良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『コンバット 恐怖の人間狩り』(1976)戦場の狂気を娑婆に持ち込むとどうなるか?

 映画を彩る俳優にはポスターのど真ん中に来る、お客さんを呼べる主役として君臨し続けるスターと彼らを支える脇役の二種類が存在します。子どもの頃からひねくれていたぼくは主役俳優よりも彼らの引き立て役になることが多い脇役の俳優たちについつい眼が行ってしまうことが多かったのを覚えています。  ぼくら四十代以上の映画ファンには馴染み深いアーネスト・ボーグナイン(『ワイルド・バンチ』『ウィラード』『魔鬼雨』『特攻大作戦』『ポセイドン・アドベンチャー』)やジョージ・ケネディ(『エアポート’75』『ゴースト/血のシャワー』『特攻大作戦』)は後者であり、彼らのような渋い汚れ役の脇役俳優が現在のハリウッドには欠けているように思う。
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 性格俳優という括りでゲーリー・オールドマンやショーン・ペンを主役にしてはいけないのではないか。またニコラス・ケイジみたいに普通に見れば笑えるルックスの俳優も分相応にスクリーンの隅っこで活躍していて欲しい。  ここ数十年ではダニー・デビートくらいしか良い脇役俳優が思い浮かびません。このような性格俳優とは違い、アーネスト・ボーグナインジージ・ケネディはA級とかB級に関係なく、どんな映画にもちょこちょこ顔を出しているのに、ちっともでしゃばらず、ストーリー展開の邪魔にはならず、しかも確実に映画ファンの記憶に強く刻まれていく。
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 昭和の邦画によく出ていた大部屋俳優出身者(川谷拓三とか。)のような安心感がありました。パセリやさしみのつま、鰻重の山椒のように少しの出番でも味を出す彼らはとても貴重な存在だったのです。  映画の芝居は主役とヒロインだけでは成り立ちません。彼らを補完する脇役が芝居にリアリティーと重厚さを与えていきます。脇役の彼らはいわゆるイケメンではありません。
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 それに体臭がキツそうで、ずんぐりむっくりで、いつも安酒とマルボロの臭いがしそうな漢たちです。たぶん肉ばかりを喰らい、野菜を食べる習慣はないでしょう。あまり丁寧に頭髪を洗うこともなかったでしょう。  この『コンバット 恐怖の人間狩り』をテレビで見たのは1980年代初めまでくらいですので、小学4年か5年生のころだったと思います。もちろん東京12チャンネルでしょう。
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 他のアメリカ映画とは違い(この映画はカナダ映画。子どもにカナダもアメリカもない!)、女性で出てくるのは未亡人役のオバサンと浮気願望の強い主人公にすり寄ってくる友達の奥さんだけです。  他はすべてアーネスト・ボーグナインクリフ・ロバートソンなどの頑固そうなオッサン俳優ばかりでしたので、けっこうインパクトがあり、なんだか汗臭い映画だなあという印象でした。しかもこの映画は決定的に暗く、笑えるようなシーンは狩りに行くときに好き勝手な悪口を言い合っているときの会話くらいです。
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 ずっと忘れていたこの映画を思い出したきっかけは町山智浩の『トラウマ映画館』でした。当然のようにDVD化されているわけもなく、トラウマ内で紹介されていたタイトル『コンバット 恐怖の人間狩り』で探しても、ヤフオクで一件もヒットしませんでした。  仕方ないなあと思いつつも、もしかしたらと、邦題にありがちなテレビタイトルとビデオタイトルが違ったものになることが多いのを思いだし、キーワードの“人間狩り”だけで再び検索していくと、『コンバット 恐怖の人間狩り』というタイトルのVHSビデオが二点ほど出品されているのを見つけました。
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 一本は8000円、そしてもう一本は1500円でした。1500円の方の紹介情報を読んでいくと、一部に画面が乱れる部分があるとの記載がありましたが、ビデオ・デッキにはテープとの相性があるので、あまり気にせずに安い方を落札しました。  そして到着後にチェックを兼ねて、ビデオ・デッキにセットして全編を見たところ、まったく問題なく再生できましたので、嬉しくなりました。
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 作品自体はトロントの深い山中での週末の狩猟が趣味の退役軍人たち(クリフ・ロバートソン、ヘンリー・シルヴァ、ジェームズ・ブレンディック、ラリー・レイノルズ、アーネスト・ボーグナイン)が主役で、ある週末の些細なイザコザが原因で双方激しく銃撃戦に陥り、一人のハンターを死なせてしまうことから始まります。  相手も同じような境遇の隣町のオヤジたちであり、文明国内であるにもかかわらず、白人同士でもある彼らとの不毛な蛮行としかいえない銃撃戦による復讐戦を描きます。
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 酒をあおりながら、楽しく狩りをしていたのが急に銃撃戦になり、クリフは相手のリーダーを撃ち殺してしまう。ビビリながらも町に帰り、翌日以降の新聞や地元のテレビを確認しても銃撃戦のことはまったく出ておらず、退職軍人の葬式の記事だけが目に留まる。翌日その家に偵察をかねて訪ねてみても事故として処理されているようなのです。  ここからが不思議で、なぜか主役のクリフ・ロバートソンは敵側は必ず今週末にも例の狩場に出てきて、敵討ちのために戦いに来ると判断し、味方を集め、装備を高めようとする。その様子を見ているアーネスト・ボーグナインはバカな考えを正当化しているクリフら4人に正気に返るように説得を試みるが、弱虫扱いされてしまう。
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 観客は気が狂っているクリフたちには到底付いていけずに、まだまともなボーグナインを応援するが、4対1では勝ち目はなく、仲間はずれが嫌な彼も結局は同行することになる。  色気はまったくなく、女も添え物程度にしか出てこない。建前ではウィークエンドの狩猟を趣味にしてはいるが、彼らはただただ殺し合いと銃撃をしたいだけなのです。
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 第二次大戦、朝鮮戦争、アフリカ各国での内戦、そしてベトナム戦争をくぐり抜けてきたものの、いざ帰国してしまうと、のちに『ランボー』で描かれるように社会のメインストリートでは歩けない日陰者になってしまう。  命のやり取りをしているときにしか生きていることを自覚できなくなってしまう。それは自分達だけではなく、山向こうの隣町の退役軍人も同じようです。  生きる場所を見失った者同士が惹き付けられるように吹雪で凍りつく小川を挟んで対峙する様は異様としか表現できません。
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 敵を出し抜くために万全の態勢を整えようとするボーグナインたちは武装した若い20名余りの州兵を演習という名目で巻き込み、装甲車に乗り、手榴弾や照明弾まで積載し、黙々と雪が積もる無人地帯に進撃していきます。  しかし事情を聞かされていない州兵たちは馬鹿馬鹿しくなり、川向こうを挑発してしまう。刹那、すでに雪上戦闘対応で完全武装した50人以上の真っ白な装備の異様な兵隊で構成される重火器部隊の一斉射撃を受け、瞬く間に殲滅されてしまう。  真っ白な装備で圧倒する敵側の姿は『ザ・クレイジーズ』の細菌対応部隊か『カサンドラ・クロス』の兵隊のようで異様な迫力を持っています。彼らの感情やまったく描かれず、台詞すらなく、ただただクリフ・ロバートソンが集めた州兵たちを銃撃し、殲滅する。
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 奇跡的に生き残ったのは指揮官のロバートソンだけで、しかも彼も銃撃を受け、失明してしまう。最後に友人すべてを失い、光を失った彼のモノローグがあります。  彼の後悔の言葉が始まるのだが、観客はおそらく彼がバカなことをしてしまったことを嘆くのかと予想します。しかし彼の言葉は観客の予想もしないもので、なぜもっと早く決戦の地に赴き、隣町のヤツらを待ち伏せして殲滅出来なかったのかを後悔しているという内容なのです。
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 こんな危ない、狂ったオヤジが主人公で、酷い目にあっても反省すらしていない野郎なので、見ていても感情移入しにくい。そもそも画面の画調は常に暗くて黒っぽく、クライマックスも真っ白な雪上戦の描写になるので、まるでモノクロ映画を見ているような気分になります。  銃の所持規制についてはジャンキーやヒッピーや黒人が家を襲いにくるから反対という人種偏見丸出しの立場を取る台詞が多いが、言っている当人もかなり危ないサイコ野郎たちの集まりです。  これじゃなかなかDVD化は難しいのでしょうが、アクが強い映画なので『サザン・コンフォート ブラボー小隊恐怖の脱出』によく似た雰囲気の作品なので、興味のある方はヤフオクで根気よく出物をお待ちください。 総合評価 80点