良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ハリウッド恐怖生物大全』(2004)映画史上に欠かせないパニック映画の主役たち。

 ハリウッドのみならず、古今東西各国の映画には身近な様々な生物たちが恐怖の対象として描かれてきました。わが国でも化け猫に代表されるように猫に対する恐怖映画が多く作られてきました。身近なペットである犬、猫、鳥だけではなく、昆虫などを含めると特撮映画やパニックで活躍した生物は数え切れないほどこれまで多くの作品に登場しています。

 昆虫などが巨大化して、平和な田舎町に住むアメリカ人社会を襲う設定を持つ映画は、冷戦時代の核戦争や共産主義思想への恐怖と無縁ではない。東側への恐怖を間接的に描いた作品が50年代に集中しているのはけっして偶然ではない。

 そして、この作品は何気なく身近に存在している生物たちがいかにホラー映画や特撮映画に貢献してきたかを知るための入門作品といっても良いでしょう。蝙蝠、狼、ゴキブリ、蜘蛛、蠍、鴉、蜂、鼠、犬、猫、鮫、ピラニアなど映画の主役として登場する生物はかなり多い。

 蝙蝠は言わずと知れたドラキュラ映画のお約束ですし、狼男映画にも狼の遠吠えは欠かせない。大蜘蛛は『ジャイアント・スパイダーの大襲来』や『タランチュラ』、鴉は『オーメン2』や『鳥』で重要な役割を示す。『ブラック・ダリア』にも死の象徴として出てきます。墓場のイメージに最も適した鳥かもしれません。

 鼠と言えば『ウィラード』『ベン』は外せません。『吸血鬼 ノスフェラトゥ』のイメージも後に有名になる蝙蝠ではなく、伝染病を運ぶ不吉な動物である鼠です。犬ならば『クジョー』『オーメン』、猫ならば『キャット・ピープル』を忘れられない。

 水の中の生物はさらに不気味に描かれることが多い。『ジョーズ』『ピラニア』『オルカ』『アリゲーター』はこのような水中生物の恐怖を描いた代表作ではないでしょうか。未知なる水中は人間の能力を超える水中生物が覇権を握るテリトリーです。

 身近なペットが恐るべき強敵に変貌するのは心理的にも強いインパクトを観客に与えます。『クジョー』を観た観客は犬に対する恐怖を覚えるかもしれません。また蝙蝠や狼を見れば、ドラキュラや狼男のイメージが増幅されるかもしれない。

 サスペンスの神様であるヒッチコック監督の描いた『鳥』の恐怖も忘れられません。人間が製作する映画では動物愛護協会などの反応を考慮してか、動物達は大抵の場合は可愛い対象として動物たちを描く事が多い。しかし強烈なイメージを与えようとすれば悪役になるのも避けられない。

 これからも数多くの恐怖生物映画が出てくるとは思いますが、生物達の圧倒的な数量、尋常ではない巨大さのみの作品では記憶には残りえない。心理的な恐怖を描いてこそのパニック映画、特撮映画の成功であることを製作者の人には理解して欲しい。

 この作品ではかつてのパニック映画の出演者や監督たちも出演していて、ティッピ・ヘドレン、ジョン・ランディス、ジョン・カーペンターらがコメントを寄せています。ティッピ・ヘドレンは『鳥』撮影時の苦労話などを語っていて、ヒッチコック監督ファンとしては嬉しい限りでした。

 CGで製作された何万匹の鼠や昆虫が襲ってきても現実味がないと気持ち悪いだけで恐くはない。残虐なシーンにしてもしかりです。ありそうで恐いという感覚を刺激してはじめてその映画は記憶に残り、それを見た子供たちにトラウマを与えるほどの素晴らしいホラーになるのではないでしょうか。

 もともと鼠が苦手だった僕が、かつて『ウィラード』をちょっとだけ見ただけで気持ち悪くなり、未だに最後まで観れないように。

 引用されている主な作品は以下の通りです。『鳥』『ジョーズ』『ピラニア』『狼の血族』『狼男』『魔人ドラキュラ』『吸血鬼ドラキュラ』『大アマゾンの半魚人』『蠅男の恐怖』『放射能Ⅹ』『黒猫』『吸血鬼 ノスフェラトゥ』『ジャイアントスパイダー』『クジョー』『オーメン』『オーメン2』『ウィラード』『ラッツ』『キャット・ピープル』など。

総合評価 53点

日本未公開作品(WOWOWにて放送)