戦結果 ゴジラ(二代目)対アンギラス 噛み付きでゴジラの勝ち(大阪城前) 一勝一敗(初代、二代目合算で) 総合評価 56点 ゴジラの逆襲
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