良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

映画バカ一代!映画が人生!オタクを超越する人々『シネマニア』(2002)

 「シネマニア」とは映画マニア、もしくは映画オタクのこで、本作品は5人の映画バカを追い続けたドキュメンタリー映画で、舞台はニュー・ヨークです。5人はそれぞれまったく違う生活環境におかれていますが、映画に懸ける情熱は映画バカ、もしくは映画の清教徒としか言いようがない。

 彼らにはルールがある。

1.映画が第一なので、定職を持たない。

2.観る作品は厳選する。

3.劇場で観るのが映画である。

4.日に5本は観るので、映画館をハシゴするために最適なルートを研究する。

5.館内の席取りにはこだわりがある。

6・他人とツルまない。

7・自分の価値観だけで動く。

8.トイレは必ず先に行っておく。

9・映画館の日程を完全に把握する。などなど。

 凄いですね。何人かは生活保護を受けながら、このような暮らしをしています。ではどうやってやり繰りするかと言えば、ニューヨークには多くの名画座があり、それをフルに活用します。設定料金も大人5ドル程度というように、かなり低価格で映画を観ることができるので日本とは大分と事情が違うのです。

 さらにMoMa(近代美術館 Museum of Modern art)や英仏会館の会員になると、無料で頻繁に開かれる名作映画の上映を楽しめるようなのです。ゲイ週間や日本週間など色々とテーマを持った映画祭を美術館が企画しているようで、意図のあるラインナップの作品群を纏めて観れるようです。うらやましい!

 ちなみにロード・ショーは9ドル、シネコンは15ドル~25程度らしいので、これは日本と比べても安いとは言えません。どこの国も新作は高いんですね。彼らはシネコンが大嫌いのようで、行ったとしても、どうにかズルをして、一本分の料金で何本も観てしまう(バレると警察行き!)という荒技を平然とした顔で行います。

 生活スタイルが映画のみを追求していくために、その他の全ては破綻しています。部屋は散らかりっぱなし、服は同じものばかり、常識が通用しない、映画を沢山観るためだけにニューヨークに引っ越してくる、食べるものは健康にまったく配慮しない。映画を観ている時にトイレに行きたくないためだけに野菜をまったく食べない者もいる。

 5人の趣味と姿勢もバラバラで、ヌーヴェル・ヴァーグに異常に拘る者、B級作品以下のクズ映画に愛情を注ぐ者、冷静に何でも観る者、コメディとミュージカルを観続ける者、一本の映画を観るにも情報を十分に仕入れてから臨む者とバラエティに富んでいます。

 一致するのは映画を観続けているということのみです。遺産を受け継いで、働かなくとも映画を観続けられるという恵まれた環境にいる者も中にはいますが、ほとんどの人々の生活は破綻している。映画の行者、映画の清教徒たちの荒行を見る思いです。

 8ヶ月で、1000本を軽く超えると豪語する人たちなので、通常の映画好きというレベルではありません。観なければいけないのだという強迫観念を持った人たちなのです。心理学的に言えば、十分に病気なのかもしれません。映画もインプットするのみで、人に話すとか文章に書くとかいうようなアウトプットがまったく欠如しています。

 個性が出ていて興味深かったのは館内での席取り、つまり座り位置がそれぞれ皆違うことでした。一番後ろの真ん中、真ん中の端、ど真ん中、前から二列目の真ん中などに分かれて座る様子は笑えます。

 普段はほとんどコミュニケーションを取らない連中も、映画の話題を向けられれば、持論を展開し、楽しそうにしゃべる様子には哀しさを見ました。生活保護を受けている関係上、家具や電化製品も貧弱なものばかりで、部屋でビデオを見るときにテレビにはすでに帯状ノイズが出たままブレもある状態だったのには驚きました。音響も最悪でした。

 これは映画評論家の普段の生活ではなく、映画バカのありのままの実態なのです。映画にとりつかれた人々の現実の姿を抉り出している悲劇的ドキュメンタリーなのですが、観ているとどうも笑えます。それはただ単にブラックな笑いが充満しているというだけではなく、彼らの人間性の善良さもきちんとフィルムに焼きついているからでしょう。

 かといって映画にはまったく妥協を示さない。プリント状態が悪いといって、映画館にけちをつける。色の補正が最悪だ、上映環境が悪い、スタッフの態度が悪い、考えて楽しむ映画は糞以下だ、プリントの上下にノイズがある、ピントが合っていない、などと言いたい放題。

 「現実からの逃避は悪いことだと思うか?」と問われても、「現実世界にいるだけで、空想世界に入ってこないのは人生の無駄だ。逃避しながら映画を観るのは健全だ!」と言い返す始末です。

 映画を好きでいることと、映画を理解することの違いはなんだろう?

 映画を楽しむことと、映画に翻弄されることの違いはなんだろう?

総合評価 72点