『HERO 劇場版』(2007)テレビドラマは楽しく見ましたが、劇場版はちょっと…。
木村拓哉主演のテレビドラマは高視聴率を至上命題とされている。また彼の主演ドラマには多くのファンの期待も寄せられている。とてもプレッシャーのかかる役割を負わされている彼はどうやって、その重すぎるプレッシャーと戦っているのだろうか。
ここしばらくのキムタク主演ドラマというと、『華麗なる一族』『CHANGE』『Mr.BRAIN』、そしてこの『HERO』でしょうか。どちらかといえば、最近は恋愛モノではなく、コメディタッチの強いものやシリアス物に変わってきているように思います。それまでの恋愛物ドラマ路線ではまったく見向きもしなかった僕らが毎週録画して見ていたくらいですから、前よりもさらに多くの視聴者層を摑んできたともいえます。
『HERO』に関しましては、ぼくはテレビドラマを全話見ておりますし、特別編ももちろん見ました。そして、ついに出たのが劇場版であるこの作品です。映画館まではわざわざ行くことはありませんでしたが、DVD化されたときにはすぐに近所のツタヤに借りに行きました。
結構、ドラマが楽しかったので、おおいに期待して、じっくりと見ましたが、内容はドラマの延長、というか特別編のみとリンクしているだけで、ドラマとはあまり繋がっておらず、がっかりしました。こういうドラマの映画化ではドラマ期からのファンを重視する姿勢がないと盛り上がりに欠けてしまいます。
しかもドラマ化されてから、映画化されるまでの時間がかかりすぎていて、新鮮味が全くなくなってしまっている。ただ歳を重ねただけのドラマ時からのレギュラー陣には冴えが感じられず、ルーティン・ワーク的というか、お仕事の匂いがぷんぷんと漂っているようでした。
松たか子、大塚寧々、阿部寛、勝村政信、小日向文世、八嶋智人、角野卓造、児玉清、田中要次らいつものメンバーは安定していたので、無理に劇場版だからといって、カメオ的な人々をどんどん投入して、訳が分からなくなるよりは何人かのゲストにスポットを当てていったほうが良質なコメディに仕上がったのではないだろうか。
ちなみにあえてカメオとしておきますが、出てきたのはこの人たちでした。石橋蓮司、古田新太、国仲涼子、綾瀬はるか、中井貴一、MEGUMI、タモリ、イ・ビョンホン、香川照之、岸部一徳、そして松本幸四郎です。このうちの石橋蓮司、綾瀬はるか、中井貴一の三人は特別編にも出演していたので、ドラマ時代からのファンには理解できたでしょうが、劇場版に彼らは不必要でした。
とくにイ・ビョンホンがチョイ役で出てくる韓国パートに至っては全く無駄で、必要性すら感じません。目玉にするつもりだったのでしょうが、思惑は外れていましたし、彼に頼らなくても、松本幸四郎、香川照之、そして恋敵役に綾瀬はるかを上手く使ったほうが映画が締まったのではないでしょうか。
見ていて、せっかくの映画化ではありましたが、あまり楽しめず、見るモチベーションを保ちにくかった作品になってしまいました。ただこう思わせたのは俳優陣のせいだけではない。一番問題だったのはこの映画を撮っていたカメラの動きにあるように思います。とにかくカメラがはしゃぎすぎている。
無意味なカット割り、無意味なスローモーション、無意味なフォーカス飛ばしが多すぎて、一体全体、何が大切なのかがまるで伝わってこないのです。児玉清と松本幸四郎(たしかこのふたり。どちらかとキムタクだったかな?)がすれ違うだけの場面で、児玉を追っているカメラと松本を追っているカメラの視点が何度も入れ替わってくる。これがのちのち意味を持つならまだしも、まったく何の意味も発生しません。
俳優陣の演技をゆったりと見せればそれだけで良いシーンに、みずからの存在を誇示したいだけと見抜かれるカメラはただひらすらに邪魔で、作品のクオリティを大幅に下げていました。さらにコマ落としと思えるカットもいくつか見受けられましたが、全く機能しておらず、観客が集中しようとする努力に水を差しているだけでした。
そんなに自分の存在を誇示したいのであれば、有名俳優など一人も使わずに、潔く自主制作映画で自分をアピールすればよい。予算と宣伝費のかかった映画を撮るには不向きな人選だったのではないでしょうか。多くの人を劇場に足を運ばせる映画を作るには、自己満足のテクニックではなく、古典的編集や撮影法を効果的に用いる方がよほど分かりやすいし、見やすい。
それでも映像に個性を出したいと望むならば、卓越した映像美を観客に示す必要がある。この作品にはそのどちらもない。ただただお話の邪魔をしてしまっているのみである。テレビの世界から映画化する際に、製作者がよそ行きのスタンスを持っていしまうと、えてしてこういった駄作に仕上がってしまう。
もちろん映画とドラマが別物であることを理解していない者に映画を撮らせるのは愚の骨頂である。しかし映画だからといって、無理やりに普段使わないようなカット割りを持ってくるのは破滅を自ら招くようなものである。せっかく費用のかかる俳優を大量に投入しているにもかかわらず、効果を上げているとは言いがたい。残念な作品でした。
総合評価 52点
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