良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『BLOW THE NIGHT 夜をぶっとばせ』(1983)本物の不良少女を主役に抜擢した不良映画。

 曽根中生監督自身が気に入っている作品であり、興行的にもヒットしたのが1983年公開のこの『BLOW THE NIGHT 夜をぶっとばせ』です。  噂には聞いていましたが、観る機会に恵まれず、今回はじめて全編を鑑賞しました。僕が通っていた中学校では学校独自の映画鑑賞規定コードがあり、一般公開映画でも観るのが禁止されてしまう作品が多々ありまして、ビートたけしの好演が光る、大島渚監督の『戦場のメリー・クリスマス』やなぜか『メトロポリス』のジョルジオ・モロダー版も禁止作品にされていました。  デヴィッド・ボウイと当時は大ファンだったYMO坂本龍一が出ていたこともあり、もちろん学校のお達しを無視して観に行きました。おそらくは今ほどホモ・セクシャルに寛容ではなかった時代でしたので、そちらの描写の問題で禁止とされてしまったのでしょう。
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 この映画『BLOW THE NIGHT 夜をぶっとばせ』も禁止作品に指定されていましたが、単純にこのときはお金がなかったのとヤンキーの溜まり場になるのが予想される会場に行くのも嫌でしたので、好き好んで行くこともないかと思い、わざわざ行きませんでした。  ちょうどこの年は穂積隆信の『積木くずし』が一大センセーショナルにマスコミで取り上げられ、テレビドラマが大ヒットし、映画も製作されるという時代でした。もっとも主役を務めるはずだった高部知子の喫煙問題での芸能界追放などがより話題性を高めたのでしょう。のちに角川三人娘で一番知名度が低く、今ではすっかり忘れられた存在になってしまった渡辺典子により映画化されました。  この頃の写真週刊誌のえげつなさは今以上であり、プライベートなどという概念は無視され、アイドル岡田有希子の血まみれの飛び降り死体をそのまま掲載したり、日航機墜落現場の凄惨な死体を十数点くらい特集と称し、遺族感情などはまったく考慮にも入れず、平然と表現の自由と言い張って、大手出版社が掲載していました。
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 映画に戻ると、本物の不良少女である高田奈美江を主役に据えて、知名度のある可愛かずみを脇役で使うというのは商業的には正しい選択ではないと思いますが、素人の高田が出す自然なツッパリの雰囲気が功を奏し、独特の魅力を持ち続ける作品に仕上がっています。  もちろん演技とは無縁のツッパリ少女ですので、当然のように台詞は棒読みだったりしますが、さすがにそこは海千山千のツッパリねえちゃんらしく、度胸の据わったカメラへの対応を見せてくれている。  横浜銀蠅の『ツッパリ・ハイスクール・ロックンロール』の歌詞の通りに、道で誰かに会えば、すぐにメンチを切ったと因縁をつけるような奴等が大挙して登場します。
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 くるくるパーマや黒いルージュ、異様に長いスカートなど昭和のツッパリ・ファッションが懐かしく、昔はああいう格好のねえちゃんや特攻服のにいちゃんが数十メートル先に感知すると横道にそれたり、因縁をつけられないように視線を外して歩いていましたが、今見るとかなりおかしな格好だと気づかされます。  それでもそれは結果論でしかなく、当時はたいそう怖がられていました。中学生のころまで神奈川の湘南海岸の側に住んでいましたので、海岸に遊びに行くと土日の夜は暴走族の集会でかなり騒々しく、平日のお昼や夕方はサーファーだらけで、砂浜のあちこちにコーラの1リットル瓶が散乱していたのを覚えています。  海辺のラジカセ(懐かしい!)から聴こえてくるのはアナーキーの『シティ・サーファー』やRCサクセションの『つ・き・あ・い・た・い』などで、当時はまさにロックは不良の音楽なのです。地元のレコード屋さんでもロックのコーナーにはいつも悪そうなにいちゃんやねえちゃんが屯していました。
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 住んでいた平塚の街の高架下には「夜露死苦」「愛羅武勇」「○○参上」などの殴り書きが異様な雰囲気を漂わせていました。そういう時代に製作されたこの作品は生々しい不良たちの生態を捉えた映画でもあり、突き放した視点でカメラに収まっていることがよりリアルに感じさせている。  アンパン(シンナー)吸引シーンが何度も出てくる。今ならば脱法ドラッグなんだろうなあと時代を感じつつ、見ていました。後半にラリった彼らが手だけでダンスするシーンがあります。このシーンは不気味で、ノリでやっていたのだろうなあと思わせる、こうした自然な動作こそが映画に生命を与えているのではないか。  80年代不良映画の特徴という訳ではないのでしょうが、カメラの視線は登場人物である不良たちに付かず離れずで、彼らに共感している様子はない。  校内暴力シーンといえば、金八先生の第2シリーズが有名でぼくらの記憶に残っていますが、さすがに映画はよりリアルで、女教師を集団で強姦しようとするシーンなどはテレビでは放送不能でしょう。
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 撮られている彼らは何か好き勝手に動いているようにも見えるが、俳優にはない素人の自然な表情や動作を撮るためにあえて、演出を最低限度に留めたようです。  作品は素人で主演ではありますが、この映画の原作者でもある高田美奈江のほぼ一年間のエピソードを中心に語っていきますが、そこに同じく、別の地域の不良少女役の可愛かずみの一日の動きを差し挟んでいく。  まったく無関係の彼女たちが夜の東京の歓楽街で交差するときに悲劇は起こる。ヒロインの恋人だったツッパリにいちゃんが高田の妹にもちょっかいを出し、妹もモノにする。妹は友人たちと夜の東京の街に飛び出し、行きがかり上、田舎町までお調子者の不良のにいちゃんに送ってもらうが、無謀な運転が原因で途中で交通事故に合い、車ごと溺死する。
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 沈んでいく車から抜け出した不良にいちゃんは港の桟橋に自分だけ自力で泳いできます。この不良にいちゃんは警察に連絡することもなく、救助すらせずに逃げ出していく。自分のしたことの責任が取れない未成年は意気がって、カッコつけていても、しょせんハンパ者はハンパ者でしかないことをあぶり出す。  大昔から未成年ということで大目に見られているクズは無責任なお子様であり、クズどもが引き起こす犯罪の犠牲者たちが浮かばれることのない状況は今も続いており、法改正が必要である。  ストリート・スライダースの音楽を全編に導入していて、デビュー間もない頃の彼らの演奏シーンが頻繁に出てくるのも嬉しい。『がんじがらめ』『BLOWTHENIGHT』『野良犬にさえなれない』『マスターベーション』など米軍基地でリトル・ストーンズと呼ばれていた頃のナンバーが流れるので、かなり懐かしく楽しめました。
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 ボーカルのハリーの顔がアップになるのですが、ニキビ跡がどうも気になってしまう。彼も若かった。ぼくが彼らのライブを観に行ったときはまだそれほど人気がなくてチケットが売れず、学校の前でタダで配っていました。  スマッシュ・ヒットした『ANGEL DUSTER』の後のライブだったのに、ぼくらの田舎ではまだまだな感じで、ライブチケットも売れ残りがあまりにも多かったために機嫌が悪いのがはっきりと分かる状態でした。せっかくのライブだったのですが、ぼくらのアンコールに応えることもなく、さっさと引き上げていきました。  ぼくらチケット代を払って彼らを聴きに行った観客はがっかりしながら家に帰り、レコードを何枚か買ったものの、その後は二度とスライダースを観に行くことはありませんでした。まさかこの映画に彼らが出演しているとは知りませんでしたので、不意打ちを喰らった気分でしたが懐かしさで色々と思い出しました。  作品は事故騒動のあと、卒業するその日に東京の街をうろうろしている高田美奈江にしつこく付きまとうナンパ師を無視し続けるラスト・シーンに繋がる。まるで卒業式のその日をもって、半端な生き方はしないぜという決意を胸に秘めるように彼女の後姿で作品は閉じられる。 総合評価 63点