良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『マイク・ザ・ウィザード』(1988)これを見て、楽しくなけりゃ映画ファンじゃない?

 部屋の整理をしようとして、押入れ奥のビデオの段ボールを引っ張り出してきました。ふいにある作品を見たくなり、ガサガサと箱の中を探していたのですが、この作品のビデオテープを発見したので、数年振りに一本のビデオを見直しました。  20年物のVHSテープはさすがに劣化してきましたが、内容はいまだ色褪せることなく、ぼくら特撮映画ファンの心に強く響いてきます。
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 監督・脚本・演出・編集・主演をやり切った、マイク・ジトロフのルックスはいかにも映画オタクで、なんか体臭がキツそうで、頭もフケいっぱいで臭そうな印象なので、おそらく女性映画ファンにアピールするポイントは皆無かもしれません。ただ、気持ち悪がらずに、そこらへんを差し引いてもらえれば、きっと本質を理解してもらえるでしょう  二十代以下の若い映画ファンにはまず知られていないであろう80年代の映画に『マイク・ザ・ウィザード』という作品があります。この作品を最初に見たのはいつの日だったかは覚えていませんが、20年以上は前なのは確実で、深夜帯の地上波アナログ放送番組で、司会は浜村純でした。
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 彼がこの映画を紹介するときのコメントがいまだに忘れられない。彼はこう言った。「さあ!それではアメリカのすごいSFX映画をご覧ください!」。彼は明らかに本編を見ていないか、もしくはブラック・ジョークをカマシタかのいずれかでしょう。  これを見た人ならば、ご存じでしょうが、これほどハンドメイド感が強く、痛々しいほどに暖かく、しかもお馬鹿丸出しの映画は珍しい。
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 予算のない中で、彼が苦心しながら選択して作り上げた特殊効果フィルムはコマ撮り、つまりレイ・ハリーハウゼンでお馴染みのストップ・モーション・アニメーションでした。しかも無茶苦茶安っぽい版なのでした。  この映画は自主製作映画を撮り続けていたセミ・プロの映画オタクが完成できるか否かのギャンブルの対象として、ハリウッドの映画プロデューサーの妨害に悩まされながら、たった三週間で特撮映画を完成させる過程を描いています。
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 作品の途中では監督・主演・特撮・撮影のマイクの自主製作アニメ映画『THE WIZARD OF SPEED AND TIME』(1979)の映像が挿入される。  マイクの特撮と映画に対する純粋な愛情はハリウッドの映画人たちがとっくの昔に失ってしまった感情、そしてもしかすると映画ファンでも子供時代に忘れてしまった映画を大好きだという気持ちを思い出させてくれます。
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 はっきり言って、かなり野暮ったいし、ふざけているとしか思えない方もいるでしょうが、彼はいたって本気で映画を誰よりも愛しています。  もしかすると自分でも作れるかもしれないという気持ちにさせてくれるような自宅ガレージを使用した特撮シーン撮影やお金がない部分は考え抜いたローテクで乗りきっていく様は痛快で、金ばかり掛けている割りにはまったく血が通っていないハリウッド映画よりも数倍楽しく時間を過ごせる作品がこの『マイク・ザ・ウィザード』なのです。
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 この安っぽさと暖かみが同居している様子は奇跡的であり、人間味溢れるエド・ウッドとでも言いたくなる作品でした。ただ残念ながら、いまだにDVD発売はされておらず、ぼくも大昔に購入したVHSをダビングしながら、今回あらためてこの『マイク・ザ・ウィザード』に接しました。  けっして万人向きとは言い難いのは承知していますが、映画は楽しいものだという原点に帰れるお馬鹿作品です。トラウマ映画にはなれませんが、カルト映画にはなれる要素を持っています。とにかく楽しいので、ヤフオクでVHSを落札しましょう。
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総合評価 80点