良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『バニー・レークは行方不明』(1965)我思う、故に我あり。本当だろうか?

 一昨年に読んだ映画本のなかでもっとも興味深かった町山智浩の映画エッセイ集『トラウマ映画館』で最初に取り上げられていたのが『バニー・レークは行方不明』でした。  本を読んでから、このマニアックな魅力に溢れる作品を無性に見たくなり、ヤフオクAmazonでDVDやVHSビデオを探し回りましたが、まったく見つけられませんでした。  そもそも日本語版DVDはもちろん、ビデオですら発売されていなかったのです。海外版を購入する手もありますが、英語を聞きながらなので、難解な内容を気楽に理解するわけにも行かず、かなり面倒くさい。
画像
 日本語版を見るのは不可能な状況で、かつて放送したことがあるシネフィル・イマジカでの再放送を待ち続けていましたが、なかなかオンエアされません。  諦めかけていたところ、今年一月にCSのスター・チャンネルのプログラム表にこの作品の名前を見つけ出しました。すぐに契約して、放送日を念入りに確認して、しっかりと録画に備えましたがこういうときに限って録画ミスや番組変更などのトラブルが起こりがちなので安心は出来ません。  似たような題材の映画が少なからずあり、『バルカン超特急』『フライトプラン』は僕も見ました。これらはノン・ストップの車中だったり、大空だったりと外に出ることができない閉鎖空間という舞台装置を駆使して、サスペンスを盛り上げていきます。
画像
 もっとも盛り上げるだけ盛り上げておいて、だいたい結末は呆気ない。まあ、それでも上映時間の大半は楽しませてくれるのですから文句は言うまい。  『バニー・レークは行方不明』ではアメリカはニュー・ヨークからロンドンに移住してきたレーク一家のヒロインの一人娘であるバニー・レークが預けていた保育施設から忽然と消えてしまい、母親であるキャロル・リンレーは半狂乱に陥る。  頼りがいのある兄であるケア・デュリアも駆けつけ、当初は誘拐もしくは失踪事件としてローレンス・オリビエ演じる警視をはじめとする警察が捜査に乗り出すものの、彼女の存在を裏付ける写真や物証が何もないために、警察など周りの人々に彼女の実存自体を疑われていくという点で他との相違があります。
画像
 ロンドンの都市伝説にホテルから忽然と消えた母親の話があるそうで、元ネタはそこから来ている。監督は『絞殺魔』『殺人』など難解で奇妙な問題作品を数多く手掛けたオットー・プレミンジャーですので今作品も一筋縄では行かない難しい展開となります。  オープニングからスタイリッシュで、黒い紙を破ると中には白い紙に俳優名やスタッフの名前が次々に現れてくるというクールな演出がなされています。もしかするとと予感していると、期待通りにタイトル・デザインに関わっていたのはソウル・バスでした。  『バルカン超特急』などとの比較としては後半ギリギリまでバニー・レーク本人(人形は出てきます。)が登場しないことでしょうか。バルカンでは老婦人が、フライトプランでは少女が最初から観客の前に姿を表します。
画像
 が、この作品には最後のクライマックスまで登場しないので、問題解決を望む観客もオリビエ同様に実在を疑いながらの鑑賞で、ずっと不安な気持ちになってしまい、ヒロインのリンレーやバニー・レークちゃんへ感情移入しにくいのが映画としては難がある。  また『2001年宇宙の旅』でのボーマン艦長を演じたケア・デュリアがヒロイン(キャロル・リンレー)の兄さん役で登場し、重要な役割を果たします。登場当初はしっかりした兄貴を演じていたのが、近親相姦的な印象を与えるお風呂のシーンが出てきて以降は見る者も違和感を抱き、警察周囲の聞き取りでもヒロインもそうだが、それ以上にケア・デュリアも異常なのではないかというエピソードが頻出してくる。  借家の大家がリンレーを誘惑しにくるエロイシーンなどもありますので、一般向けとは言い難く、病んだ印象が強い。序盤は拉致監禁モノ、中盤はヒロインのサイコ系気質が発揮され、どうなってくるのかなあと思っていると最後は比較的予想範囲内の着地点にたどり着いてくるので、物足りなさは残りますが、かなり楽しませてくれる作品に仕上がっています。
画像
 あちこちにどこか薄気味悪い映像やキャラクター、そしてゾンビーズ出演シーンなどポップ音楽やしっかりとしたサントラが映画を盛り上げます。しかし見終わっても、爽快感はありません。間違っても、親子みんなで楽しむという雰囲気ではありません。  結局は精神病院送りになって、脱走したヒロインが殺されそうになった娘のバニー・レークを救い出すのは良いが、真犯人が身内なので、スッキリはしない。もっとも犯人らしかった大家は意味深なカットがいくつかあるものの無実ですし、バニーの存在を知るはずの料理人のオバちゃんも事件には無関係でほとんど登場しない。  精神異常や幼児退行など、それまであまり映画では描かれなかった異質な部分が多く描かれているからこそ、数十年もの間に渡り、見た者に強いインパクトを与え続けているとも言えます。
画像
 テレビで放送されたのは深夜枠だったのでしょうか。それとも昼過ぎのお茶の間ショッピングの合間だったのでしょうか。お昼に流れていたのだとするとそのころのテレビって、今みたいにゴチャゴチャ倫理規定とかやかましくなかったのでしょう。  小中学生の頃にかなり多くの奇妙な映画を東京12チャンネルで見てきましたが、残念ながらこれを見るのははじめてでした。もし70年代に大学生だったら、さらに鮮明にこれらの映画の記憶が残ったのではないだろうか。  もっとも子供がこれを見ていたら、素直な感受性で偏見もなく、宣伝などには左右されない状態で映画を見てこれたのかもしれません。
画像
 今回、初めて見ましたが、周りがすべて自分の意見を信じてくれない状況で自己を疑わずに確信し続けていられるかは困難です。  例えば戸籍や卒業記録、その他が一切失われてしまい、国に動乱や大災害が起こり、家族や親類が一人もおらず、独りぼっちで亡くなった場合、数十年後にその人は確かに生きていたと証明できるだろうか。  誰もその人を覚えておらず、記録からも消えていたら、存在していたと言えるだろうか。我思う。故に我有り。この言葉は周りが聞いたか、記録に残っているからこその言葉であり、孤独な人のそれは誰にも認知されず、なかったことになる。存在とは誰かに「きみはそこにいるよ。知っているよ。」と言われてこそ成り立つ。
画像
 そんな人いたっけ?と言われないように仕事をしようか?それとも仕事場でも家庭でも透明人間として一生を過ごすのが気楽なのか。「透明人間!そう呼ばれてた、僕の存在~♪」と乃木坂46も『君の名は希望』で歌っていました。  乃木坂はともかく、見終わってからも、なんだか暗い気持ちで自問自答する日曜日のおうちシネマでした。今日は暇だし、次は『どん底』にしようか、それとも『エクスタミネーター』にしようか。久しぶりに『マッド・マックス』もいいかなあ。 総合評価 80点
バニー・レークは行方不明 [DVD]
復刻シネマライブラリー
2015-07-06

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by バニー・レークは行方不明 [DVD] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル