良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ヴァレンティノ』(1977)31歳で逝った、ハリウッド黎明期の二枚目俳優の映画人生。

 シネフィル・イマジカWOWOWなどで最近5年間くらい前から興味があり、ずっと特集を待っていた俳優の一人がイタリア移民のボール・ルーム・ダンサーから、ハリウッド黎明期の1920年代の代表的な二枚目トップスターに成り上がった、ルドルフ・ヴァレンティノでした。  彼の出演した有名な映画といえば、『熱砂の舞』『血と砂』『黙示録の四騎士』『シーク』などがあります。自分が全編を見たのは『シーク』のみ、そして『血と砂』『黙示録の四騎士』の断片くらいでしたが、どうしても見たくなり、ヤフオクを利用して、『血と砂』『黙示録の四騎士』を競り落としました。もうじきこれらも届くので、記事にしてみたいと思っています。  この映画は70年代後半に、ケン・ラッセル監督がヴァレンチノの半生を映画化したものです。彼の人生に大きな影響を及ぼした女性たちの回想を軸にして、ヴァレンチノの人となりを語っていくというスタイルを採っています。似た感じの作りとしてはティム・バートン監督の『エド・ウッド』を思い出します。
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 主役の俳優を人選するときに、どうしても華麗なヴァレンティノのダンスを体現できる俳優が必要だったこともあり、ルドルフ・ヌレエフをヴァレンティノ役にしているのですが、稀代の美男子を演じるにはあまりにもカッコよくない。イタリア人らしい明るさと軽くても、したたかな、かの国の伊達男を演じるにしては冴えない。  扱う対象がヴァレンティノですし、まずは超人気二枚目俳優を選ぶのが先だと思うのですが、見た目を二の次にしてしまったために、正直、主役に魅力を感じない致命的欠陥を持ってしまったのがこの映画の最大の難点であろう。  ただダンスにおいては彼はきちんと機能しているので、不承不承ではありますが、今回は容姿については眼をつぶりましょう。当時の俳優たちの置かれていた環境(彼はパラマウントで消耗品としての価値しか認められていませんでした。)やユナイテッド・アーチストへの想いなど、ハリウッドの裏歴史を知ることも出来るので、興味深く見れるのではないでしょうか。イタリア系の人々への蔑視やレズビアンホモセクシャルへの偏見など、なんでもありのハリウッドでもこうした差別があったことを見せていく。
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 実際に出てくる人々も、ロスコー・“ファッティ”・アーバックル、ニジンスキーアラ・ナジモヴァレスリー・キャロンが演じる。『椿姫』が有名。)など実在のダンサーやハリウッド・スターたちを実名で配しているので、クラシック映画を知る人はさらに楽しく見れます。パラマウント経営陣の人でなしぶりも見所のひとつでしょう。  冒頭にあるヴァレンチノの葬式シーンでのファンたちの乱入による大混乱を再現した部分は見応えがあります。彼が多くの女性に擦り寄って、結果として彼女たちを利用しながら、富と名声を手に入れていく様子が克明に描かれていきます。利用価値が無くなったら、他に乗り換えていくというより、有名になるごとにさらに力のある女性が彼を助けていくという感じなので、あまりジゴロ臭はしません。  ただそうしないと映画化の許可が下りなかっただけかもしれませんので、彼の本当の姿を描けているのかは判然とはしません。彼の生き様は破天荒で、酒による不摂生、度重なる女性問題でのスキャンダル、パラマウントやユナイテッド・アーチストでの契約トラブルなど、有名になってから死ぬまでに、たった5年くらいしかないのにもかかわらず、密度の濃い、トラブル続きの半生を描いている。
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 こうしたドロドロした部分も含めてのスター街道であったというのも、いかにもハリウッド・スターらしい末路とも言える。ヴァレンティノの2人目の妻となったナターシャ(ミシェル・フィリップス)がはまっていたオカルト趣味(こっくりさんみたい。)に振り回される彼の俳優人生は決して恵まれたものではありませんでした。  また彼はあくまでもサイレント期の映画スターではあっても、イタリア訛りが強い彼の英語ではトーキー時代にはおそらく対応できなかったであろうことは明らかです。そういう意味では良い時期に、落ちぶれる前に死んでいったのかもしれません。  印象に残るのは重婚問題で拘置所に入れられたときの牢名主ら“常連”たちによる性的虐待シーンでの恐ろしさが何よりも思い出される。牢獄の中、自由を奪われて、娼婦やホモに囲まれて、彼らにレイプされていくヴァレンティノの描写は日本映画では見られるものではない。  こうした状況に追い込まれている彼に対して、一切の援助を行わないパラマウント経営陣の人でなしぶりも、当時のハリウッドの実情を知らせてくれる。俳優に人権など認めていない彼らが今では労働争議等を何よりも恐れ、俳優たちやスタッフに頭が上がらない状況になっているのは時代の流れを感じさせる。
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 胃潰瘍の手術を行い、術後の容態が思わしくはない中でも、無意味な新聞記者とのボクシング対決や呑み比べをしてしまうなど不摂生を続けた彼は31歳という若さで世を去ることになる。ハリウッド・スターの最後としては豪快な生き方をした上での最期とも言えなくもないが、もともと胃潰瘍だったということは度重なるトラブルでかなりストレスで悩んでいたのかもしれません。  撮り方に関してはかなりラッセル監督の臭いを抑えながら撮っているようですが、映像のそこかしこにおそらく彼がこだわったのであろうなあ、という部分がかなりあります。オレンジの下りなどに特にそれを感じました。部分部分に挿入される『熱砂の舞』『シーク』『椿姫』などのセット・シーンや劇場での上映シーンなどがあり、メイキングを見ているようで、楽しく見れました。  ダンスに重きを置いたのはヌレエフ起用で明らかですが、アーバックルとやりあうときのダンス描写、ニジンスキーとのダンスの絡みその他、見所は数多い。また音楽も凝っていて、タンゴを踊るところでは『黒い瞳』などアルゼンチン・タンゴの名曲に乗せて踊っていたり、『アラビアの酋長』をバックに、プロモーション用スチール写真の撮影を行ったりと楽しい。  総合評価 63点