『赤軍-PFLP 世界戦争宣言』(1971)プロパガンダの最良の形態は武装闘争である!
もちろん、ぼくは学生運動などしたことはないし、僕らの頃には赤軍派だけではなく、共産主義そのものがすでに時代遅れになっていた。ゴルバチョフが登場し、ロシアの惨状が明らかになるにつれ、幻想はしぼみ、冷戦の象徴であった、ベルリンの壁は90年代を前に崩壊していた。
しかし、60年代後半から70年代前半に掛けては世界各地で極左ゲリラにより過激なテロが繰り返されていました。シオニスト、資本家、官憲にはすべて悪か、反動、帝国主義のレッテルを貼り、硬直的な思想にはまり込んでいったように見える。
僕らでも知っている赤軍の犯した事件といえば、よど号ハイジャック事件、山岳ベース・リンチ事件、テルアビブ空港乱射事件、そしてあさま山荘事件であろうか。
実際の彼らがどういう思想をもとに何と戦っていたのかは正直分かりづらい。色々な派閥や分派があるようだし、注意深く眺めていても全貌が見えてこない。ただ90年代以降はどの国でももてあましていたのであろうか、あちこちで逮捕されたり、国を追われて、日本に入国してきた途端に逮捕されているようです。有名だった重信房子も僕らの住む関西で逮捕されました。
通称、“赤-P”と呼ばれるこの映画には重信のインタビューも収録されているのですが、何を言っているのかよく分かりませんでした。頭は良い人のようなのですが、一般人には訳の分からない論理と目的をマシンガンのように浴びせ続けていく彼女の話は観念論的で、自己正当化しているだけに見える。後半にこのインタビュー・シーンが出てくるので、興味のある方はご覧ください。当時は70年代初頭で野望に燃えていたのかもしれません。
しかし現在は40年近くが経ち、共産主義の敗北が誰の眼にも分かる状況になってしまったので、正直、見ていてつらい。思い出すのは第二次大戦期の国策映画であり、それらの時代錯誤振りとそんなに変わりがない。もちろん、今でも生きている言葉があるのが怖い。
プロパガンダの最良の形態は武装闘争である。
武装闘争は抑圧された人々の言葉である。
現在のテロリストにも息づいている論理ではないだろうか。
世界戦争宣言というと、思い出すのが頭脳警察の『世界革命戦争宣言』である。もともとは赤軍派幹部の言葉であったものをパンタが激しいリズムに乗せて歌ったのだ。以下がその全歌詞(メッセージ?)です。
プルジョワジー諸君!
我々は世界中で君達を革命戦争の場に叩き込んで一掃するために、ここに公然と宣戦を布告するものである。
君達の歴史的は、もはやわかりすぎている。
君達の歴史は血塗られた歴史じゃないか!
君達の間での世界強奪戦争の為に我々をだまし
互いに殺あわせてきた。
嘘だとは言わせない!
我々はもうそそのかされだまされはしない!
君達にベトナムの民を好き勝手に殺す権利があるなら
我々にも君達を好き勝手に殺す権利がある!
君達にブラックパンサーを殺し
ゲットーを戦車で押しつぶす権利があるなら
我々にも ニクソン(当時の米大統領)、佐藤(首相)、キージンガー(たぶんキッシンジャー)、ドゴールを殺し
ペンタゴン、防衛庁、警視庁、君達の家々を爆弾で爆破する権利がある!
君達に沖縄の民を銃剣でさし殺す権利があるなら
我々にも君達をナイフで突き殺す権利がある。
いつまでも君達の思い通りになると思ったら大間違いだ!
君達の時代はすでに終わった!
我々は最後の戦争の為に 世界革命戦争の勝利の為に
君達をこの世から抹殺する為に 最後まで戦い抜く!
我々は自衛隊、機動隊、米軍諸君に公然と銃を向ける。
殺されるのがいやならその銃を後に向けろ!
君達をそそのかし うしろであやつる豚どもに向けて
我々を邪魔する奴は 容赦なく抹殺する!
世界革命戦争宣言をここに発する!
これをそのまま歌詞にして、京都で歌ったものをレコーディングしたのが頭脳警察のファーストアルバムでした。このナンバーのほかに『赤軍兵士の詩』『銃をとれ』も放送コードに明らかに引っかかったため、レコード会社は発売を見送り、頭脳警察は伝説化しました。
大昔、このアルバムは中古レコード屋で一番高いレコードとして鎮座していました。聴くことはないのだろうなあ、と諦めてはいましたが、CD化されたときに、即買いして、正座して聴きました。オープニング・ナンバーとして据えられた、この『世界革命戦争宣言』は強烈で、さすがにこれを70年代初頭に発売するのは無理だろうなあ、という激しさでした。あとはそれほどでもないというのが自分の持った感想でしたが、この曲を聴くだけでも3000円近くを払う価値は十分にあると思います。
最近、若松作品を見る機会が多く、気になっていたこともあり、この前の日曜日にTSUTAYAへ借りに行った時、この映画はドキュメンタリー・コーナーに置いてありました。
しかしながら、きちんとジャンル分けをするならば、この映画はドキュメンタリーではなく、プロパガンダであろう。もっとも過激派にとっては最大のプロパガンダは武装して、大事件を引き起こすことのようです。官憲や巨大資本をターゲットにするならともかく、一般人を巻き添えにする無差別テロを指示実行する武装グループについてはただの殺人集団でしかない。
抑圧から解放すると言いながら、さらなる禍を持ち込んでくるのが彼らである。映画ではよど号ハイジャック事件の成果、パレスチナの過激派PFLPとの共闘が強調され、パレスチナでの過激派や赤軍の生活が描かれ、日本在住の活動家やシンパに世界戦争宣言をアピールする。
赤軍幹部へのインタビューが収録されているのも興味深い。重信だけではなく、彼らの話を聞いている限り、かなりの知性を感じる彼らが何故あのように獣のような事件を次々に実行しえたのかは大いなる謎です。山岳ベースでの大量リンチ殺人、あさま山荘事件、よど号ハイジャック事件など昭和事件史に必ず登場してくる事件を引き起こしていく過程に何があったのかは分かりません。
ただ彼らと近かった、若松監督はどのように赤軍派の内面まで踏み込んで行ったのだろう。彼の作品では左翼活動家がよく取り扱われています。『天使の恍惚』『赤軍PFLP世界戦争宣言』『現代好色伝 テロルの季節』『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』などはそのままずばりの内容であり、地上波では放送は期待できそうもない。
偏っているので放送できないというのも理解できるが、出来うるならば、『戦艦ポチョムキン』『意志の勝利』などとともに、映像の魔力と影響力の大きさというテーマで、解説を交えながら、是非とも放送してほしい。
総合評価 75点
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