『思えば遠くへ来たもんだ』(1980)個人的には金八先生よりこちらが好きです。
武田鉄矢主演の『思えば遠くへ来たもんだ』は現在DVD化されていません。そのためネット・オークションでは大昔のVHSテープが7000円位で取引されています。
主演が武田鉄矢で、彼の周りを固めるのはあべ静江、熊谷真実、乙羽信子、山本圭、植木等、山谷初男、大滝秀治、泉ピン子、大山のぶ代、たこ八郎、山田隆夫と懐かしい顔ぶれが揃っていて、なんだかホッとします。
製作は1980年ですので、ちょうどテレビドラマ『3年B組 金八先生』がスタートして大ヒットしていた頃になります。この映画を見たのは公開から数年経ったあとのテレビ放送でした。
金八先生のインパクトが強すぎたために霞んでしまっているのですが、見てもらうとこの作品での武田鉄也の素朴さと秋田の自然に囲まれた情景が郷愁を誘う素晴らしい作品に仕上がっています。
この青春ドラマの何が原因で視聴困難な状況になってしまっているのかはまったく分かりません。先日亡くなった大滝秀治を始め、植木等や乙羽信子ら鬼籍に入ってしまった人たちも映画では元気に活躍している姿を見ることが出来るのは貴重なので、DVD化を望みます。
この映画、そして主題歌『思えば遠くへ来たもんだ』のファンは今でも多いでしょうし、発売されれば潜在的なニーズはあるはずです。
地方都市で暮らしている若者たちの屈折した感情や都会への憧れ、因習にがんじがらめに抑圧されている現状への不満のはけ口として暴力や激しい性行動に走って、自滅したり、発散する若者を描いたのはATGや東映作品でした。
しかしながらこの映画ではそういった負の部分を殊更に暴きたてることなく、普通の生徒たちや家族が穏やかに、笑顔を絶やさず、必死に生活しながら、希望を見つけ出そうとしているさまを描いている。
なんでもかんでもスキャンダラスに写し出すのがこの頃にはカッコ良かったのでしょうが、そんな映画ばかりでは心が荒んでしまう。その点、この映画では東北の小京都と呼ばれる地区でのロケ撮影が敢行されていることも大きく、昔々にぼくらが住んでいた郷土がそうだったように懐かしさと田舎への憧憬を感じさせてくれます。
金八ほど熱血ではない、人間臭さが前面に押し出された若かりし頃の武田鉄矢がそこにいます。80年代初頭、あの長髪で教師という設定からはフォーク世代やバンカラ気質の残像や共感が見える。長髪は物語の舞台に彼一人である。
主題歌がまた最高で、ぼくは海援隊全盛期の曲では『贈る言葉』『人として』よりも『思えば遠くへ来たもんだ』の方が昔から大好きでした。
思えば遠くへ来たもんだ 故郷離れて六年目
思えば遠くへ来たもんだ この先どこまでゆくのやら
思えば遠くへ来たもんだ 振り向くたびに故郷は
思えば遠くへ来たもんだ 遠くなるような気がします
思えば遠くへ来たもんだ ここまで一人で来たけれど
思えば遠くへ来たもんだ この先どこまで行くのやら
それぞれに故郷があり、それぞれに生きてきた時間があります。嬉しいこと、悲しいこと、喧嘩したこと、失敗したこと、後悔していること、いまだに恨んでいることなど色々あるでしょう。
生きるのが難しい時代ですので、大半は嫌なことばかりです。それでも生きていくのが人生なのでしょう。人生のしがらみは年齢を重ねるほどに増えていき、身体も不調な箇所が増えてきます。
嫌だからといって逃げ続けるわけにもいきません。困難に打ち克つ人もいるでしょう。何事もなく、平穏に一生を終える方もいるでしょう。すべてが報われる人生はありません。
生きてから死ぬまで楽しいことなく暮らす方もいるでしょう。イヤなことがあったりした夜に電車に揺られたり、クルマで赤信号を待っている、ふとした瞬間にこの歌を思い出すこともあります。
総合評価 75点