良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『借りぐらしのアリエッティ』(2010)綺麗な画が復活した。メッセージは必要ですか?

 昨日の朝、いつも行く劇場の切符売り場で会計をしようとしたら、受付のお姉ちゃんに明るく「今日は1000円です!」と言われました。1日と2日が土日のため、前倒しで今日が映画ファン感謝デーになっていて、全員が千円なんだそうです。  レディース・デーなど女性ファンにはやたらと優しい映画館ですが、男性ファンには厳しいので、このサービスはなんだか得した気分になりました。さて館内に入って行くと、第1回目の上映だったために、まだ冷房が効いておらず、異常な暑さのなかで上映を待たねばなりませんでした。  昔懐かしの映画館を思い出しました。客入りは6割強といったところでした。観た印象としては花と家具が綺麗だったなあという印象でした。カメラが縦方向にティルトするときの動きがぎこちなく、目障りだったのは残念でした。それでも『ゲド戦記』のときに感じたような雑な画は少なくなっていました。
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 劇場の大画面で観るときは細部の出来が悪いと致命的に印象が悪くなってしまうが、家庭でDVDを見る分には特に何も感じないでしょう。セールスが上映だけではなく、ソフト化されてレンタルや販売に回って、資金が回収されるまでを指すのが現実なので、最低限度のクオリティさえ確保していれば、リリースされていくだろう。  今回、宮崎駿は脚本の立場で参加していて、監督は米林宏昌が当たっています。彼はジブリに長くいる人なので、良い点も問題点も知っているはずです。今回、改善されていたのは前述したように画の丁寧さでした。近年の背景や調度類の画の出来栄えは酷かったのですが、この映画では印象派のような綺麗な画が復活していて、そこにまずはホッとしたジブリ・ファンも多かったのではないだろうか。  しかしあのカメラの動きは何とかならなかったのだろうか。震えながら、上方向にティルトするのは見ていると萎えてしまいます。何を緊張しているのか、誰の視点なのか?観客はこの映画を観ていて、緊張もないし、ゆったりと観ているのです。
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 なぜに製作者の動物的な動きを気にしなければならないのか。没頭しようとする観客の意思を無にするような動きに対しての配慮をもっとするべきなのではないか。またフィルムの質が悪いのか、映画館側の管理が悪いのか、フィルムがかなり傷んでいて、ノイズが多すぎるのも集中しづらい状況に拍車を掛けました。  まだ公開されてから、10日くらいしか経っていないはずなのに、何故にあれほどまでにノイズを発生させているのかが謎でした。ジブリを何度も観てきましたし、公開から一ヶ月程度経っていたものを観るときはさすがに覚悟して観ますが、最近のフィルムって、そんなに脆いものなのでしょうか。  まあ、物理的な要因はこれくらいにして、肝心の内容はどうだったのだろうか。ぼくが見た限りでは徐々にジブリ本来の良心的というか、ジブリらしい画が映画館で観られたということが大きく、感想も甘めになってしまいますが、伝えようとするメッセージがなんとも中途半端で、何を言いたいのかがよく分かりませんでした。
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 滅び行く小人の種族と繁栄している人類との立場の違いを鮮明に描きたいのか、ジブリらしいファンタジーの一篇として作品リストに加えたいのかが判りかねました。神木(翔くん)と志田(アリエッティ)が話すシーンがあり、初対面にもかかわらず、そこで唐突に小人に「君たちは滅び行くのだ!」と言ってしまう人間の傲慢さに驚かされますが、このへんは脚本の破綻でしょう。  盛り上げたいのか、衝突させて、新たな急展開に持ち込もうとしているのかが判りません。また、ジブリには珍しいただの小悪党として登場する樹木希林が奇妙であり、違和感が最後まで残りました。可愛げのない汚いオバチャンでしかない彼女には何の魅力もないし、ジブリに登場するようなキャラクターではないように思えました。
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 キャスト全体で見ていくと、主役の二人、神木隆之介志田未来は秀逸で、上手く作品世界に調和していました。父親役を務めた三浦友和も渋くて、カッコ良い声を披露していました。残念だったのは大竹しのぶでしたが、彼女のせいではなく、キャラクター・デザインが酷く、14歳のアリエッティの母親役にしてはホミリーは老け込みすぎていて、おばあちゃんのようになっていたのです。
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 これは彼女の責任ではなく、キャラクター・デザインの失敗でしかない。ロリコン趣味的な要素を必ず持っているのがジブリのヒロイン・キャラで、今回のアリエッティもその系譜に繋がっています。そんな少女の母親が初老のおばあさんのような風貌なのはどうもおかしく感じました。  スピラーという外界からの小人を演じたのは藤原竜也でしたが、どうも彼には見せ場がなく、アリエッティの父親を助けるという重要なシーン、つまり他にも種族が生き残っていたことを示すシーンが割愛されてしまっている。  人間に会ってはいけないという掟をいとも簡単に破り、結果として家族を路頭に迷わす羽目になるアリエッティは危機感がなく、種族としては滅びる運命にあるのではないかなどという野暮なことを言うつもりはありません。現実ではなく、童話として楽しめれば何の問題はない。
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 素直にジブリの世界を楽しめばよいものを環境問題やらなんやらの時事問題に無理くり当てはめて、ジブリ作品だからといって、必要以上に深読みするのは不毛ではないだろうか。  借りというのも、実際には盗んでいるだけだし、泥棒にも三分の利という言葉がぴったりくるというのも夢のない発想だろう。人間のものを盗んだという発想自体が傲慢な感覚であることに気付いていない。地球あっての人類であり、その反対は成立しません。  そうは言っても、全面的に支持できる作品ではないのも事実である。中盤に登場するネズミたちについては思わせぶりな語り口だったので、どこかで重大な事態を引き起こすのかと思いましたが、以降まったく登場することなく、そのまま消えてしまいました。
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 ネコのミーアは結構活躍し、翔とアリエッティの別れを演出したりしていて、全体を通して弱いキャラクターばかりの中では印象的でした。スピラーを最初に見たときに真っ先に思い出したのは『未来少年コナン』に出てくるジムシーでした。野生児で粗野だけど、ぎこちない優しさを持つ、この少年の登場はのこされ島で隔離されて住んでいたコナンの設定を思い出させました。
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 余談ではありますが、サッカーのコロンビア代表のカルロス・バルデラマを最初に見たときに、あまりにジムシーに似ているのでついついコロンビアを応援していたのを思い出しました。民家の軒下で小人が生活しているという設定はメルヘンチックですし、楽しめるはずなので、目くじら立てずに観たほうが有意義に時間を過ごせます。 総合評価 68点
借りぐらしのアリエッティ サウンドトラック
徳間ジャパンコミュニケーションズ
2010-07-14
セシル・コルベル

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