良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『デスレース2000』(1975)ロッキーでスターになる前のスタローンが出演したチキチキマシン!

 『デスレース2000』はB級映画の帝王、ロジャー・コーマン製作による、いつもの通りの低予算映画であり、近未来(20年後とかなので、SF未来都市とか作らなくていいので、すぐ出来て安上がりだから!)SF物のバイオレンス・レース映画です。  70年代後半まで、当時は誰も知らなかったオーストラリア人俳優、メル・ギブソン出世作『マッド・マックス』の元ネタとしても有名ではありますが、どちらかというと『チキチキマシン猛レース』を大人向けに書き直した感じと言ったほうがしっくりくる。ヒュードロ・クーペとか懐かしい。
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 マシンも見れば大笑いするような張りぼてマシンで、プラモとかだったら、カッコいいのでしょうが、実際に公道を走っている様子は予算が足りなかった特撮ヒーロー映画に出てくるイタイ乗り物にしか見えない。車の前面の先に串刺し用(ポイントを稼ぐためにいるのでしょう。)の刃物が突き出している。これで通行人を突きまくり、通り魔のように殺傷していく。  金髪美女のセクシー・ショット&分かりやすい残酷描写が多く、ドライブ・イン・シアターだったり、深夜テレビで見るのが正しい、究極のおバカ映画という位置付けがもっともしっくりときます。しかも行き着くところまで行き着いた感のある過激さが売りになっている。
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 クエンティン・タランティーノが好きそうなテイストの作品といえば分かりやすいかもしれません。この映画はデヴィッド・キャラダイン演じるフランケンシュタインというボンテージ・ルックのSM的というか、バットマンを思い出すアメコミ的なキャラクターのレーサーが主役なのですが、一般には『ロッキー』で名を上げたシルヴェスター・スタローン出演作品というのを売り文句にしているようです。  じっさいにぼくが持っている大昔のVHSビデオのジャケットも彼が主役のような装丁になっています。しかしながら、準主役的な扱いで、けっこう画面に写っている彼ではあますが、後半には見せ場は用意されているものの、フランケンシュタインの助手の美女に爆弾を放り込まれて、あっけなく爆死してしまいます。
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 このすぐ後に自作『ロッキー』で有名なハリウッド・スターになった彼を見るのが目的だったであろうファンにとってはリバイバル上映でワイルドな彼を楽しめたでしょうが、主役でもないこの映画を新作のように見せかけたであろう商魂逞しいコーマンたちのリバイバル戦略に見事にはまってしまったのでしょう。  ロッキーが出るんだから、もっと大活躍をするはずだと信じ込んでいたであろう観客はスタローンが呆気なく車ごと爆死する様子を半笑いでボンヤリと見つめていたのではないでしょうか。それでも彼は一定レベル以上の存在感は出しています。
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 個人的には性質の悪いチンピラ役がもっともしっくりとくるのがシルヴェスター・スタローンという俳優なので、この映画は『ナイト・ホークス』での刹那的なカッコよくない役柄は適材適所だと思います。  『ロッキー』もアメリカン・ドリームを掴むクライマックスよりも、むしろ前半部分のバート・ヤングらとクダをまいている取り立て屋の生活を描いている部分のほうがリアリティーがあります。
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 この一歩間違えれば、確実にお蔵入りしそうな『デスレース2000』をB級映画らしく、理屈抜きで楽しめる作品に仕上げているあたりはさすがのロジャー・コーマン製作です。それでも日本では地上波放送はもちろん、CSでもなかなか放送するのは難しそうです。  暴力、スピード、セクシー、カーチェイス、漫画チック、ブラックユーモアと理屈抜きにビール片手に騒ぎたいアメリカ人観客が喜びそうな要素をすべて押さえ、しかも上映時間を約80分間にまとめて、コンパクトで観やすい作品に仕上げているのも、さすがのロジャー・コーマンです。
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 観客の集中力、劇場の回転率と収益を考慮に入れた興行屋としての彼の考えが上手く作用した一本だったのがこの『デスレース2000』なのです。『白昼の幻想』などとともにコーマン関連作品中でも屈指の人気を誇っています。  作品世界は単純明快で、全米から選ばれた5人のレーサーたちがアメリカを横断しながら、途中で何人を轢き殺してポイントを稼ぐかという悪趣味極まりないものです。
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 なぜ5台なのかは分かりませんが、おそらく予算が少ないので、それ以上の台数や俳優たちを確保できなかったのでしょう。でも10台以上出てこられても、キャラクターを描き切れないでしょうから、5台でよかったのかもしれません。  もっとも悪趣味なのはレースのルールです。たしか70代以上の老人は100ポイント、赤ん坊は70ポイント、女性は10ポイント、男は5ポイントとされていて、実況放送シーンでは誰が何人殺して、現在誰がトップなのかを嬉々としてアナウンスしていきます。頭を轢き潰すという悪趣味なシーンもあるので、そういった描写を嫌う方は止めといた方がいいでしょう。
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 こうしたコロシアム的な娯楽を提供することで政治批判を隠蔽しようとするアメリカ大統領と彼を亡き者にしようとする革命軍や復活したナチスも加わり。  しかもレースの大本命であるフランケンシュタインもじつは現体制を憎んでいることが明らかになってくると、革命軍側のスパイだった彼の助手も協力して、権力者を倒すことで大衆のヒーローという立場を獲得する。フランケンシュタインは大統領を車で襲い、殺害に成功する。彼は何点だったのだろう?
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 取ってつけたような政治批判が出てくるのはおそらくジョークであろう。アメリカ横断轢き殺しレースを描くだけというあまりにも単純なストーリー展開なので、ちょっとは何か考えた痕跡を残したかったのでしょうか。  なんともアナーキーな映画ではあるが、メチャメチャな展開と残酷描写にハマるとクセになる作品ではある。じっさいこの映画はとても人気がある作品であり、ラス・メイヤー監督の『ワイルド・パーティ』とともに70年代当時の混沌としたB級映画の雰囲気を楽しむのにうってつけでしょう。 総合評価 85点