良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『フェアリーテイル』(1997)イギリスで実際に起こった妖精騒動、コティングリー事件を扱った作品。

 名探偵シャーロック・ホームズを生み出した、有名な推理小説作家アーサー・コナン・ドイルや世紀の奇術師ハリー・フーディーニまでもが巻き込まれてしまい、本国イギリスのみならず、世界中で大騒ぎになった1917年にヨークシャー州のコティングリー妖精事件を映画化したのがこの『フェアリーテイル』でした。  この映画は今から十年以上前にWOWOWかVHSで一度見た記憶があるのですが、タイトルが思い出せない作品でした。ちょうどレンタルがVHSからDVDに切り替わっていくタイミングだったためか記憶の底に埋もれていきました。  つい最近、マーロン・ブランド主演の『妖精たちの森』を見る機会があり、『ねじの回転』との関連を調べていくうちに、妖精にちなんだ記事もGoogleで数多くヒットしてきました。
画像
 その中にイギリスの妖精騒動を取り扱ったものが出てきました。そのときに不意に思い出したのがこの映画のことで、探していくうちにタイトルが『フェアリーテイル』だったことが判明しました。  ついでにWikipediaやいくつかのサイトでこの妖精騒動についても調べていくと、何十年以上も前に心霊関連書籍で何度も見たことのある数葉の写真に目が奪われました。  清楚で可愛らしい洋服を着込んだフランシス(12歳)とエルシー(8歳)の少女二人の目前に小さな人間の形をしていて、しかも羽根が生えている生物が楽しそうに遊んでいる写真が四枚ほど掲載されていたもので、小さい頃は妖精たちの姿を見て、素直に驚いていました。
画像
 すぐにこれらの写真は論争を呼び、何枚かの写真は当時から妖精への光の当たり方やブレのなさ、平面的で立体感がないことからトリックが指摘されていたようです。後々にこれらの写真のうちの最後の一枚以外はトリックであることが技術的に証明され、しかも年老いてから本人自身がネタばらしをしましたので、収束に向かいました。  が、そもそも妖精というのはサンタクロースと同じで夢のある話なのだから、現実的な大人が目くじら立てて、その真偽を確かめる必要などないと思っています。この事件はそもそも長男を亡くしたあと、落ち込んでいた母親を慰めるために娘たちが写真を撮影しました。  だが、それらの写真が巡り巡ってコナン・ドイルにまで届いて、フーディーニやコダック社をも巻き込んでの大騒動になってしまい、収拾がつかなくなった少女二人が口を噤んでしまったというのが真相だったのかもしれません。
画像
 しかしこの映画のスタンスは事実を暴くことが目的ではなく、少女間の友情や親子間の愛情だったり、ヨークシャー州のコティングリー渓谷あたりの自然のなかでの牧歌的な雰囲気を重視している。何気ないカットのなかにも豊かで穏やかな森の呼吸が感じられる。  そして特徴的なのが特撮技術を使用して、妖精たちが生活する様子もあちこちに盛り込まれている点でしょう。しかしこの妖精登場シーンが諸刃の剣であり、ファンタジーにも、ドキュメンタリータッチにも振り切れずに、中途半端な展開が続いてしまう結果となっている。  もっともドラマだと割り切ってみていくと、自然環境を汚染しているのは人間であり、身勝手な人間さえいなければ、自然環境は復活していくだろうことも示される。妖精が出たら出たで、すぐに金にしようとするような地主や新聞記者などのマスコミ、そして捕まえようとするバカな子どもたちや観光気分で渓谷を荒らす輩がウジャウジャ登場してくる。
画像
 しかし最後まで見ていっても、事件の顛末が語られることもなく、モヤモヤした気持ちで作品が閉じられる。それでもこの作品には第一次大戦に従軍し、戦死したものと諦められていた少女の父親が帰ってくるというハッピーエンドが待っている。父親がメル・ギブソンだったのには驚きました。  第一次大戦後で人心が荒廃していた当時のイギリスにおいては妖精のようなスピリチャルで純粋な存在が実在しているという心のよりどころが必要だったのでしょう。だからこそ多くの人間が関わっていったのかもしれません。  実際の事件の顛末に戻りますと、厄介だったのは二十世紀前半で、そもそも特撮的な撮影知識などはあまり知られていない時代にまさか年端の行かない少女たちがカメラの現像の知識やそれを利用してのトリック写真の合成知識などを知っていたという事実でしょう。  大人でも理解していない者がほとんどだったであろう時代に、まさか少女が知るわけがないと思っていた大人たちにとってはこの騒動は衝撃を与えたに違いない。少女の父親は写真の現像が出来る人物で、彼女たちも現像所に出入りしていたのです。
画像
 のちに騒動が収束してから、少女は5枚のうちの4枚についてはトリックだったことを認めたが、最後の一枚については本物だと言い切っていた映像を見ました。まあ、彼女たちを擁護したのがコナン・ドイルやフーディーニという当代の有名人だったので、彼らの名誉を守るためにも少女たちは沈黙を守らねばならなかったのでしょう。  フランシスもエルシーもとうに亡くなり、今となっては関係者のほとんどは鬼籍に入っているので、実際はなぜそんな行動を取ったのかなどの理由は分かりませんし、これほどの騒動を引き起こした気持ちはどうだったのかは知る由もない。  この映画の見所のひとつに騒動に巻き込まれた少女たちを演じたフローレンス・ホース(エルシー)とエリザベス・アール(フランシス)の上手さにあります。個人的にはピーター・オトゥールコナン・ドイル)とハーヴェイ・カイテル(ハリー・フーディーニ)の存在感の大きさを覚えています。  映画としては比較的新しい部類に入りますので、懐かしいというほどの時間は経っていませんが、妖精写真を見てからは30年以上を経過しているので、やっぱりなんだか懐かしい。 総合評価 70点
妖精の出現―コティングリー妖精事件
あんず堂
アーサー・コナン ドイル

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 妖精の出現―コティングリー妖精事件 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル