良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『吸血の群れ』(1972)70年代にはいろいろな動物モノのパニック映画がありました。

 1970年代にはなぜかパニック映画が流行り、文明が崩れ落ちる類のパニック映画、たとえば『ポセイドン・アドヴェンチャー』『エアポート’75』などの巨大交通機関が制御不能になったときに「さあ!あなたならどうする?」的な映画が大ヒットしました。
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 それ以外にも天変地異や火災を描いた『大地震』『タワーリング・インフェルノ』なども大いに話題になりました。しかし、もうひとつ忘れてはいけないムーヴメントに巨大生物や獰猛な動物のパニック映画も多々ありました。『ジョーズ』『ベン』『ウィラード』『ピラニア』『アニマル大戦争』などが代表的でしょう。この映画、『吸血の群れ』もそうしたパニック映画ブームに便乗しようとした結果、製作されてしまったC級動物パニック映画です。  『ウイラード』ではあの一匹でも気持ち悪いネズ公が大量に群がって、人間を襲うシーンがトラウマになるほどの気味悪さでしたが、カエルでは緊張感のなさが半端ではない。しもぶくれの顔につぶらな瞳、そしてただグエグエと鳴いているだけで、知性や悪意とかが顔からにじみ出てこないのはかなりつらい。  襲いに来るカエルを使った演出がまた、とんでもなく脱力を誘い、そばで大柄なアメリカ人たちが必死に(襲われやすいようにわざと転んだり滑ったりしています!)芝居をしているのですが、それをみると余計に観ている方が冷静になっていくというパニック映画としては致命的な出来栄えでした。  つくりもの丸出しの亀、そして普通のカエル(ウシガエルか何か知りませんが、たしかにこのカエルはでかい!)と格闘しているときの俳優たちのなんともいえないやりきれなさの心の声が聴こえてくるような場面が多々ありました。なんせカエルです。体に引っ付いているだけで、襲っているようには見えない。つくりものの亀との格闘シーンも、ツーショットではなく、俳優オンリーか、はりぼてオンリーの繰り返し。脱力です。
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 見どころをいったいどうやって探し出すか。この映画の最大の問題点はそこである。昔、小中学生、そして高校あたりまでは、家や映画館で70年代までの外国映画を観たときには、どこかしら観て損のないものだなあと思える作品がほとんどだった記憶がありました。  しかし、それはTV放送ならば、淀川長治さん、荻昌弘さん、水野晴郎さん、高嶋忠宏さんらが司会をしていた映画、または劇場で観た大ヒット映画ばかりだったのです。なんだこりゃとなったのはほとんどが彼ら以外に紹介された映画たちだったのではないだろうか。
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 人気作品の放映権にお金を投入したために、仕方なくお茶を濁すときに放送されたのがこれらC級映画、もしくは二本立てか、三本立ての日陰の作品だったのでしょう。  ポスターを見れば、分かっていただけると思いますが、巨大カエルが人間を喰らっているようなかなり不気味な出来上がりとなっております。しかしながら、最初から最後まで、この脳みその足りない映画に付き合った方はふと気づくのでしょうが、こんなシーンは本編にはまったくありません。詐欺のようなポスターなのです。
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 『吸血の群れ』に関しては、『失われた週末』『ダイアルMを廻せ!』で有名な、あのなつかしいレイ・ミランドが出ております。晩年の彼が何か映画ファンにはいえない、つらくて、やんごとない理由があったにせよ、なぜカエルに襲われなきゃいかんのだ!と怒りながら観ておりました。しかも出来が悪すぎる。  特撮は適当、脚本も適当、演出も適当と来れば、もうどうしたらいいんだろう。唯一の救いは撮影部隊が駄目なモノでも出来るだけ綺麗に撮ろうとしていた点でしょうか。水面を美しく見せるための努力や瀟洒な屋敷がだんだん不気味な連中によって荒らされていく様子をきちんと撮ろうとしているようには見えるのです。  またどうしようもない内容を何とかカバーするべく、シンセサイザーを使った音楽というか、効果音をフューチャーし、なんとか対面を保とうと努力しています。まあ、不気味すぎるような音つくりをしていて、おどろおどろしくフィルムを盛り上げようとはしていますが、いかんせん内容が弱すぎました。 
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 アメリカの片田舎の納涼ドライヴ・イン・シアターか、場末の三本立てのうちの一本、それか東京12チャンネル!の深夜3時くらいの吹き替えで観るのが正しい鑑賞法でしょう。酔っ払いながら観たら、けっこう笑えるのかもしれません。観ているのがおっくうになり、何か他のことをしだし、BGVとしてかけておくのもいいでしょう。  基本的にすべての映画を観るときには何か良いところを探し出して褒めようと常々思いながら観ております。しかしそれでも無理が利かないときもあるのだということを久々に実感させてくれます。正直言って、この映画を観ていたときにずっと僕の頭の中で流れていた音楽がありました。  グェッグェッ!グェッグェッ!ゲコ、ゲコ、ゲエコッ!グェッグェッ!グェッグェッ!う~~む? かえるのうたがきこえてくるよ~♪グァッ!グァッ!グァッ!グァッ!ゲロゲロゲロゲロ!グァッ!グァッ!グァッ!
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 唐突になんだ!という方もおられるでしょうが、この映画はそんな映画なのです。シーンとシーンのつなぎ目、ショットとショットのつなぎ目には必ずカエルが出てきます。まさにカエル・モンタージュが必要なまでにというか、最初から最後まで繰り返されていきます。  さらに凄いのが、タイトルはたしかに『FROGS』なのですが、実際にはカエルだけではなく、蠍、蛭、蛇、蚊、蜥蜴、守宮、亀、鴉、さらには鰐までが人間に襲いかかってくるのだ。どんどん訳が分からなくなってきます。ミランドが独りで残っていた居間にも、カエルたちが襲いにきて、哀れカエルを大群で見たショックによって絶命してしまいます。彼の巨大でメタボなお腹やお尻の上で飛び跳ねるカエルたちがとてもシュールでした。 総合評価 36点