『クイック&デッド』(1995)サム・ライミ監督らしいカメラワークと無意味に豪華な俳優陣。
1995年公開のサム・ライミ監督作品がこの『クイック&デッド』という西部劇でした。一体何故『死霊のはらわた』を撮った彼が西部劇というもはやまったく作られなくなって、廃れてしまったジャンル映画を製作しようと思ったのであろうか。大いなる謎である。
西部劇を敢えて彼で撮るのであれば、よりB級テイストやマカロニの臭いのする血生臭いものを期待してしまいます。まさかあのようにあっさりとサラサラとした作品を撮り上げるとはまったく思っていませんでしたので、ある意味新鮮ではありました。
オープニングの流れは素晴らしい。主人公シャロン・ストーンをまずは捉えるカメラ、クレーン・ショットを使って彼女から徐々にズーム・バックして行き、金塊を探している荒くれ者にパンしていく。彼女がこの危険な男に気付く前に、彼女の存在に気付いた彼にカメラの視点は譲られて、彼の目とカメラの視点が同化し、彼の視点で物語を転がす。
つまり彼女を銃で狙う彼の視点に移っていく。そして彼女を銃撃する。彼女は倒れるが、それは罠であり、男が油断して近づいた隙に、反対に彼を殴りつけて失神させる。その瞬間以降、カメラの視点は彼女の視点と同化する。
オープニング・シークエンスでのカメラワークと視点の変化の流れ方を見たときにはいったいどんなに素晴らしい西部劇を撮ったのだろうかとワクワクしながら観ていたのですが、徐々に冷静に作品を観ている自分に気がつきました。
クロース・アップを多用して、緊張感を作り出すのは良いのですが、あまりにも多すぎるために徐々にクロース・アップの強さが薄れていく。一応撃ち合いをするときには引きの画面になり、ガンマンの孤独と公平な地平(向かい合う二人の前には何者も邪魔できない空間が広がる)が示される。これは良いのです。
ただクロース・アップへの入り方がどうもあざと過ぎる。急速にズームしながらクロース・アップして行くやり方にはあまり感心しません。もともとズームという機能自体が好きではないので、あの機能を入れられるとどんどん作品から引いてしまうのです。あの動きはいかにも人工的なテクニックなので、馴染めない。もちろん効果的な場合もありますが、多用されると正直きついテクニックのひとつです。あんな動きは目にはありませんしね。
好みではないテクニックもありますが、サム・ライミ監督は見せ方が上手い監督の一人であることは間違いありません。流れるようなオープニング・シークエンスの作り方でも明らかです。色彩感覚にも優れていて、最初は赤土色や砂の突き放したような乾いた色彩しかなかったのが、キャラクター達に人間味を加えていく過程において、雨、嵐、暗闇を使い、だんだん明暗のコントラストをはっきりさせていき、豊かな色合いが見えるようになっていく。
物語そのものは特に印象に残るものはありません。ガンマンたちがひとつの町に集い、殺し屋ガンマン選手権(オープン参加)を開き、勝者を決めるというだけという縦軸に、父親の敵を付け狙う主人公と元悪党で今は改心して牧師をしている男が組んで、互いの利害が一致する町の大立者を殺すという横軸が絡んできます。まあありふれた筋書きではあります。
しかしこれはただのB級映画ではない。俳優陣が無意味に豪華なのです。大立者の悪党を演じるのはジーン・ハックマン、彼の息子で早撃ちの名手を演じるのがレオナルド・ディカプリオ、牧師のガンマンを演じるのはラッセル・クロウ、そして復讐に燃えるヒロインでこの映画の主人公を演じるのがシャロン・ストーンでした。
この殺し屋ガンマンたちの繰り広げる「早撃ち天皇杯」というかチャンピオン・カーニバルには大笑いします。メキシコのエースの殺し屋、黒人の賞金稼ぎ、早撃ち若造(ディカプリオ)、大悪党(ハックマン)、不死身のインディアン、親子連れの賞金稼ぎ、元殺し屋の牧師(クロウ)、オープニングで死に損なったならず者、そして謎の女ガン・ウーマン(ストーン)ら16人がトーナメントで殺し合いを勝ち抜いていくスタイルはK1のようでもあり、プロレスのようでもあり、かれら殺し屋各々に個性を与えて、それぞれに見せ場を与えています。
特に準決勝のハックマン対ディカプリオ、クロウ対ストーンの対決は作品での大きな見せ場です。このときの対決が、後のクライマックス・シーンでの布石になっています。
しかしまあ、もっとも凄いのはジーン・ハックマン以外の人たちがすべて作品世界に合っていないことです。ハックマン演じる悪党は素晴らしい出来なのです。しかし当時のディカプリオは西部劇に出てくるにはあまりにも軽すぎて笑いそうになります。
ラッセル・クロウに至っては彼の魅力の半分も出せていなかったのではないだろうか。「動き回ってナンボ」の彼をずっと噴水の前に繋いでしまっているのはナンセンスです。そして誰よりも作品世界にマッチしていないのがシャロン・ストーンその人でした。
女ガンマン?を演じるには美しすぎるし、貴族を演じるには品がなさ過ぎる。プレイメイトのコスプレを髣髴とさせる彼女は男性ファンとしては嬉しいところかもしれませんが、この作品での演出は男の観客も女の観客も納得させられない。
非常に使い難い女優をブッキングしてしまったのではないでしょうか。いったいサム・ライミ監督は本当はどんな西部劇を撮りたかったのだろうか。「もう1本撮ってくれませんか?」と言いたい。彼の持つカメラワークを観ると、これよりも素晴らしい作品を撮る可能性は高い。これ自体も悪くはない作品です。
総合評価 63点
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