『コロニー』(2009)ミツバチはどこへ行った?国家とメジャーを巻き込む騒動の行方は?
ふだんの食卓や台所でよく使う甘味料といえば、普通は白砂糖を思い出すでしょう。喫茶店でも一般家庭でもコーヒーや紅茶に入れるのは砂糖が定番のようです。
しかしながら、ぼくは昔から蜂蜜が大好きで、コーヒーや紅茶に入れるのはあの黄金色のドロドロの液体でした。砂糖を入れるよりもコクと風味が増していきますし、栄養価も優れています。パンやクラッカーにも合い、冬場には生姜湯にひと匙加えるとまろやかに飲めます。
ところがアメリカでは大好きな蜂蜜を産み出してくれているミツバチに今、大きな異変が起きているようです。今回はそんな現在のミツバチ事情にスポットライトを当てた『コロニー』について書き進めて行きます。
数年前から色々な作物の収穫高に異変が起こっている根本の原因はミツバチの激減によるものであるという説が流れています。『Xファイル』にもミツバチの異変を扱ったエピソードがありました。
ミツバチが花の蜜を探し求めて、あちこちを探し回る時に身体に付着した花粉が雌しべに受粉することで計画的に収穫が上がり、農家の収入が安定し、植物も新たな世代にバトンタッチされていくという成長の流れが出来ていました。
それが何かしらの原因が重なり、成長の循環がブロックされてしまい、結果としてアーモンドやブルーベリーなど多くの作物に多大な影響が現れ出しているようです。ミツバチも本来は巣から出て、花に蜜を取りに行き、また巣に戻ってくるのが通常ですが、今回の作品で問題になっている蜂が消えてしまう現象を〝Colony Collapse Disorder″、つまり蜂群崩壊症候群と呼び、その原因と対策を考えていきます。
ネオニコチノイドと呼ばれる農薬やミツバチの近親相姦の重なりでひとつの伝染病が大流行すると体質が偏っているために一度に大量の犠牲を引き起こしているのではないかなどと語られる。
そのようなミツバチ事情をよく知らないぼくらではありましたが、ことの深刻さを提示されると、徐々に画面に引き込まれていきます。また養蜂家家族にスポットが当てられていて、蜂のコロニーが崩壊するのに合わせるかのように不景気やCCDにより家族も崩壊していくのは暗喩なのでしょう。
この家族自体が蜂社会のようで、支配者は母親で父親は影が薄く、男兄弟二人は働き蜂として花を求めて受粉に回り、妹ははちみつを販売して現金を稼ぐ。
この作品は『松嶋x町山の未公開映画を観るテレビ』で放送された傑作ドキュメンタリーの一本で、いつもながら毎週さまざまな切り口の作品をプレゼンしてきてくれます。
それまではまったく興味がなかった題材でも、当事者意識を持ちながら見ていけば、かなり深くまで楽しめる作品群が多く、見ることで問題意識も生まれてきます。しかも深刻な題材が多いのにもかかわらず、番組MCの軽さがちょうどよく、エンタメとしてもしっかりと成立しています。
こちらでも今までに『グッド・ヘア』『ウォルマート』を取り上げてきましたが、今回の『コロニー』以外にも北朝鮮の惨状を抉り出す『金正日花』やアマゾンでの原油流失による環境汚染を扱った『クルード』など見る価値の高いドキュメンタリーが多数放送されてきました。CSのⅤパラで現在放送されていますので、興味のある方は見て下さい。
話を戻します。人類にとっても有益な昆虫であるミツバチが激減した理由は何だったのだろうか。大気汚染、温暖化、農薬や餌となる花畑の問題、天敵の出現、人口爆発による単純な使用量の激増による疲弊など想像するだけでも多くの要因が思い付く。
この映画では原因ではないかと疑われたものに遺伝子組み替え食材の出現により、蜂がこれらを食物として認識できなくなったからではないかや携帯電話の爆発的普及による電磁波障害も指摘されていました。
また農薬については、製薬会社の巨人バイエルと養蜂家をはじめとする農家が埋められない相互不信を抱きつつも、国を巻き込みながら、何とか問題を解決しようと試行錯誤を重ねていきます。
またアメリカを襲った不景気の影響は甚大で、生活が苦しくなってきた農家と養蜂業者がお互いの首を絞め合うような駆け引きを繰り広げる。不景気とミツバチの消失は養蜂家の廃業を招いてしまい、農家の生産量もさらに激減していく負のスパイラルが起ころうとしています。
農業の崩壊は古くからのコミュニティや家族の崩壊に繋がっていき、主人公一家を蝕んでいく過程も描かれていく。では根本の原因は何だったのだろうか。政府機関と大学の研究者チームが地道に調べていった結果、原因はある種のカビとウィルスによることが解ったそうです。
つまり、農薬が原因ではなかったということになります。しかしながら、どこで感染したのかは解明されておらず、現在も被害が増えているとのことで、徐々に食糧難に結び付いていく危険もゼロとは言えない。つまり現在進行形の脅威なのです。
総合評価 75点