良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『X-MEN 2』(2003)より深く、より暗くなっていく第二弾。よく出来ています。

 ミレニアムや2000年問題、そしてノストラダムスの大予言に沸いた世紀末後の2000年に公開され、大人気だった前作『X-MEN』に引き続き、3年後の2003年に公開されたのがこの『X-MEN 2』でした。  前回の作品『X-MEN』では白人と黒人の間の差別を解消し、生きる権利の平等を求めたアメリ公民権運動を強く意識していたような作りでしたが、今回の作品では家族からも拒絶されてしまうミュータントたちの苦悩や絶望といった、プライベートなより深い部分まで描こうとしている。  最近のアメリカ映画ではあまり本音の部分は描きにくくなっているように思えますが、アニメやコミックスという形を借りて、言いたいことを描こうとしている点は興味深い。時代劇が実は現在の社会問題を描こうとしていたように、こういう作品を違う視点で見るのは正しいかどうかはなんとも言えませんが、楽しいのは間違いない。
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 差別の対象となっているミュータントたちが本来であれば、一番の理解者であり、味方であるはずの家族からも煙たがられ、迷惑がられるというのはとても悲劇的である。人類にはない能力を持っている彼ら自身が実はそんな能力など望んでいないという演技があちこちに入るのもなんだか哀しいなあと思いつつ、見ていました。  一番悩みを理解し、傷つきやすい自分を助けてくれる存在でいて欲しい家族にすら裏切られてしまうと他者との関係が築けなくなってくる。各個人の個性をデフォルメしたのがミュータントというキャラクターなのでしょう。
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 極左思想を持つ者や異教徒、障害を持つ者に対し、一般社会が持つ感情は冷酷で無慈悲なのかもしれない。この映画は異文化思想や信条への無理解と彼らを弾圧したり、差別することを人間としてどう考えるかをやんわりと訴えかけようとしているのだろうか。  ミュータント同士の内輪揉め的なストーリーだった前作と違い、今作ではミュータントを絶滅させようとする科学者ストライカー(人類)と呉越同舟ながら、団結してストライカーたちと対決しようとするミュータントとの激しい戦いを主軸に物語が進められていく。  個性豊かなミュータントたちの登場で、より見所が多くなっているのも特徴です。ここを多すぎて分かりづらいと取るか、キャラクターが増えて楽しいと取るかで意見も分かれてしまうのでしょう。
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 自分たちと違う能力を見ると、人類は本能的にそれらを迫害し、抹殺しようとする。ミュータントが人類の進化の過程であるならば、古い人類は滅びる運命にあるという仮説に基づいて、政策を決定していく。  それを避けるためには手遅れにならないうちに、つまり自分たちがまだ優位に立てるうちに決着をつけておく必要がある。またミュータントにより不幸な目にあわされた人々の憎悪は彼らミュータントを弾圧し、抹殺するための決まり事を合法化したり、彼らに有効な最新兵器(薬物)を製造するモチベーションとなる。
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 こういう風に色々と考えさせてくれるのはこの映画でキャラクター各々の性格や哀しみが描かれているからでしょう。見所をいくつか挙げていきます。  まずは冒頭のリンカーンの言葉が紹介されたあとに起きるホワイトハウス襲撃シーンは導入部として効果的で観客を物語世界に誘導して行く。
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 たったひとりの、しかも組織に属さない一匹狼のミュータントの突発的な攻撃にも対処できない人間たちの無力な現実が露わになり、彼らミュータントをあらためて脅威として認識し、封じ込める手段を模索する。  第二は脱獄するための道具を調達する方法がかなりユニークで、記憶に残っている。逮捕監禁されているマグニートーが超有能な変身型ミュータントであるミスティークの協力で看守に鉄分を注射して、気づかれずに監獄まで持ち込み、ついに脱獄するシーンの作り方がアイデア満載でした。
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 人体に大量の鉄分を注射し、警察のボディ・チェックをくぐり抜け、エリックに吸収させる。ソフト・ボール並みの大きさになった鉄分を弾丸サイズに再形成し、監獄を打ち破る。  前回は敵役だったマグニートーやミスティークが味方になったときにどれほど強大な能力を発揮するのかが興味深い。そして最後はクライマックスでの重要キャラクターであるジーン・グレーの死のエピソード。
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 お約束のストーリー構成であり、スター・ォーズのシリーズでオビワンやヨーダが死に、ハン・ソロがカーボナイト冷凍されたように、このシリーズではジーンやチャールズ(『X-MEN ファイナル・デシジョン』)が犠牲の生け贄となり、主人公たちを成長させ、団結させていく。  そして一時は結束したものの人間を信じようとする立場のチャールズたちと人間不信が根底にあり、所詮打ち滅ぼすものと決めているエリック(マグニートー)たちの考え方の違いがより鮮明になり、人間への対応もことごとく違っていくように際立たせる描写も多い。 総合評価 75点