良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『2012』(2009)エメリッヒ的な大きな映画だが…。地獄の沙汰も金次第という胸糞悪い映画。

 ローランド・エメリッヒ監督の作品で、多くの映画ファンがすぐに思い出すのは『デイ・アフター・トゥモロー』だろうか。彼の仕事の印象としては大きい映画を任される人物であるという程度です。  去年の年末からお正月にかけて、話題になっていた映画でしたが、近所の映画館の閉館もあり、観に行かないまま、公開が終了していました。今回はレンタルが開始されたこともあり、すぐに借りてきました。  見た印象はとても漫画的というのと、どこかでいつか見た映像だなあというデジャヴ的な感じです。『タイタニック』『ポセイドン・アドベンチャー』『ディープ・インパクト』で見た映像そのまんまだったり、ルパン三世のアニメやコミックスに出てくるような映像表現が次々に出てきました。
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 正直、オリジナリティの無さについつい冷静になってくるのが難点ではありますが、2時間半のうち、2時間までは展開のあまりのバカッぷりが笑えて、見ていて、そう飽きは来ない。これはディザスター映画に似せたお笑い映画なのだと思えば、良く出来たものだと思う。たぶんそうじゃないでしょうけど。  問題は配役と後半30分にある。かつてのように白人だけで映画を作れないというのは仕方ないにしても、大統領も科学者も知的な役割を果たす者は全部黒人で、その下請けは中国人、嫌みな役はロシア人がすべて引き受けている状態でした。  人類が生きるか死ぬかの状況ではエゴが剥き出しになるはずですので、人種差別や欲得ですべてが決定されるでしょうから、現実にこういったことが起これば、南米、アジア、アフリカの民は眼中に無く、白人だけが生き残ろうとするのであろう。
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 では白人はどうしてたかといえば、三流作家ジョン・キューザックが父親である、人間関係が破綻した家族を軸に、ファミリー受けも狙います。彼はなぜか科学者にもロシア人大富豪にも接触し、都合良く、イカレたDJに中国人が作っている避難船のありかを教えてもらい、中国の国土に入ると、都合良く、そこで働いている作業員の家族に拾われ、都合良く、全世界で、言い換えれば、全人類の中で、40万人しか乗れない新世紀ノアの方舟船団に乗り込んでしまう。  確立でいうと地球人口が70億人だったから、1万5000分の1くらいでしょうか。それも一人につき、10億ユーロだから、1200億円とか途方もない金額を支払わなければいけないというなんとも夢の無いストーリーに付き合わされることになる。庶民が観る映画なのに、助かるのは超リッチな金持ちだけなのです。ノアの方舟を作らされた中国人労働者も乗船は出来ずに見つめるだけ。
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 なんなんだ、この映画。金持ちや権力側の人間はみんな死んでしまえと言いたくなるような自分勝手なやつらばかり出てきます。こういうふざけた映画ならば、『猿の惑星』並みに最後は全滅させるとかしないと不公平でしょう。死んだら金なんか持っていけないというのを皮肉っぽく描けば、違った評価になったのでしょう。  観ている僕らは当然ながら、見捨てられていく一般大衆な訳ですし、何を見りゃいいんだろう?エリートたちが生き残るかどうかなんて、どうでもいいし、エメリッヒの描き方も中途半端な皮肉っぽい描写でした。彼って、こういう皮肉っぽいのも撮れるんですね。金持ちと権力者たちのエゴイズムと生き残りを賭けた戦い、そしてちょっぴりの似非ヒューマニズムなど映画化する必要性はまるでない。何に共感し、誰に感情移入するのか。  すべてが都合良く進んでいき、三流作家に都合の悪い人物たちは都合良く、全員が命を落とす。また酷いのは彼らが密航してきて、船を故障させたために、十数万人もの人命を危険に晒す。自分たちで撒いた種を刈り取っているだけなシーンであるにもかかわらず、映画最大のドラマチックな見せ場にしようとして、劇的なBGMが入ってきたのは憤飯物でした。
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 黒人科学者の似非ヒューマニスト振りにも呆れ返る。もともとノアの方舟計画のスタッフであるくせに、いざとなったら、押し寄せる乗船希望者を無計画に収容しようとする。  この乗船希望者たちはもともとが一人当たり、十億ユーロという途方もない額を払えるような人々で、一隻の方舟が大破したために、あぶれた人々でした。つまり彼らはお金をすでに支払った金持ちたちなのです。決して、彼らは一般大衆ではなく、ふだん驕り昂ぶっているエリートであり、自分たちだけ助かろうとして庶民を見捨ててきたものの、運が悪く、自分たちが乗る船が大破してしまっただけの嘲笑うべき対象でしかないのです。  金だけ分捕り、船には乗せないというのを見て思い出したのは『蜘蛛の糸』のカンナダ(でしたっけ?)でした。いかにも酷いが、金だけ持っていても、人類に貢献しない者など本来、種の保存を考えると必要ない。人間が70億人が死んでいくのに、金持ちに飼われたペットは救われていくのはもっと気持ち悪い映像のひとつでした。
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 白人の婆さんが何匹もの犬とともに乗船するシーンは醜悪にしか見えない。小型犬が出航しようとする船にたどり着くシーンも最悪で、犬一匹の命は乗船出来ずに見捨てられようとしている何万もの人命よりも大切なようでした。金だけはあるが、他には何もないアラブやロシアの大富豪たちが悠々自適に乗船していく。  さらに醜悪なのが政治家たちで、自分たちはもっとも先に乗船しているのだ。いったいこの映画のどこに感情移入すれば良いのだろうか。映画本来の描き方として、虐げられていた人々が環境に打ち克ったり、強者を倒すから、映画は大衆に支持されたのです。  それがこの映画のように、政治家や権力者や金持ちが救われて、弱者は全員生きたまま、地震に押し潰されるか、津波に浚われて海の底に消えるか、火山の炎に焼かれて、阿鼻叫喚のうちに死んでいく状況を見せるのはどうなのか。弱者を切り捨てる時点で、これは映画ではない。いくら映像に金が掛かっていて、出来が良くても、人間の強さが描かれていないものは映画足りえないのではないか。  唯一の救いは軍隊が全く無力であること、バカの一つ覚えのように自由の女神像を破壊しなかったことくらいでしょうか。他に何かありましたか? 総合評価 48点
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2010-03-19

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