良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『フィラデルフィア・エクスペリメント』(1984)『ファイナルカウントダウン』とごっちゃになってます

 ジョン・カーペンター製作総指揮で1984年に発表されたSF映画です。しかし、どうも1980年公開の『ファイナルカウントダウン』とゴチャゴチャになって覚えてしまっているのがこの『フィラデルフィア・エクスペリメント』なのです。  なんせ設定があまりにも似すぎている部分が多い。どちらもタイムスリップものであること、アメリカ海軍の空母やら軍艦が消えてしまうこと、タイムスリップする際に生じる時空の歪みの描写が似通っていること、最終的に主人公カップルが時空を超えて結ばれること(片方は過去に取り残されて、ともに過去に生きる。もう片方は未来でともに過ごす。)、そして両方とも題名が長ったらしいなど類似点が多い。  ストーリー展開そのものはB級SFのツボをしっかりと押さえています。論理に矛盾が無いように説明を加えていくところはいかにもアメリカ人が真面目に作っているSFらしく好感が持てる内容でした。しかもところどころにタイムスリップした未来に戸惑う浦島太郎状態の主人公マイケル・パレを茶化すくだりは哀しいが、とても楽しい。  海岸に打ち上げられているハイネケン?のビール瓶を見て「おい!ドイツのビールだ!アメリカは負けたのか?」と言ってみたり、オートマチック車の動かし方が分からなかったり、雑誌を読んで「ドイツと日本が味方で、ソ連が敵なのか?」といぶかしんでいる様子は笑えます。またカラーテレビに映ったホラー映画を見て、心の底から驚いている様子も微笑ましい。  ホワイトハウスで演説している当時の現職大統領ロナルド・レーガンを見て、「大統領役をやっているのか?こいつは俳優だろ?」と言ってのけるのもご愛嬌でした。本当に大統領役をやっているだけのほうが良かったかもしれません。  タイムトリップしていく映像の作り方も映画的に分かりやすくなっていて、ぼやけてきたり、色彩がオレンジ掛ってきたり、歪みを出したり、影を多用したりと工夫を凝らしています。時空の穴で使用される超原始的なCG映像には今の目で見ると幻滅してしまうかもしれませんが、あの当時でのB級作品であることを考えると、精一杯だったのは理解できます。  出色の特撮シーンはタイムスリップが終わり、時空の歪みを抜けて、消えていた軍艦が1943年に戻って行ったところで見ることが出来る。時空を超えてきたにもかかわらず、完全に同位置に戻ってこれた訳ではなかったために、金属である甲板に溶けるように引っ付いたまま身動きが取れなくなってしまっている海兵隊員や、耳だけが外界から見えるが、体が完全に軍艦と一体化してしまっている黒焦げの死体とかを特撮で表現しています。  残酷なシーンで、お金もあまり掛っていないとは思いますが、見た目の印象は強烈でした。制作者の意地を感じさせるシーンだったのではないかと思いました。  意味の分からないのは冒頭にあるダンス・ホール・シーンから、秘密を握るような謎の女性が登場して、SFサスペンス的なムードを漂わせていたのに、結局彼女は特に何もしないで消えていってしまうところです。人間そのものをマクガフィンとして使ったのだろうか?  そして今回この作品を採りあげた一番の理由は映画音楽にありました。1984年度公開ということで当然ながら、サントラは当時のロックが多く収録されていましたが、低予算の悲しさか、メジャーなビッグネームの名前は全くありません。  しかしこのサントラにはマンフレッド・マンズ・アース・バンドが参加していたのです。今では聞き馴染みの無い名前でしょうが、ベースを弾いていたクラウス・ブーアマンはビートルズのアルバム『リボルバー』のジャケット・デザインを手がけていたので、知っている名前でした。  1984年当時、FMだったかFENだったか定かではありませんが、一度だけ、彼らが演奏する『RUNNER』というナンバーが掛りました。聴き取れたのはマンフレッド・マンの名前と『RUNNER』という曲名だけでした。  レコード店を必死で探し回り、店の人に「マンフレッド・マンというバンドの新曲で、『RUNNER』という曲が入っているLPもしくはドーナツ盤はありませんか?」と尋ねても、全員が「マンフレッド・マン?聞いたことないですねえ?」と言って、分厚いカタログを調べてくれましたが、旧譜はかろうじてあったものの、新譜の発売予定は無いとのことでした。  当時FM誌にはキャッシュ・ボックスやビルボードのトップ100を掲載している雑誌が多く、その中には『RUNNER』は見事に20位台くらいでチャートインしていました。しかしそれは英語表記、つまりブリティッシュ・インヴェイジョンと呼ばれた、カルチャー・クラブデュラン・デュランが全盛を迎えていたわが国では「発売される予定なんかまったくありませんよ。」というレコード会社からの強いメッセージなのでした。  この曲が『フィラデルフィア・エクスペリメント』のサントラに収録されていることなど全く知らなかったので、FMに掛ったたった一回だけしか聴けず仕舞いになってしまった、個人的な幻の名曲になっていたのです。  その後、タワーレコードがあちこちに出店するようになった80年代後半から90年代前半に掛けて、輸入レコード店や中古レコード店に入ると必ず探し回るナンバーのひとつになっていました。しかしその甲斐も無く、どこへいっても見つけることは遂に叶いませんでした。  その後、だんだんと音楽から遠ざかるようになり、気がつくと初めて『RUNNER』を聴いた日からかれこれ23年もの月日が過ぎていました。  そして先週の日曜日に何気なくツタヤで借りた『フィラデルフィア・エクスペリメント』を見たときにはあまりにも唐突に出会えた喜びに驚いてしまいました。『ファイナルカウントダウン』を先に見ていたために、これとゴチャゴチャになって覚えていたのは事実ですが、まさかこの曲を聞き逃す失態を犯していたとは思ってもいませんでした。  「これ映画音楽じゃねえか!それならサントラ買えば良かったやんか!」と思ってみても後の祭りでした。サントラ盤はとうの昔になくなっているようですし、当時はレコードだし、無理なのだろうと思いつつ、アマゾンで検索しても「そんなんもうないで!」というメッセージが繰り返されるのみでした。  B級テイストに浸りきっていた矢先に突如流れた『RUNNER』には引っくり返りそうになりました。♪It’s underneath the Moonlight Passing Some ;Still Your Heart Beats in the Moonlight like a Drum. and You will Run Your Time,a Shooting Star across the Sky.and You will surely Cross the Line,to Pass on the Frame ~♪   多分誰も知らない「あなたの知らない世界」な曲であるのは重々承知していますが、大事な一曲というのは誰にでもあるのではないでしょうか。早速正体が分かったこの曲をなんとしても手に入れてやろうと思い、グーグルで探し回りましたが、この曲はよほど嫌われているようで、まったくヒットなしでした。「なんでやねん!」  「そうだ!ヤフオクで探そう!」と思い、探し回ってみてもヒットなし。やはり23年の歳月とあまり日本で有名ではないバンドであるために、CD化の話も無かったんだろうなあと諦めました。しかし輸入盤なんだから、誰か物好きが買っているに違いないと思い直し、何日かヤフオクで探していると、ついに30枚以上あるタイトルの中から、彼らの輸入盤ベストCDに収録されているものを一枚だけ見つけました。  他のCDには全く入ってないのには吃驚しました。いわゆるベスト盤ですら、このナンバーを無視し続けているのです。メンバーの誰かが気に入っていないのかもしれませんね。ジェームス・ブラウンも『ロッキー4』で大ヒットした『リヴィング・イン・アメリカ』が気に入らずに、彼のライヴでは歌わなかったそうです。嫌われている曲みたいなのは哀しいのですが、僕にとっては名曲なので、全く問題ではありません。好きなものは好きです!  興奮を抑えながら、入札をすると見事に落札できました。まあ誰も知らない曲だからライバルもいなかったのでしょう。ウキウキして、次の日には入金を済ませ、待っていると一昨日に厳重に梱包されたCDが届きました。  いやあああ!いいですなあ!ネットやってて良かった!と久しぶりに思った今日この頃でした。調子に乗って、今度は『悪魔のシスター』『意思の勝利』を探してみよう! 総合評価 68点 フィラデルフィア・エクスペリメント〈デジタル・リマスター版〉
フィラデルフィア・エクスペリメント〈デジタル・リマスター版〉 [DVD]