『笑う大天使』(2006)上野樹里が出てる、菊地凛子が出てる。で?笑えないなあ…。
内容を知らず、出演俳優だけを見ていると、結構期待できそうな感じのするメンツが揃っているのですが、いざ見ていくと、徐々に脱力に変わっていく作品でした。しかしその原因と責任を、売れっ子女優である上野樹里や今年の超新星である菊池凛子という強力なツートップに転嫁してはいけません。
しかも彼女らに加え、脇にも伊勢谷友介、関めぐみ、そしてナレーターに広川太一郎(なつかしい!ミスターBooや!)などを要しているのです。映画の肝である脚本、演出のレベルが一定の水準に達していないと、恵まれた俳優を持ってしても、作品を台無しにする可能性が高いことをあらためて証明する結果となりました。
原作は花とゆめコミック、つまり漫画が原作のものの映画化です。いつも言っていることですが、漫画というのは完全に画コンテがすでに決定されている訳で、それを映画化しようとするとどうしても無理が付きまとう。原作ファンはもちろん納得できないし、映画ファンも訳が分からないという代物に仕上がることが多い。
原作と映画は別物であり違う作品なのだ、というのはいつも指摘していますが、それはあくまでも小説などのヴィジュアル化されていない原作について述べていることであって、画が予め決まっている原作漫画から、なぜこのような作品を製作する必要があるのかは映画会社の台所事情もあるのでしょうが、映画ファンとしてはそういう部分はあまり理解したくない。
非現実的な世界であるお嬢様学校内でのドタバタを描き切ってくれていれば、あまり不満はなかったのですが、後半に人身売買を企てるイタリア人の悪の組織との対決(意味不明です!)に突然流れ込む展開のあまりもの強引さには呆れてしまいました。
訳が分からないし、観客はフィルムに没頭することなく、ただただ置き去りにされてしまう。まあ、置き去りにされても、特に内容のあるものではないので、気にはならないといえば、それまでなのですが、展開と編集が雑に感じました。
観る人によってはあまりにもチープなCG映像に嫌悪感を持つ人もいるでしょうが、異質で、非現実的で、カラフルな世界観を見せ続けていれば、それもまた狙いとして受け取ることも可能でした。
「ごきげんよう」「ですわ~」など前半の白鳥麗子を思い出させる、お嬢様学校独特の言葉使いや佐津川愛美に代表される浮世離れした登場人物たち、そしてカソリック系らしい独特の習慣とまったりと流れる時間、その異質な環境に急に放り込まれた上野樹里の奮闘振りを描いてくれれば、もっと上質の作品として世に出ることも可能だったのではないでしょうか。
この作品に関する限り、CGは全く必要がなかったのではないかと思います。チープさを狙ったのが裏目に出た感じです。普通に楽しい作品を作れたのに、非常に勿体無いなあというのが実感でした。
違和感のない関西弁を披露した上野樹里には今後も期待できそうですが、この作品では少々キャラクターの設定というか、性格付けがきちんと製作側からされていなかったのではないでしょうか。なにかどことなく作品を引っ張りきれていないような気がしました。
脇で出てくる菊池凛子にしても、まだ名前を上げる前の作品であるため、扱いも普通であり、特に目立った役ではありません。外国で認められてから、自国にフィードバックされるという情けない状況は今も昔も変わりがありません。才能の有無を見分ける感覚が現場スタッフにはなかったのかもしれません。
スト-リー展開自体は雑で、あっちこっちと散らかっている印象が強く、お世辞にも褒められたものではありません。せっかくの素材(俳優)とお嬢様学校という異質空間を得ていながら、あまり「映画」としての標準的な水準には残念ながら達していない。
ダミアン(オーメンかよ!)、ケンシロウ、ラオウ、ナレーションのミスター・Booなど昭和的なネタをチョロチョロ使うのも中途半端で見苦しいのみでした。主な俳優以外はすべての要素において中途半端以下になっています。上野樹里ファン限定で楽しめる、もしくは菊池凛子の出世する前の貴重なサンプルとしては価値があるのでしょう。
総合評価 45点
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