良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『悪魔のゴミゴミモンスター』(1975)ド素人の町の衆が集まって出来た奇跡の村おこし映画。

 ビデオが届いてから、じっくりとパッケージを見るとそこには大陸書房の文字が印刷されていました。80年代後半から90年代初めまで、メジャーとは言い難いような聞いたことのないタイトルの映画や格安AV、そしてレアでマニアックな書籍等を取り扱っていたイメージが強い会社でした。   バブルがはじけた後の1992年頃に何気なく新聞を読んでいると、前から聞き馴染みがあった、この出版会社が倒産したという記事を読みました。なぜこんなことを思い出したかというと学生時代に近所の本屋さんでフラフラしていたときにこの会社のビデオのコーナーがあり、それらをあれこれ手にとって眺めていたからです。
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 バブルという時代でもあり、90年代当時は販売用VHSビデオの金額の大半が16000~19800円定価くらいのものが主流でした。そんななかでこの会社の定価は1980円くらいとかなりの破格値に見えました。  よくよく見ると実際には誰も知らない作品ばかりでしたので、海外から買い叩いてきたのでしょうが、それでも桁違いに安いのは事実でした。この『悪魔のゴミゴミモンスター』もそうしたなかの一本で、販売用でしたのでレンタル屋さんに並ぶことも許されず、倒産とともに闇に消えていきました。
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 『悪趣味ビデオ学入門』で取り上げられていたので、物好きに探索しているとこの作品をゲットできました。しかもなんとこれが我が国ではDVD化されているのにはさらに驚かされました。  監督、演出、脚本が素人であり、ヒロインが市長の娘、その他の出演者もほとんどが町の衆なので演技力など期待する方が野暮というものです。皆の協力を得るためにお金がない中で取れる最良な方法は「映画に出してあげるから協力してよ!」でしょう。
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 演技力がなくても、もともとが本職の消防隊や警察官を使えばリアルなのは当然なので、演技の拙さをリアルさでカバーできる。町中のみんなで一つの目標に向かってやりきれば、一応は形が出来上がることがあるという意味では奇跡に違いない。もっとも、所詮は素人の集まりですので、正直言ってあまり面白い作品ではない。ほとんど再生されている様子もなく、キレイに再生可能でしたので気分も上々です。  特撮を担当した町の衆(のちに特殊効果でオスカーを獲得するベン・バート。)は熱心な特撮マニアだったようで、そこかしこにハリーハウゼン的なテイストを出そうとしたのだろうなあとか、怪獣の叫び声がラドンみたいだなあとか、そもそもゴミ怪獣という設定がヘドラみたいだなあとか、アイデアが強引で、怪獣を誘き出すために町で一番臭いホームレスをヘリから吊るして臭さにつられて寄って来たゴイゴミを誘導し、怪獣ごとやっつけるという荒業をやってのける。
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 退治の仕方はガメラ的でコミカルな演出に思えますが、一応は美女をさらって行くあたりは誰がどうみても『キングコング』でしょう。超低予算ではありますが、怪獣撮影にかなりのこだわりが見えます。全体を俯瞰で撮ることなく、部分的にチラリと見せて大きさを誤魔化そうという努力が涙ぐましい。  怪獣はもちろん仰角で撮影されていますが、とにかくすべてが粗っぽく、雑な作りになってしまっています。ストップ・モーション・アニメなどもかなり拙いのですが、何とか自分たちが子供の頃にワクワクしながら見ていたハリーハウゼンに近づけようとしているのが微笑ましい。  この映画の凄いところは見ていて退屈ながらも、退屈であるという程度のレベルには達していて、十分に視聴には耐えるクオリティは確保していることです。プロが撮っているわけではないので、個性や光るポイントがないのは仕方がない。当たり前の撮り方しかしていないが、最悪レベルではなく、あくまでも退屈レベルは保っている点に注目したい。
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 もし視聴の機会に恵まれたなら、観る側の人たちは敷居をグーンと下げて(つまりゴチャゴチャ言わずに砂場で怪獣ごっこをしていた昔に戻って!)、町全体が一丸となって、素人スタッフのみで一本の特撮映画を作り上げたことに拍手しながら楽しむべきなのでしょう。  プロレスのレフェリーみたいに見えてない振り、きちんと光学処理されているのだと思い込んで見ていけば、きっとみんなが楽しめるはずです。みんなでがんばった結果として残ったのがこの文化祭的映画なのですから、素直に楽しめばいい。  画面に見切れていく群衆の中にもしかすると自分が写っているかもしれないという楽しみは既成の作品にはありませんので、120分を越えるという地元のみで上映される完全版はさぞ盛り上がったことでしょう。
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 いかにも田舎の町ぐるみで製作された映画らしく、冒頭では一般客にはどうでもいいミルピタスの歴史が語られる。カリフォルニアの穀倉地帯の栄光の歴史、そして繁栄していく町の様子と産業繁栄の負の蓄積である環境問題をさらりと伝える。  ちなみにオリジナル・タイトルはミルピタス・モンスターです。ぼくらの住む町でも撮ろうとすれば撮れるかもしれないという希望を特撮オタクに与えただけでも素晴らしい。巨大ハエ怪獣というのはカッコ良くはないが、個性的ではある。この怪獣は飛べるし、夜に飛来する姿は悪魔のようです。  アメリカの町ぐるみ映画がまさか海を越えて、ゴミゴミなどというやる気のない邦題をつけられてしまうとは思わなかったでしょうが、こんなマイナー作品ですら商品化されたバブル時代はどこか狂っていたのでしょう。
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 ここに登場するハエ怪獣は体長50フィート(15メートル?)でこんなドでかさで小さな町中を飛び回っているのですが、のんびりしたミルピタスの人々は誰一人大空を見上げることなく、巨大な足跡だけを見て、大騒ぎをしています。  退治するためのホームレス作戦は現在の放送コードではもしかすると引っ掛かってしまうかもしれませんが、なんでもかんでも規制するのではなく、笑い飛ばせる社会を作る方が建設的に思います。 総合評価 52点
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