良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『バンテージ・ポイント』(2008)何度も何度も繰り返される巻き戻し…。容疑者8人???

 クエンティン・タランティーノ監督が『パルプ・フィクション』(1994)で大成功を収めて以来、プロットの時系列を切り刻んで、あちらこちらに再配列させて、観客を惑わす映画がかなり増えてきました。その中にはただ理解しづらくなっただけの無意味な作品もあります。
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 もっとも時間の順序を入れ替えたのはタランティーノが最初ではなく、映画の父と呼ばれた、D・W・グリフィス監督の名作『イントレランス』まで遡る。この作品『バンテージ・ポイント』(本来なら、『ヴァンテージ・ポイント』とすべきである。)も時系列をずらす作品群のひとつとして数えられるのであろうが、これは時間があっちこっち移動するのではなく、起点は常に午前11時59分57秒からと決まっている。  どういうことかというと、ここに出てくる主要キャラクターである、TVディレクター役のシガニー・ウィーバー、主人公でSP役のデニス・クエイド、市警察のエンリケが登場し、各々の視点が順番に描かれる。次がフォレスト・ウィッテカーによるソニー・ハンディ・カム視点である。この手振れカメラの視点が一番重要というのはなんだか気が抜ける話ではあります。
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 こうして第五の視点である大統領役のウィリアム・ハート、第六の視点にテロの親玉スアレス、第七の視点として特殊部隊出身のテロリストのハビエル(エドガー・ラミレス)、そして最後にマシュー・フォックスが演じたSPの裏切り者テイラーの視点が来て、あとはラストまではクロス・カッティングなどの手法を用いて、カーチェイスも交え、一気に見せていく。
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 先ほども触れましたように、彼ら8人のキャラクター各々の視点で語られるプロットの起点がすべて午前11時59分58秒から始まります。観た人は何度も巻き戻しと視点換えを執拗に見せられるので、辟易するかもしれない。しかしながら、それほど分かりにくい設定ではありませんし、謎解きも小出しに出てくるので、普通の鑑賞眼を持っていれば、結構楽しく観られるはずです。  八者八様で語られる顛末ですが、いわゆる巻き戻し映像は五回だけで、残りはクロス・カッティング的な処理で済ませている。実際、最初の二回くらいは演出として見ていられるが、さすがに何度も繰り返されるのはクドすぎて、かえってだれてしまう。お話の展開は『ラン・ローラ・ラン』とはまるで違うが、起点が同時刻というのは同じである。
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 この起点から、大統領暗殺未遂事件が起こり(実際は大統領替え玉狙撃事件であり、ある意味ではこちらの方がスキャンダル性が高いかもしれません。)、その大がかりな事件が解決されるまでの時間が少しずつ長く各々の視点で再生されながら、真相へと時間が繋がっていく。  しかも狙撃自体はテロリスト側の陽動作戦であり、真の目的は大統領誘拐計画であった。こんなに少ない人数でガードをすべてクリアし、まんまと成功するかは疑問ではありますが、90分で纏めるにはディティールを端折らないとやってられないのでしょう。そして各々の視点で事件が語られる。
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 まず第一の視点はテレビ局の中継車、テレビ・ディレクター役のシガニー・ウィーバーのそれである。懐かしくもありましたが、彼女も老けましたねえ。『ゴースト・バスターズ』の頃が思い起こされます。この視点は放送される映像ということもあり、一般視聴者や観客のそれでもある。  多くのカメラを駆使して、映像の流れや主張を述べていく過程は興味深い。チョイ役ではありましたが、さすがの存在感を見せています。もっと大事に使って欲しかったし、そこがあれば、完成度はかなり高まったのは間違いない。この最初の視点は爆発直後のアナウンサーの死とともに閉じられる。次の瞬間、ビデオの巻き戻しのように起点の時間に戻っていく。第一の視点は終了する。  このとき注意深く見ていると、2カメのルイスがテロリスト一味であることに気づく。無線に応対している彼ですが、この無線がシガニーからのものではなく、スアレスからのものだと気づけば、のちにアイェレット・ゾラーに救急車内で殺される理由も分かる。
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 次の視点は主人公であるデニス・クエイドのそれである。同じ時間でありながら、当然今回は大統領警備のSPである彼の視点で、この事件の様子が語られるので、TVが映していたのと、ちょうど反対側の視点となる。彼の視点は緊張感溢れる警戒の様子とテロによる大爆発後の広場での混乱から必死に事態を収拾しようとする様子が描かれる。爆発時の映像はかなりハードなんですが、しかもあれだけ爆弾のそばにいたのに、彼は傷つくこともなく、平気で走り回ります。  テレビ局の存在に気づいた彼が、先ほど第一の視点としたテレビ局の中継車に飛び込み、事件の真犯人を映し出した決定的な映像を凝視する彼のクローズアップで終了する。せっかくシガニーとの絡みが観られるはずなのに、まったく膨らませていかないのは製作側の失敗であろう。
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 第三は犯人一味と微妙に関わりを持つ市警察のエンリケ刑事の視点となる。こういった感じで各キャラクターごとの視点で同じ時間、同じ場所へ集まってきた彼らがそれぞれの立場の違いからドラマチックな生き様と顛末を観客に見せていく。かれは時間を少し進めるだけで、あまり活躍はしない。
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 反対に第四の視点では今回のMVPともいえる、異常に大活躍(活躍しすぎである。刑事が追いつかない犯人に追いついた挙句、内ゲバシーンまで撮影してしまう。)する黒人観光客のフォレスト・ウィッテカーが続きます。彼のときは結構精神面の切なさとか子供への愛情も感じられ、これが後の伏線となります。  さりげなくリンクが張り巡らされていて、何度も巻き戻されるうちに、「ああ、これはここに繋がるんだな。」とか理解が深まり、楽しみが増えることでしょう。ただあまりにも彼は活躍しすぎなのが現実からは程遠すぎて失笑気味になる。「ソニー・ハンディ・カムを持っていれば、事件の犯人も決定的瞬間も思いのまま!」という大掛かりなCMのようである。  第五にくるのはウィリアム・ハートの視点である。彼にも替え玉を使っているという秘密があり、替え玉の方が狙撃されるという難しい事態に直面する。その後すぐに誘拐されてしまうので、ウヤムヤになってしまい、最後もメデタシメデタシで終わるのだが、なんかしっくり来ない方もいるでしょう。
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 その後の三つはテロリスト側と追跡側との交互に交わる視点で描かれていきます。なかでも第六番目のスアレスの時には大雑把ながら、事件の全体像が見えてくる。犯人一味は情報を流すTV局のカメラマン(ルイス)、自爆テロを敢行するホテルのベルボーイ(フィリッペ)、広場で爆弾を破裂させるヴェロニカ(アイェレット・ゾラーで、彼女はとっても綺麗!)、市警のエンリケ、特殊部隊上がりのハビエル、大統領SPのテイラー、そして首領のスアレスの七人となります。
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 大まかに捉えると、各人の時間が終わると、次のキャラクター視点の時間はそれより少しだけ時計が進んだところまでいくのだが、ここにギミックがあり、各人毎に微妙に進んだり、戻ったりとジグザグに時系列が設定されているのだ。おそらく観る者を混乱させる意図なのでしょう。  プロットの作り方としてはこのストーリーでは成功している。普通に時系列通りにフィルムを進めたならば、これは単なるB級アクションの枠を出ない。このプロットの進め方だからこそ価値があるのだ。注意深くストーリーを眺めたら、その設定の深みのなさと適当さに気付くに違いありません。
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 ただこのプロット展開だけでもついて行けない人たちに、更にディティールを与えても理解できないであろうという判断が製作サイドにはあったのでしょう。キャラクターの心情を掘り下げることはあえてしていません。そのためか、演技ではあまり感心する部分はなく、デニス・クエイドをはじめ、ベテラン陣が無難に役柄をこなしている感じでした。シガニー・ウィーバーも最初に出てくる割にはたいした役回りではありませんでした。
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 カーチェイスの後のラストの攻防では、殺された者以外のすべてのキャラクターが再び高架下に集結し、クライマックスシーンとなっていく。銃殺を躊躇ったアイェレット・ゾラーが救急車のハンドルを握っていたならば、その後の横転も複線になっていたのだと説明がつくが、首謀者スアレスが子供をかばうために車をよけてしまうのは無理がある。まあ、彼も広場でウィッテカーに遭遇したときに、少女アンには逢っているのだが…。  大穴と小穴が話しのあちこちにありますが、アクション映画で粗探しをするのも無意味なので、やめましょう。それよりもスピード感とギミックで楽しみましょう。 総合評価 75点 バンテージポイント コレクターズ・エディション
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