良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『死亡遊戯』(1978)いまでも思い出す巨人カリーム・アブドゥル=ジャバーとの死闘!

 『ドラゴン危機一発』(1971)『ドラゴン怒りの鉄拳』(1971)、そしてハリウッド製作の『燃えよドラゴン』(1973)で全世界的な第一次カンフー・ブームの立役者となったブルース・リー。  彼の最後の出演作としてこの『死亡遊戯』(1978)があります。しかしながら、リー本人はこの映画が完成する前の1973年の『燃えよドラゴン』が公開される前にはすでに死去していました。  死因はアナフィラキシー・ショックで、原因となったのは当時の恋人が持っていた鎮痛剤をリーが服用したためと言われています。ぼくが子どもの頃の80年代には映画のフィクションの世界と現実とを混同したリーが格闘家と戦い、そのときの負傷が原因で死亡したというのも友達のうわさ話や雑誌でまことしやかに語られていました。
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 ハリウッドでせっかくカンフー・ブームが到来しているのに、最大のスターが死亡していて新作が作れない。それでもお金が欲しくて諦めきれない香港映画界はブルース・リーが生前撮り貯めていたフッテージ・フィルムを最大限に利用して、足りない分はギャングから顔を隠すために整形をしたのだという強引なストーリー展開と数人の代役の俳優で最大の問題を乗り切ります。  もちろん突っ込みどころは満載で、何よりも代役俳優たちが未熟で、動きの一つ一つがリーには遠く及ばない。継ぎ接ぎだらけのフランケンシュタインの怪物程度の仕上がりではあります。ファンを喜ばせる要素もあり、『ドラゴンへの道』の撮影中に天井から照明が落下してくるというシーンがある。  また『ドラゴン怒りの鉄拳』のラストシーンでのカメラへの跳躍してくる場面がありますが、この映画ではリーが顔を撃たれてしまい、そのまま死亡し、葬式シーンに繋がれていく。この葬式シーンは実際のリーの葬儀のフィルムも要所に使われているというのを雑誌で読んだことがあります。
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 映画のストーリーそのものはかなり酷く、無理やり感が強い。それでもオープニングで過去作品の名場面をフューチャーした、007シリーズのようなカジノを髣髴とさせるスタッフ・ロールの出来は良い。  ストーリーだけではなく、編集の繋がりやコンテや明暗の繋がりもメチャクチャで、あちこちに映画としての綻びがあるものの、敵のアジトである楼閣での一階ごとに配置された強敵たちとの一騎打ちシークエンスは他を忘れさせるほどに飛び抜けて素晴らしい。  とりわけ2メートルをゆうに越える巨人のカリーム・アブドゥル=ジャバー(バスケットボールの選手で大スター。リーのジークンドーの弟子でもあった。)との対戦は語り草になっています。
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 この映画の最大、そしてブルース・リー最後の見せ場であるハキム(カリーム)との戦いは子供心にもカリームの巨大さが異様に映ってました。  リーが罠だと知りながらも、ボスが仕組んだ殺人ゲームの舞台である楼閣を登って、慣らし運転のようにヌンチャクや棒術で二人の刺客を倒して、また一段上ると、三階の薄暗い室内でサングラスを掛けて、表情の窺い知れない黒人が座っている。  大巨人カリームがぬうっと立ち上がるときにリーが見せる「なんだこのバカでかいヤツは!?」という表情は観客の思っている反応と同じで、妙にクスクスと笑ってしまうほど可笑しい。
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 リーとカリームが対峙する様子を引きでとらえたショットは何度見ても圧巻です。まるで大人と子供の戦いのようで、アポロンゴリアテギリシャ神話の対決を見ている感じです。  ぼくらが知っていた大巨人はジャイアント馬場アンドレ・ザ・ジャイアント、または007に出てくるジョーズくらいでした。巨人の彼らはのそのそと動いていたが、カリームは巨大なだけではなく、動作が異常に素早いので、さらに驚かせてくれます。  リーとの対戦は終始殺伐としていて、急所攻撃やチョーク攻撃が当たり前のように飛び出してくる。形式化した時代劇で見るような主役を立てるための殺陣とは別物の陰惨なアルティメットのスタイルや大昔に見た第一次UWFでのセメント・マッチを見せつけられる感じでした。
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 この映画は先にも語りましたように、継ぎ接ぎだらけでメチャメチャな仕上がりとなってしまいましたが、リーがきちんとコントロールして最後まで完成させてから亡くなっていたとすれば、よりクライマックスが引き立つ、素晴らしいカンフー映画になっていたのは確実です。  そう考えると彼の早すぎる死はやはり惜しいし、あと数本は名作をモノにしていれば、その後の香港映画の流れも随分と変わっていたのかもしれません。  ただあくまでも推測の域を出ませんので、より大きく化けていたか、尻すぼみになっていたかは誰にも答えが出せない。たとえ中途半端な断片であったとしても、何十年経ってもまったく色褪せない彼の躍動する魅力がフィルムにはしっかりと焼き付いています。
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 いまでも『燃えよドラゴン』のテーマがかかるとニコニコしてしまいますし、ジョン・バリーが付けた『死亡遊戯』の音楽もかなりカッコいいし、サントラLPが欲しいなあと小学生のころに思っていました  ぼくが最初にブルース・リー映画をテレビで見たのは『燃えよドラゴン』で小学4年くらいでしたが、次の日はもちろん教室や校庭のあちらこちらで「アチョ!アチョ!アチョー!ホオォ~!」の怪鳥音とともに蹴り合いが行われていました。  けっこうバチバチに殴り合っていましたが、お互いに喧嘩馴れしている世代ですので、蹴るのはお尻だったり、二の腕だったりしたので不思議に誰も怪我などはしませんでした。
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 これに付け加えると、ブルース・リーといえば、ブンブン振り回すヌンチャクが必須アイテムで、大きいお兄ちゃんがいる家にはかなりの確率で部屋にヌンチャクのオモチャが転がっていて、みんなで振り回していたものです。  もちろん当たれば痛いのは分かっているので、だれも他人には向けませんが、自分でブンブン振り回しているうちに下手を打ち、おのれの肩口や脳天にぶち当てて号泣するというシーンを何度も見ましたし、ぼくもヌンチャクの痛みを味わう体験をしました。  映画のストーリー展開は複雑なお話しではなく、あってないようなガイドライン的な役割しかない。ブルース・リー映画はあくまでも彼と彼のアクションを楽しめば、それで十分なのです。
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 各階に待機しているカンフーの使い手を一人一人倒していく過程を楽しむためにはそこまでの時間をDVDで早送りするなどの野暮なことをせず、代役やストーリーがショボくても、きっちりと付き合わねばなりません。  タランティーノの『キル・ビル』でユマ・サーマンが着ていた黄色いトラック・スーツの元ネタとなる殺人バイカー集団との抗争が見られるのもこの映画ですし、ブルース・リーの葬式シーンも出てくるので、見所は豊富にあります。
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 今回はおよそ三年振りにDVDで見ました。小さい頃に見た映画は欲目もあるでしょうが、今見ても、やはり楽しい。このリー映画の後、カンフー映画の人気はコミカルなジャッキー・チェンが受け継いで行きます。  この映画にはデブゴンことサモ・ハン・キンポーが格闘家役で出演し、しかもシリアスに闘っています。その後のデブゴン的な動きや笑いの要素は一切ないので、見たことのない人は違和感を覚えるかもしれません。
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 ジャッキーやデブゴンの楽しいカンフー映画には馴染めないブルース・リー世代のファンは彼を忘れることはなく、今でもヌンチャクを渡されれば、思わず「アチョー!」と叫んでしまい、「考えるな!感じろ!」と言ってしまうでしょう。  映画そのものを冷静に評価すると50点以下になるでしょうが、クライマックスの格闘シーンはそれらを補ってあまりありますし、なによりもブルース・リーの遺作だと思えば、お蔵入りさせずにリリースされただけでも御の字でしょう。 総合評価 63点
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