『倫敦の人狼』（１９３５）狼男、月に吠える！後のスタイルの基盤を作った作品。

　サイレント映画はひとまず置いて、トーキー映画に移行してから初となる狼男映画となったのがこの『倫敦の人狼』です。そして狼男といえば、月に吠える怪物を想像します。ここで登場する狼男ははじめて月に向かって吠えるという見せ場を作りました。 　余談ではありますが８０年代に人気のあったへヴィメタ・ロック歌手の一人にオジー・オズボーンという人がいました。彼の発表した作品に『月に吠える』というアルバムがあり、狼男映画を見る度に彼のこのアルバムを思い出します。 　オジーのシャウトする「ｙｅａｈ！！！Ｂａｒｋ　ａｔ　ｔｈｅ　Ｍｏｏｎ！」が「ぼくばかだも～ん」に聞こえてしまい、カッコ良いのだけど必ず笑ってしまう不思議な曲でした。あのころのへヴィメタ・ロックのなかではクワイエット・ライオットの『カモン・フィール・ザ・ノイズ』、ナイト・レンジャーの『フォー・イン・ザ・モーニング』、元シン・リジィのメンバーであるゲイリー・ムーアとフィル・リノットの『アウト・イン・ザ・フィールズ』なども好きでした。 　噛まれると、噛まれた者も狼男に変身するようになるという設定はドラキュラ伝説に基づいたものでしょう。そもそものルーツは伝染病か狂犬病だったのではないでしょうか。乱交によって性病を患った者たちへの戒めも含まれているのかもしれません。 　男が女に迫ろうとする時に、男は狼に喩えられることも多いが、過度の性欲は人生を破滅させてしまうという隠喩も言外にあるように思えます。 　食虫植物をモンタージュするのは後に現れ、生血をすする狼男の登場への前振りである。ムルナウ監督の『吸血鬼ノスフェラトゥ』でもこのシーンがありましたが、明らかに模倣でしょう。舞台もドラキュラではルーマニアのトランシルバニアだったのが、チベットの奥地の秘境に移されています。 　この食虫植物のシーンで思い出した映画がもう一本ありました。それはロジャー・コーマン監督の怪作『リトルショップ・オブ・ホラーズ』です。コーマン作品で用いられた食虫植物のデザインが、まさにこの映画での食虫植物のデザインと酷似しているのです。 　オードリーＪｒのオリジナルをここで見たのは驚きでした。間違いなくコーマン監督は何らかの形で、この映画を観ています。ちなみに設定ではこの植物はマダガスカル出身だと説明されていました。 　さらにもう一本デザインが酷似しているのは『スターウォーズ　ジェダイの帰還』で出てくる砂漠の怪物植物サルラックです。タトゥイーンでボバ・フェットを呑み込んだあの植物です。 　テクニックとしてはすでに１９３５年にはホラー映画でよく見受けられる視点ショットが使われていたようです。パンからのドリー、フェイド・アウトからフェイド・インでの繋ぎも使われていました。ジャック・Ｐ・ピアースの特殊メイクが冴え渡っています。 　狼男の変身シーンでの工夫としては中庭と二階建ての建物の柱を上手く使い、変身を切れ目なく見せています。向かいの建物にカメラを置き、そこから科学者（変身前）をロング・ショットのカメラで捉え、夜の暗闇で中庭を歩いていく彼の動きに合わせて移動撮影し、途中にある柱に来たときに暗転させ、カットを割る。 　割った後には科学者が変身した狼男に変わっていくのです。しかも一発で変わるのではなく、三本くらい柱を通過する毎に少しずつ変化していくというのは凝っています。ストップ・モーション・アニメーションを予算的にも時間的に使えない低予算作品でもこういったカットの割り方の工夫によって十分に鑑賞に耐えられる演出を施せる。 　現在の目で見れば、他愛無いことかもしれませんが、製作された１９３５年という時代においては十分に優れたテクニックでした。少しでも自然に変身シーンを見せたいという強い意志を感じます。 　興味深いのは襲うのが最初こそ年老いた守衛の男だったのが、徐々に女だけを狙いすませて襲うようになり、三十代の屈強な男にはまったく敵わないことです。卑怯な強姦魔のような存在に成り下がっています。 　最後に狼男に変身した科学者が狙うのは自分の妻でした。年老いた科学者と若い妻という設定でしたが、この妻は彼に満足せず、若い魅力的な男と浮気をします。変身した科学者は男に挑みかかりますが、彼を倒す事ができずに逃げ出し、彼らが格闘している隙に家へ閉じこもった妻に襲い掛かろうとします。もう少しで妻に噛み付こうかとしたところで警察が現れ、彼を射殺します。 　変身しても若い男には敵わないというのは哀しすぎます。哀愁が漂う正統派のモンスター映画として作品は閉じられる。 総合評価　６１点 狼男 レガシーBOX

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