良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『相棒シリーズ XDAY』(2013)少々舌足らずな部分はあるがシリアスで良く出来ている劇場用作品。

 『相棒シリーズ XDAY』の公開によって、いつの間にか相棒シリーズの映画化作品が四本目となりました。テレビドラマで見る相棒シリーズは毎週楽しみにしているのですが、どうも劇場作品になったときの出来にはあまり満足できない状態が続いていました。  テレビドラマの刑事物、さらにそこからの映画化作品といえば『踊る大捜査線』を思い出します。すべて劇場まで観に行きましたが、さすがにあのシリーズはすでに賞味期限が切れています。
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 相棒シリーズに関しては今シーズンから若々しい成宮寛貴を迎え、当初の相棒だった寺脇康文を彷彿とさせる躍動感で新鮮な印象をファンに与えてくれています。  及川光博が悪かったわけではなく、冷静なタイプが二人重なってしまい、番組のスターである水谷豊に集めるべき焦点がボヤけてしまう印象がありました。それでも知的な謎解きをする及川にも独特な魅力があり、彼が出演していたシリーズは地味ながらもよく練られているエピソードが多く、すぐに馴染みました。
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 水谷と成宮寛貴では師匠と弟子のようなというか、オビワンとルークを思い出す感じで相棒という感じには見えなくなっています。新キャラクターとしては宝塚のトップスターだった真飛聖(まとぶせい)や石坂浩二も加わり、常に新陳代謝を図っています。  真飛はさすがにタカラジェンヌだけあって、スラリとした正統派の美人ですし、36歳とは思えない若さを保っています。彼女は宝塚公演での『相棒』で杉下右京役を演じていましたので、それが縁となっての抜擢だったのかもしれません。石坂浩二も今回は腹黒いヒールとしての役柄を楽しんでいるように思えます。
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 ただし今回のXDAYはシーズン10とシーズン11の間に起こったエピソードという位置付けになっているため、両名は出演していませんし、特命係の名札は杉下右京のものしかなく、しかも水谷は休暇中の設定なので、もともと薄暗い部屋は真っ暗で誰もいません。  また作品の主役は水谷豊ではない。いわゆるスピンオフ作品で、捜査一課トリオの川原和久にスポットを当てていて、普段ドラマで一緒に出てくる大谷亮介や山中崇史ではない、映画ならではの相棒となる田中圭とコンビを組んでいます。肉体派で単純な川原と冷静な田中は凸凹コンビとして上手く機能しています。
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 すでに田中はテレビドラマのシリーズにもちょくちょく顔を出すようになってきているのですが、シーズン11で最初に登場したときに川原とすでに知り合いであることが暗示されます。もっともこの放送時にはまだ映画は公開されていませんでしたので、意味不明の台詞にも思えたかもしれません。  お馴染みの脇役陣の一角に加わり、だんだん出番が増えてくるのでしょう。3月23日から公開されていて、休みの日に近くの映画館の上映スケジュールを確認したところ、残念ながらやっていませんでしたので、遠出して当方シネマズまで出向いて行くことになりました。
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 違う場所に行くのは面倒くさいとは思うが、いつもとは別の刺激がありますので楽しみたい。上映一時間前に着きましたので、お昼を食べてから観ることにしました。  国家転覆という大風呂敷を広げすぎたために、どういう幕引きにするのかヒヤヒヤしながら見ていましたが、ファンではない人が見ても十分に楽しめる出来映えには仕上がっています。公開中ということもあり、詳しくは書きませんが、官公庁や銀行を巻き込み、政府関係者も絡んでくる構成は相棒らしい。  もっとも二時間で大きなテーマをまとめるには無理があり、よくよく検証してみていくと粗はあります。それでもエンターテインメント作品としてはよく出来ている部類に入ると思います。またシリーズのスターである水谷豊をほとんど使わずに相棒映画を一本作り上げたスタッフには相棒シリーズへのかなりの愛情を感じます。
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 本来の主役である水谷と時系列上は相棒だった及川は顔見せ程度の出演ではありますが、二人の不在は気になりませんでしたのでそれはお話しがしっかりしているという意味になります。  作品テーマが日頃、何気なく使っている銀行ATMでたまに起こるシステム障害の裏には国家的陰謀が隠されているという設定の面白さと難しい経済やネットの用語を分かりやすくドラマに盛り込んでいくことに成功していて、まったく飽きませんし、観客もほとんどが最後のスタッフロールまで席を立つことがありませんでした。
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 個人的にも今までの劇場作品のなかでもっとも出来が良い作品だと思います。札束が舞い落ちるシーンはフィクションらしく見た目のインパクトがありますが、いかにも作り物っぽいのでなくても良かったかなあと思います。  事件は解決しているようで、根本的な部分は何も解決していないというモヤモヤした結末になっていきます。このへんの話の持って行き方こそが相棒らしくもある。実際、テレビドラマでも多くのエピソードで警察上層部の握りつぶしによる終わり方をすることがありました。
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 まあ、相棒ファンが見に行く分には十分に楽しめるでしょうし、はじめて相棒ワールドに入る人にもハードルは低くしてくれています。バディ・ムービーらしいコンビの組ませ方が楽しく、川原(ノッポで感情的で肉体派)と田中(知的で冷静で小柄)、大谷(メタボのオジサン)と山中(若手でスマート)、神保(眼光鋭い官僚)と山西(親しみやすい現場の叩き上げ)と好対照に配置しています。  ファンが見て驚くのは刑事部長役の片桐のオッサンらしいランニング姿と左手で冷やし中華をすするシーン、そして川原に頼み込むシーンでしょう。つまりいつものテレビドラマでは描かれないシーンがとても多く、捜査の行きがかり上、捜査二課へ頼みごとをしにいった川原が一課のプライドからか、自分のバッジを隠しながら情報を貰いにいく芝居が楽しい。  普段は片桐の腰巾着の小野了が犯人を取り調べる様子は迫力があります。また時々顔を出す原田龍二がはじめて本職である経理の仕事をしている描写があり、ファンとしてはニヤニヤしてしまいます。 総合評価 68点