良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ザ・チャイルド』(1976)これこそがトラウマ映画と呼ぶべき一本!

 副題は“フー・キャン・キル・ザ・チャイルド?”、つまり誰が子どもを殺せるのか?という意味深なタイトルが付けられているスペイン発のホラー映画です。それほど有名ではないでしょうが、大昔に見たときにはアメリカのホラー映画にはないエグさに驚きました。  マニアックというよりはただただ当時は残酷描写や奇妙な(進歩的だったり?)表現が良心的な人々によって受け入れられず、低俗なクズとしてあえて深く語られることもなく、静かに燃えないゴミやワゴンセールに消えていった作品は数多い。  一部クレーマーとの厄介事を恐れる(?)販売元によって、こうした知名度こそ低いが強烈な印象を与えてくれた作品群は現在の基準では世に出せないのだろうという映画マニアの思い込みもあるようです。  こういった大昔に見た、または見る機会に恵まれなかった無名作品を探して、ヤフオクを眺めることが増えています。いまだにDVD化はされていないが、かつて80年代中盤以降に始まり、ベータ陣営を駆逐し、2000年位のDVD登場まで大いに栄えたVHSビデオ時代にはソフト化されていた作品群を最近のターゲットにしています。
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 ビデオ時代ですらソフト化されていない『シェラデコブレの幽霊』や『ロリ・マドンナ戦争』『黒部の太陽』を気軽に楽しめる日は来るのだろうかと半ば諦めていたところ、なんと『黒部の太陽』はブルーレイでの発売が決まりましたので、Amazonで予約しておきました。  いきなりこうやって発売されることもあるので、希少なビデオであったとしても、あまり高いオークションには参加しないようにしています。ビデオ全盛期には大小有象無象のレンタル屋さんの隅っこか、一番奥にあったAVコーナー近くの陳列棚に所狭しと並べられていたが、DVD時代になってからはすっかり見かけなくなった作品群なのでなかなか見つからなくなってきてはいます。  ジャンル的には血飛沫及びサイコ系ホラーやセクシー系のあまり他人様にはおおっぴらにできない作品にこうしたターゲットは多く、当時はレンタル屋さんの棚に並んでいても、どこか手に取るのも人目が憚られ、ましてや気になってはいても結局は借りられなかった思い出の作品がいくつもあります。  「目に留まったら、すぐに借りてしまえ!」をモットーにしていましたので、大学生になったばかりで一人暮らしを始めた頃に近所のレンタル屋にあった『ギニーピッグ2 死なない男』を借りたときには「親がいたら、こんなの借りられないなあ…」としみじみ思いました。
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 『罵詈雑言』という変なタイトルとあちこちに貼られた下品なポスターが思い出に残っている作品もありました。これは近くの公民館で見ました。『大霊界 死んだらどうなる?』は丹波哲郎がナレーターを務めた怪作で公開初日に周りがじいちゃんやばあちゃんが大勢いる空間で見ました。  『1976ダコタハウスにて』はビデオ屋さんで何気に外国映画コーナーではなく、音楽関連ビデオコーナーを探っていたときに偶然見かけました。ポールがジョンの住むニューヨークのダコタハウスをフラりと訪れて、旧交を暖めるという内容でした。  二人でテレビショーに飛び入りしようと盛り上がるもののヨーコの邪魔が入り、サプライズ出演が流れてしまうというオチがついた作品でした。都市伝説になっていたエピソードを映像化するという無茶苦茶な作品でしたが、ほのぼのとしたエピソードが出来は良く、数回ほどビデオやWOWOWで見ました。  実際、ヨーコと別居している時代、ジョンとポールがセッションしている音源も現在では出回っておりますし、ぼくも聴いたことがあります。こういった具合にたくさんの変な映画や珍品を映画館やビデオで見てきましたが、今となっては「なんであの頃、借りなかったんだろう!」というのも少なからずあります。
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 再評価ということでは1996年公開当時に彼女と観に行ったが、「なんでそうなるのかな!?」というラストシーンでぼくら観客をポカンとさせたため、巷ではかなり評価が低かった『ヒート』が今では隠れた名作扱いを受けているのも隔世の感がある。  自宅でのんびりと趣味として作品に接するのと、映画館に観に行って、そのあとに彼女とどうしようかとかにも多くの神経と体力を使わねばならない男どもにはあの二時間半はつらかったはずなので、映画の見方が変わったからこその「いいね!」なのでしょう。『ヒート』のように後になって評価されるものもあったりするので、作品の判断は難しい。  ともかく、ビデオ時代のみのソフトは製作サイドの権利問題や表現方法の過激さや無許可で撮ったシーンなどが後になってリリースの障害になったり、万人向けとは言い難いのでお金にならないであろうから商品化されないなど作品ごとにリリースされない事情があるために、結果として商品化されていないというのが真相でしょう。  にもかかわらず、詮索好きな好事家によって勝手にカルト映画として祭り上げられてしまっている作品も少なからず混ざっているように思えます。
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 見たことないから見たいというのは男子高校生が妄想で抱く、好きな女の子の裸みたいなもので、見て、触って、何度も行為を繰り返したあとには特に何てことはないのだと気付く。  カルト映画と呼ばれる作品の一部はその程度のものなのではないか。良くも悪くも不当な取り扱いを受け続けている作品たちの真の姿を出来るだけ冷静に、丁寧に、正確に伝えていければ良いのだという立ち位置で記事を進めていきます。  最近手に入れた、または見る機会に恵まれたVHSビデオテープに『バクステール』『マッキラー』『恐怖の火あぶり』『タタール人の砂漠』『ザ・チャイルド』『序曲13日金曜日』『ルチオ・フルチのサイキック』『サマーキャンプ・インフェルノ』『空の大怪獣Q』『大拷殺なぶり殺し』『ラビッド』『地獄の貴婦人』『愛欲のえじき』『リストマニア』などがあります。  基本的にはスプラッターやスラッシャーなどの残酷描写が売りのお下劣作品や有名監督の初期作品、イタリア産のハッタリ映画がほとんどですが、しっかりとした作りの物がこういったジャンルにも埋もれています。
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 なかでももっとも強く記憶に残っているのがスペイン産極悪ホラー映画の『ザ・チャイルド』です。町山智浩さんが出した『トラウマ映画館』を読んだときになぜこれが入っていないのだろうかと訝しく思ったのがこのスパニッシュ・ホラーでした。  リゾート観光の孤島に行ってみると、住民はなぜか子供ばかりで、大人がまったくいない奇妙な場所で観光客が遭遇する恐ろしい体験を描いた作品です。  現在のハリウッドでは絶対に認められないであろう子供による集団殺人とそんな子供たちに立ち向かい、殺し合いに臨む大人たちの葛藤や不毛な消耗戦を描いたのがこの『ザ・チャイルド』です。  小学生くらいまでの自分の子どもや近所の子どもたちが何の前触れもなく急に凶暴になって大人たちを襲い始めたら、大人たちはすぐに彼らに反撃できるのかという哲学的な問題も含んでいます。
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 これが10代中盤以降の中学生や高校生が向かってくるとすれば、より抵抗までの判断は早かったのでしょうが、まさか可愛い、か弱いと思っている『セサミ・ストリート』を見ているような純粋な子どもたちが攻撃してくるのですから、ほとんどの大人ならば判断の遅れによって先制攻撃を受け入れてしまい死に至るでしょう。  副題に「誰が子供を殺せるのか?」という意味深な問いかけがある通り、内容があまりにもショッキングなために嫌な気分が数日は続くトラウマ作品です。背ラベルのデザインや子どもたちが蜂起して襲ってきたときに立て籠もったホテルの扉に押し寄せてくる無数の手形もまるでロメロのゾンビ映画のようなイメージになっていて、嫌悪感を増幅します。  美男美女は登場しない、どこにでもいそうなリアルなキャラクターたちがむしろ薄気味悪い。ハリウッド映画の免罪符はしょせんハンサムなスターや綺麗な女優がスクリーン上で絵空事を展開しているに過ぎないというものだと思います。
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 観客には関係ない他人事としてストーリー展開を楽しむという特権が与えられているという意味です。それを取り上げられ、作品に引きずり込まれてしまうのが『ザ・チャイルド』なのです。  あまり語られることもないようですが、知る人ぞ知るという状態にしておくにはもったいない問題作品ですので今回はこの『ザ・チャイルド』のことを書いていきます。  まずはオープニング・モンタージュナチスによる強制収容所でのユダヤ人虐殺映像が流される。それに続いて印パ戦争、インドシナの騒乱、ベトナム戦争でのナパームによる大量殺戮が写し出され、犠牲になっているのはいつも弱い子供たちなのであるというイメージを刷り込んできます。
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 これらの映像と展開される恐怖の物語とのギャップがかなり大きい。少女が老人を撲殺し、子供たちが集団で逆さ吊りした老人の首を麦狩りで使うような大鎌で切断する。男の子たちは20代女性を惨殺した後に衣服を脱がせて、興味本意に裸体を鑑賞する。  子供が機関銃を手にして大人に襲いかかる様は衝撃的です。最初はショッキングな光景を目の前にして、どうすることも出来なかった観光客カップルもついに彼らに対抗し、機関銃で子供たちを一斉射撃したり、車で轢き殺そうと突進したり、ナイフやオールなどを使って殺し合いに挑む。  港までなんとか逃げてきたところに巡視艇で警察が駆けつけてくるものの彼らが目にしたのは成人男性が子供たちを手当たり次第に撲殺している悪夢のような光景でしたので、彼らはライフルで本来の被害者である主人公を射殺します。
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 港に巡視艇を停泊させて、上陸した警官隊もすぐに邪悪な子供たちの手に掛かり、殺害されてしまう。主犯格の子供たちは孤島では目立ちすぎることを理由に都会で勢力を拡大することを告げて、島を後にする。  なんとも救いがない話で、このあとにはいったい何が起こるのだろうかという不安で幕が下ろされる。子供は純粋で常に大人の都合で傷ついて犠牲になるという一般常識を転覆させる一本です。  描写がおぞましいのはもちろんですが、さらに嫌な気分にさせるのが子どもたちが笑顔で楽しそうに人間狩りを続ける演出です。いかにも怖い顔をしながら襲ってくるならまだしも、純真な笑顔で殺し合いを仕掛けてくる彼らはジェイソンやレザー・フェイスよりも醜悪です。  続編が出ている形跡がありませんので、興行的には苦しかったのでしょうが、出来れば都会編も見たかった。『ウイラード』のあとを受ける『ベン』のように物語が広がっていく可能性が大いにあったと思えるので残念です。
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 細かく見ていくと、あちこちに物語が破綻しているのに気づきます。主人公は妊婦である妻を見捨てて、自分だけ島から逃亡しようとしていたり、少女がおじいさんを袋叩きにして殺害する場面に遭遇するなど、普通に考えたら絶対におかしいという状況なのに何もせずに島に留まっていたり、電話があるのに外部に助けを求めていなかったりと大人としては致命的な判断ミスを犯し続けます。  まあ、リゾート地でのんびりしているから頭を使わないことにしているのか、陽気でやられてしまったいるのか、このあたりの判断力はホラー映画のパロディ『最凶絶叫計画』なみの馬鹿馬鹿しさですが、集団で子どもが襲ってくる描写が強烈なので勢いで押し切ってしまいます。  それでも70年代なので、殺害シーンはあるにしてもその決定的瞬間のほとんどは相手側の目線にカメラを向けていて、殺害そのものはオフ・スクリーンで処理されています。  この作品に関しては現在はDVD化されていますので、もしかするとレンタル屋さんで見つかるかもしれません。ただの悪趣味映画ではない内容ですので一見の価値はあります。 総合評価 80点