良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ポリス インサイド・アウト』(2006)約30年ぶりに来日を果たした彼らのドキュメンタリー。

 1970年代後半から1980年代前半を駆け抜けたイギリスのロック・バンド、ポリスをはじめて聴いたのは、たしか1979年の『ドゥ・ドゥ・ドゥ・デ・ダ・ダ・ダ』だったと記憶しています。しかもそれは「なんじゃこりゃあ!」としかいいようがない、まるでコミック・バンドのような『ドゥ・ドゥ・ドゥ・デ・ダ・ダ・ダ』の日本語版でした。
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 同じイギリスのビートルズ後期の佳曲『オブラディ・オブラダ』を思い出させた奇妙なナンバーを歌うバンド、それがポリスでした。その後、何度もFMラジオで掛かっていた彼らの名曲の数々は今でも新鮮なままです。最初に買った彼らのアルバムは『アウトランドス・ダムール』『白いレガッタ』の二枚でした。中一だったかなあ…。レコードって、この当時は贅沢品だった思い出があります。買った人に頼んでコピーしてもらうというのが多かったですね。  レコードからテープに録音してもらうのが「コピー」、テープからテープに録音してもらうのが「ダビング」でしたっけか?今と違い、CD(こんぱくとでぃすく?)などはまだSF未来都市のお話で、CD-RもMDもなかったですよ。ということは今では下手をするとUー20(20歳以下)は使ったことも見たこともないかもしれないカセット・テープに録音していたということです。  カセット・テープ(普通はノーマル、保存版やライブはハイポジション、ソニーにはタイプ3(フェリクロム!使ったことなかった!)、高校になってから貴重なレコードをメタルで録音というスタイルでした)に録音するという作業は面倒くさくもあり、楽しみでもありという妙なワクワク感を持ちながら、友だちからLPを借りては録音していました。
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 パンクっぽいジャケット・デザインはあの時代らしいですねえ。なんというかパンクに便乗しようという姿勢には疑問符がつきますが、音楽自体はかなりしっかりとしたバンド・サウンドを聴くことができます。ファースト・アルバムの印象ではセックス・ピストルズ勝手にしやがれ』、レッド・ツェッペリンレッド・ツェッペリン』、ビートルズ『プリーズ・プリーズ・ミー』と並んで、もっとも打ちのめされたファースト・アルバムでした。
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 二枚目のアルバムからはかなり実験的な要素が強くなってきています。こういうスタイルも当時は斬新で、耳ざわりが良い音の抜け方をしていました。オープニングを飾る名曲『孤独のメッセージ』と『白いレガッタ』へのつながり、A面4曲目に何気なく配置された『ブリング・オン・ザ・ナイト』のイントロとコーラスの完成度には舌を巻きました。音の選び方というか、クリーンなサウンドと洗練がどんどん進んでいった過程に制作された、名盤の一つでした。  当時は当然のことながら、馬鹿でかい塩化ビニール製のLPレコードです。シンプルかつ個性的で、エスニックなサウンドが徐々に彼らのスタイルとして認められ、『シンクロニシティ』でサウンドも収益も頂点を迎えた彼らでしたが、演奏されるナンバーのノリそのものが良かったのは初期の作品群でしょう。
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 好きなナンバーもこの頃のものが多く、たまに聴くのもファーストとセカンドが多かったのですが、才気溢れる後期の楽曲もいまだに古くはならない。スティングの重厚でメロディアスなベースとあのなんとも言えないしわがれた深みのある低音と独特の高音の歌声、アンディ・サマーズの抑制の効いたというかスティングに遠慮しているようなギター、スチュワート・コープランドの刻むドラムスの激しさは他のバンドを大きく引き離し、彼らが示したアイデアと洗練された表現にはほとんどのバンドが追いつけなかった印象がありました。
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 この内幕的な作品、『ポリス インサイド・アウト』はもともとスチュワートがデビュー当時から短い暇を探しながら撮り続けていたホーム・ビデオを編集して、一本の音楽ドキュメンタリーとして仕上げられました。  レコーディング風景、移動の模様、イアンとマイルスというスチュワートの兄弟たち(どっちかがA&Mレコードの社長だったと記憶しております)やメンバー同士の会話などは昔からのファンには嬉しい。
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 撮影自体に凝ったものはなく、強いて挙げればライヴ中にドラムスの奥にセットされたカメラが客席の様子を記録しているという点くらいでしょうか。ナレーションもスチュワート自身の手により、付け加えられています。  デビュー当初は楽しげにファンとの交流をしていたメンバーが徐々に彼らに事務的に接するようになり、恐怖すら感じるようになっていく様子は寂しい限りでしたが、世界的な大成功を収めるということはそういうことなのでしょう。  またメンバー間のコミュニケーションも徐々に寒々しくなっていき、スティングが他のメンバーの意見にはまったく耳を貸そうとしなくなっていく様子も撮られている。音楽の質もスティングが興味のあるサウンド作りになっていったのはフィルムを通して見ていても明らかです。
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 収録されている曲は代表的なナンバーばかりなのですが、どれも断片的過ぎて、ポリスのマニア以外の人にとってはただ散漫に聞こえるだけに過ぎないかもしれません。パンク・ロックの匂いがするデビュー・シングル『フォール・アウト』、初期の代表的ナンバー『ネクスト・トゥ・ユー』『ソー・ロンリー』、1985年のライヴ・エイドでも歌われた『ロクサーヌ』などの映像を見るだけでも楽しい。  またポリスのサウンドが完成されたことを音楽関係者に知らしめた『ブリング・オン・ザ・ナイト(ギター・リフのみ)』、コマーシャルな『ドゥ・ドゥ・ドゥ・デ・ダ・ダ・ダ』、スティング自身のトレード・マークともいえる『孤独のメッセージ』、ファンならば『炭坑のカナリア』『トゥ・マッチ・インフォメーション』『ザ・ベッド・イズ・トゥ・ビッグ・ウィズアウト・ユー』を聴けば、思わずニコニコしてしまうでしょう。
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 まだまだ続きます。大ヒットした『高校教師(何故か86年のダサいバージョンの方!)』、セカンド・アルバムのA面トップ『孤独のメッセージ』のつなぎに置かれた『白いレガッタ』、『シークレット・ジャーニー』『マジック』『ワン・ワールド』などのアルバム収録曲も懐かしい。  そして最後のアルバムとなってしまった『シンクロニシティ』から『シンクロニシティⅠ』『ウォーキング・イン・ユア・フット・ステップス』『サハラ砂漠でお茶を』などが掛っていました。その他にも『ホール・イン・マイ・ライフ』『ボーン・イン・50s』『キャント・スタンド・ルージング・ユー』などが断片的に鳴り響いていました。  結果的に彼らが出したアルバムは『アウトランドス・ダムール』『白いレガッタ』『ゼニヤッタ・モンダッタ』『ゴースト・イン・ザ・マシーン』『シンクロニシティ』とたったの5枚である。あとはベストや海賊盤のライブくらいでした。
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 ロック・ミュージシャンのイメージが強かったポリスでしたが、スティング自身にはジャズ嗜好が根底にあり、ポリスというしがらみから逃れるように好きなスタイルで、好きなミュージシャン達と楽しそうに演奏している彼を『セット・ゼム・フリー』『フォートレス・アラウンド・ユア・ハート』などのPVで見たときには複雑な気持ちになりました。
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 長くやることにも価値がありますが、実質的に7年弱?という凝縮された年月にすべてを出し切ったのがポリスだったのではないでしょうか。もっとも、スティングはその後もソロ活動を精力的にこなし、ブランフォード・マルサリスらとサウンドを作り上げた『ブルー・タートルの夢』、CMにも使われた『イングリッシュマン・イン・ニューヨーク』『オール・ディス・タイム』などの本来の活動のみならず、デヴィッド・リンチ監督『砂の惑星』、ガイ・リッチー監督『ロック・ストック&トゥ・スモーキング・バレルズ』で俳優としても活躍しています。
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 ファンだけしか楽しめない作品でしょう。そしてファンである僕は久しぶりに彼らのサウンドを楽しみました。そしてこのプログラムがWOWOWでオンエアされた後に続いたのは来日ライヴ放送でした。さすがに年を取ったなあ、という感慨に浸りました。特にアンディ…。多分今アリスが再結成されたら、こんな感じなんでしょうかねえ…。 総合評価 57点 ポリス インサイド・アウト (JAPAN EDITION)
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