良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『藁の楯』(2013)クズを守るために犠牲となるSPたち。私刑は駄目だが死刑はオッケー?

 知人女性がやっているリラクゼーションのお店で大半の時間をおしゃべりしながら(というかひたすら彼女の話を聞き続けています…。)、身体中がめちゃめちゃ痛くなるリンパ・マッサージの全身コースを定期的に受けています。  施術中はかなり痛いのですが、終わったあとは眠くなります。その後、近くの薬膳カレーのお店で鷄の薬膳スープ・カレーを食べました。絶妙にブレンドされたスパイスが心地よく、しばらく口の中と鼻から抜けていく香りを楽しめるのが売りのお店で、彼女のお店に行ったあとによく通っています。  地野菜を使っているお店で、人参や茄、ピーマン、かぼちゃ、じゃがいもなどがゴロゴロと入っていて、しかも野菜それぞれがとても甘味があります。マスターに尋ねると野菜はすべて蒸して調理しているとのことで、こうすると優しい味になるそうです。
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 映画館や彼女のお店に行くときの帰りについつい香りに誘われて食べに寄ります。さて、彼女にヒーヒー言わされる2時間前。本日観に行ったのは『藁の楯』でした。藤原竜也が見事にクズの怪物を演じた作品です。  内容は死んでしまった被害者の人権よりも、生きているというだけで加害者を保護して送検させながら、裁判で死刑を言い渡すというおかしな法治国家への疑問と不条理をデフォルメしながら映画として纏めています。  凶悪犯人殺害に10億円もの賞金が懸けられたために刺客が殺到し、護衛チームと犯人は何度も暗殺されそうになる。警察は威信をかけて守り抜こうとするが、内部にも刺客が潜伏している状況になる。  どうせ裁判になれば、死刑になるという結果が目に見えているのに彼を警護することで警官たちが殉職していく不条理が絶妙です。どっちみち殺される凶悪犯のために命を懸ける必要などあるのだろうかという問答がひたすら繰り返されるのには閉口してしまうが、ぼくらも何かトラブルがあったときには同じことを何度も自問自答するわけですから特におかしいとも思わない。
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 警視庁が必死に組織力をフルに動員しているはずなのに、なんでそんなに警備がユルいのだとか、もっと良い手があるだろうとか言いたくなるシーンがいくつも出ては来ますが、全体を通して見ていくとしっかりと作り込みをした過激なエンターテイメントに仕上がっています。  凶悪事件の加害者や被害者の心情や行動を扱った作品には『悪人』や『さまよう刃』『誰も守ってくれない』などがあります。これらと『藁の楯』の違いは藤原竜也演じる加害者が終始一貫してクズであったこと、被害者の祖父を演じた山崎努に同情しにくくした設定にあります。  被害者と加害者の両者に感情移入しにくい状況に放り込まれた観客は誰に付くかで戸惑い、結果としては大沢たかお松嶋菜々子率いるSPチーム贔屓に誘導されていく。これが狙いなのだろうかは解りませんが、一枚岩ではないSPチーム内での疑心暗鬼や次々に殉職したり、凶悪犯人保護のために正当防衛として襲いかかる市民たちを殺害して除去しなければいけない作品世界はかなり異質です。
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 お金の誘惑に駆られて、警察官や機動隊員までが賞金首である藤原竜也に襲い掛かってくる。多くの人間が殉職していく状況でも、まったく反省せずに自分を守っているSPまで殺害し、最後に残った大沢たかおまで刺殺しようとする藤原竜也は今までの邦画にはあまり出てこないキャラクターで衝撃的です。  ただ松嶋菜々子藤原竜也に二度も背中を向けて油断したために射殺されてしまったのを間近に見ながら、警視庁前で再度刺されてしまう大沢たかおの緊張感の欠如はどうなのだろう。単純にポジショニングが悪いという初歩的なミスを繰り返しているのには閉口する。  また、藤原竜也のクズぶりは徹底していて、裁判で死刑判決を受けたときの台詞が「後悔して、反省しています。 死刑になるなら、もっとやればよかった。」は驚きました。
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 連続少女暴行殺人の犯人には共感できませんし、台詞から読み取れる通りに人格が破綻している異常者はまさにモンスターでした。  三池崇史監督は過激な暴力描写で名を上げた人ですが、この作品に登場する藤原竜也もまた素晴らしい出来映えの怪物でした。お金ですべてを解決しようとする被害者の祖父役の山崎努にも共感できない。  感情と職務の間で揺れ動く護衛チーム(大沢たかお松嶋菜々子伊武雅刀岸谷五朗永山絢斗)も各々が問題を抱えて、次々にチームから離れていったり、殉職していく。
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 ラストを見るまでは大沢たかおも殉職し、主要キャストのほとんどが作品世界の中心から外れていくように見え、観客からすると物語に集中するための依りしろを失うような感覚となる。  被害者と加害者を俯瞰で見ながら、身内にも狙われる護衛チームと内部崩壊という座りの悪い仕組みを理解すれば、十分に楽しませてくれる映画だと思います。アクション演出もよく練られていますし、邦画特有のセコさを感じさせないハリウッドのような画作りには好感が持てます。  感情の持って行き所には困るかもしれませんがよく出来ているので、映画館は無理でもDVDを借りて見ましょう。三池崇史演出なので、どうせだったら全員死亡でもよかったのではないか。そのほうが次世代映画ファンのトラウマ映画として記憶に残ったかもしれません。
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 実際、原作ではそうなっていたようです。それでも凡庸な作品に堕落しなかったポイントとして邦画界の絶対的なヒロインである松嶋菜々子を作品途中で躊躇なく殺害したこと、そして大きな予算のついた作品にありがちな無駄な恋愛描写などが一切無かったことでしょう。  最後に松嶋の長男と大沢が親しげに河原を歩くシーンがあります。これにより大沢が藤原に刺されたものの命を取りとめて、生還したというほんの少しはハッピーエンドが描かれる。
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 低予算映画ならば、護衛に命を懸けたものの全員死亡したのちに、最高裁で公に裁かれてから死刑となる後味の悪いエンディングで良かったのでしょうが、さすがに大きな予算がついている作品です。  観客が割り切れない思い、モヤモヤしたした思いで帰宅させないためにビタースイートではありますが、慰めとなるシーンを加えたに違いない。 総合評価 70点