良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出』(1981)ウォルター・ヒルの幻のアクション映画。

 この映画『サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出』は関東に住んでいた小学校高学年の頃、東京12チャンネルのたしか深夜放送でやっていたのを一度見たきりでも強烈な印象が残りました。  ずっと気になっていたので、80年代中盤以降のレンタルビデオ黎明期にあちこちのレンタル屋さんでよく探しに行きましたが、まったく発見できず、ぼくはこの作品はさすがにリリースされていないのだと諦めていました。  テレビ放送時のタイトルは『ブラボー小隊・恐怖の脱出』でしたが、なんとビデオ題が改題されていて、『ダーティ・アーミー 悪魔のカルト集団』だったのです。これほどに痕跡を残さずにまったく変わってしまっていては、遠い記憶を辿っていった一般ファンに見つけられるわけがない。  放送したテレビ局と商品化の権利を持つ会社が違うのは理解できますが、仮にも一度つけたのだったら、タイトルを安易に改変しないで欲しい。  大昔のテレビ放送、とりわけテレビ東京でやっていたものには強烈な思い出のあるものが多くありますのです。思春期や幼少期にそれらを見た者の記憶は鮮烈なのですが、さすがにマイナーな映画ばかりでしたので、タイトルをちょっと変えられてしまっただけでもう探し出せない。
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 現在はまだインターネットが普及しているので、検索という機能を使えば、キーワードをいくつか入れるだけでお目当ての作品に辿り着くにはそう難しくはなくなってきていますが、80年代という周りの知り合いしか情報源がなかった時代ではなかなかお目当てのタイトルにはたどり着けない。  まあ、それはさておき、ギョロ目がいかにも悪役顔で、主役を演じるには難があるものの、ジョージ・F・ケネディ(『サンダーボルト』とかエアポート・シリーズとか)と共にぼくらがよく覚えている存在感のある脇役俳優(失礼!『マーティ』とか主演を務めた良い映画もあります。『ワイルドバンチ』も良かった。)にアーネスト・ボーグナインがいました。  彼が出ていた作品のひとつに『恐怖のマンハント』がありますが、残虐ながら現在、日本盤DVDが発売されておらず、現状ではなかなか見ることが難しそうです。  アメリカのリージョン1のDVDにしようか、どうしようかなあと思い巡らせていると、ふいに忘れていたあるタイトルが頭に浮かびました。それがこのウォルター・ヒル監督の“ブラボー小隊”でした。  もっとも正式なタイトルをすっかり忘れていて、あらためて調べると『サザン・コンフォート ブラボー小隊・恐怖の脱出』という長いタイトルでした。案の定、“ブラボー小隊”はうろ覚えの題だったわけです。
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 監督のウォルター・ヒルって、たしか『48時間』や『エイリアン2』もこの人だったような気もしたので、大昔に録画したビデオを見たら、やっぱり彼でした。  そんな彼が撮ったこの作品は軍隊が戦う映画ではありますが、戦争映画ではないし、未知のエイリアンとの接近遭遇からの殲滅戦を描いた訳でもない。それでもたしかにこの映画には緊迫感のある戦闘が描かれている。  また作品のあちこちに『地獄の黙示録』や『脱出』のアイデアを確信犯的に拝借している。ただそれを以て、やっつけ仕事のパクリ作品でしかないというような単純な映画でもない。この作品には独特の力強さが確かにあります。  舞台としてルイジアナ州兵の週末訓練を選んでいましたが、ゲリラ戦的な作品を撮りたかったのでしょうか。内容を見ていきます。主人公を含むパートタイムの州兵たちは週末訓練の一環として、湿地帯の鬱蒼とした森林での行軍を実施していくうちに、ある部落(フランス移民のケイジャン)の所有地域に迷い込んでしまう。  傲慢で自分達のルールが絶対だと思い込んでいるバカで田舎者のアメリカ州兵たちは御多分に漏れず、傍若無人な行動を取り続ける。本当にバカばっかりで笑いが出るくらいの低脳振りです。
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 低脳だけなら問題はないのですが、傲慢さがセットになるとかなり厄介になります。他人の土地に勝手に侵入し、他人の移動手段を勝手に使い、ばれると発砲して威嚇し、民家の主人に拷問を加え、放火した上、爆破する。  さらに拉致して、何日も湿地帯や沼を連れまわす。まさに暴挙の連続です。見れば見るほど、バカなアメリカ兵よりも被害者のケイジャンに肩入れしたくなってくる。この湿地帯がとても効果的な舞台となっていて、ゲリラ戦を描くには持って来いのロケーションでした。  追い詰められていく州兵たちも葛藤を繰り返し、味方同士の相克ののちに仲間割れしていき、ついにはお互いに殺し合うまでの極限状態に陥っていく。ある者は精神に異常をきたす。  またある者は身勝手な行動を取り、単独行動を取ってしまい、部隊から離れて沼地に沈む。見ず知らずの湿地帯でブラボー小隊は死傷者の山を積み上げていく。  それでも所有地に侵入して、勝手なことをされた排他的なケイジャンの怒りは収まることなく暴発し、州兵への嫌がらせはエスカレートしていき、残虐な反撃を仕掛け、最後の一人になるまで執拗に追い回すというとんでもない作品でした。
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 どうとんでもないのかというと、作品の舞台はベトナムの森でもアフリカの奥地でもなく、アメリカ国内、しかも白人優位の南部ルイジアナだということです。つまり米国民同士の殺し合いを描いた問題作がこの『ブラボー小隊・恐怖の脱出』なのです。  80年代初頭の大昔に東京12チャンネルで見た記憶があります。今回は多分こんなのはDVDリリースもされていないのだろうなと諦めつつも、ダメもとで調べていくと、なんとDVD化されていたので(すでに廃盤にはなっていましたが…)、Amazonで即買いしました。  見えない敵に次々と各個撃破されていく過程はまさにどちらが先頭のプロなのかが分からなくなってきます。地の利を生かした攻撃の前に米軍が崩れ去るというのはベトナム戦争そのものであり、この作品を見たであろうアメリカの観客はあまり良い気はしなかったのでしょう。  そのためなのか長い間、この作品は本国でも評価されていなかったようで、あまり話題にも上がりませんでした。それでも都合の悪い映画でも良い映画は正当な評価を受けるようになっているようで、しっかりとDVD化もされていて、我が国でも国内盤がリリースされていました。  有名とは言いがたい作品ではありますが、舞台となったルイジアナの湿地帯の陰気な感じとざらついた映像は戦闘の厳しさを物語り、作品にリアルな雰囲気を与えている。  また綺麗ごとではない、訓練では出て来なかったであろう隊員各々の個性や知性が白日のもとに晒され、スマートでない者には死が待っているという戦場での弱肉強食がはっきりと示される。復讐するケイジャンたちの執念深さも尋常ではなく、州兵が埋葬した兵士たちをわざわざ掘り出して、高い木に首吊りさせるという陰湿さも見せる。
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 作品の大半は昼でも薄暗く、ジメジメしてそうな湿地帯が舞台であり、爽快感はまったくない。それでもこの映画は凡庸なベトナム物映画の数倍の魅力を今なお湛えている。  パロディ的に楽しいのは『地獄の黙示録』からの引用で、敵の本拠地でのお祭りに参加しているときに多くの一般ケイジャンが踊り、歌っている中、カットバックで追っ手のケイジャンたちと死闘を繰り広げる部隊の生き残りが映し出されていく。  そのときには『地獄の黙示録』で祭事の生贄にされた水牛に変わり、ソーセージにするブタを吊るして祭りの供物に添えていく。この前にヒッチハイクをしていて、ブタたちを運んでくるトラックの荷台に載せられる主人公たちの様子は滑稽ではあるが、彼らの運命を暗示するようで不気味なシーンでもある。  『地獄の黙示録』ではドアーズを全面的に押し出して、作品を大いに盛り上げていましたが、この作品ではライ・クーダーの音楽を起用していました。彼のつけた気だるく、ゆったりとしたサウンドは映画の雰囲気にマッチしていて、けっして押し付けがましい音楽ではないのに、とても強く印象に残っています。  ヘリコプターによる救助が来そうで来ない絶望感や軍隊に助けられているのに全く爽快感のないやるせなさはなかなか凡庸な作品では味わえない。特に最後のカットで示される米軍の星印にはどういう意味を込めたかったのであろうか。このなんだか引っ掛かって、胸につかえるような感覚を体験して欲しい。 総合評価 88点
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