良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ジェレミー』(1973)モテなかったぼくらにはこれこそがリアルな恋愛映画だ!かなり情けないが…。

 アメリカなどの欧米を旅した方ならばお分かりでしょうが、現地空港へ着いた途端にあることに気づきます。というか、なんだか違和感が生まれてくるのです。  その違和感の正体は道行く人のほとんどが険しい顔をしていて、カッコよくないということです。ロサンゼルスはそうでもない(むしろ異様なくらい明るい!)ですが、ニューヨークやシカゴは馬鹿でかく、お腹周りがタプタプで、髪が薄くてトウモロコシみたいになっていて、機嫌が悪そうなのです。  昭和生まれのぼくらがふだん目にしてきた外国人はハリウッド俳優やドラマ(『奥様は魔女』みたいなヤツ。)に出てくる美男美女ばかりで、彼らには生活感がまるでない。魅力的でどうみても振られそうもない彼らが恋に破れたり、仕事に悩む姿をテレビや映画で見ているぼくらはいくら現実に失業率がかなり高いとニュースなどで聞いても、どうにもピンと来ない。

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 比較的に新しい90年代の恋愛映画を見ても、出てくるのは『めぐり合えたら』のメグ・ライアンや『メリーに首ったけ』のキャメロン・ディアズなど可愛らしい女優ですので、絶世の美女という訳ではないもののこれも現実味はない。  ポチャポチャしたレニー・ゼルウィガーくらいまで来て、ようやく庶民的かなあと思ってしまう。そんななか、さすがに1970年代はリアル、というか夢見がちではない作品が生まれています。そのひとつが『ジェレミー』です。  主人公のロビー・ベンソンはガリガリ君でファッション・センスも感じさせず、バスケットボールや三大スポーツには縁がなさそうなスポーツ音痴、お金持ち階級だからか楽器演奏を習っているものの、その腕はイマイチでしかもクラシック、身長もどうみても180センチメートル以下とアメリカ人の標準には届いてなさそう。  しかも髪の毛はモジャモジャで色白、度が強い牛乳瓶のビン底黒眼鏡をしている。一応楽器が出来る分だけのび太君よりはましだが、彼にはドラえもんはついていない。カメラはそんな彼のイカ臭そうでフケ臭そうな地味な生活を延々と写し取っていく。

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 そこへ急に生まれて初めての彼女(グリニス・オコナー)ができて大きく彼の人生は動き出す。彼女との初体験までを済ました彼の人生は幸せに満ち溢れ、常に彼女のことだけを考える薔薇色の日が訪れる。「良かったな!ジェレミー」と話しかけたくなります。  しかし、そんな幸福な日々はあっという間に終わりを告げる。彼女の急なお引っ越しにより、生活力などない学生たちの短い恋は引き裂かれてしまう。よくあることと言ってしまえばそれまでですが、彼にはショックが大きすぎる。  まったくモテない彼にとってはせっかく出来た恋人が目の前から消えてしまうわけで絶頂から奈落に落とされる。付き合いながら、他人と自分の違いを理解し、揉めたり、仲直りを繰り返したりしながら大喧嘩をして、お互いに分かった上で別れるのとは訳が違います。

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 基本的に恋愛関係では“付き合う”と“別れる”とがセットで、その他の何気ない出会いでも共通する人間関係のセットなのですが、あまり経験がないうちに自分たちが原因ではないことで付き合い出した二人の関係が唐突に終わってしまうのはかなりツラい。  しかもモテモテの男の子ならば、ガールフレンドの一人や二人が引っ越してしまっても、あまりクヨクヨすることもないでしょうが、われらのジェレミーはやっと出来た彼女を失ってしまった訳ですから、精神的及び肉体的ショックは想像以上に大きい。  彼女を失い、心の底から慟哭する彼の姿は痛々しい。泣き続ける彼を見て、女々しいと感じる方は女性に囲まれてきた方でしょう。学生時代にモテなかった多くの男たちにとってはこの映画こそが真の恋愛映画であることは間違いない。不幸を一身に背負う彼を見て、ぼくらが思うのは「わかるぜ!ジェレミー!」の感情です。

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 女性ファンには分からないかもしれない、男はつらいよどころの話ではない、真の男の恋愛映画(?)が『ジェレミー』です。のちに主演を務めたロビー・ベンソンはディズニー映画『美女と野獣』で野獣を演じましたが、もしかするとディズニーのスタッフが少年時代にこの映画のビデオを見て共感して、女性と上手く接することができない野獣役は彼しかいないと決意したのかもしれない。  ちなみにこの映画はDVD化されていたものの、現在は廃盤になっていますので、興味のある方はヤフオクでDVDかビデオを探してみてください。何気に音楽の出来が良く、グリニス・オコナーが歌う『Jeremy』、挿入曲で主役のロビー・ベンソンが歌う『The Hourglass Song』ともにとても良い曲です。 総合評価 72点