『エクスタミネーター』(1980)ランボーでもマックスでもないヒーローはギンティ?
ぼくが中1の冬に『ランボー』が大ヒットしてからというもの、あれもこれもとベトナム帰還兵モノが一大流行になっていた1980年代中盤から後半。
その数年前の70年代後半から『ディア・ハンター』『地獄の黙示録』『ローリング・サンダー』などベトナム戦争を題材に取った作品は増え出していました。
チャック・ノリスのアクション映画が人気を博し、本家の『ランボー2』がまたまたメガヒットしている中で、ある一本の亜流ベトナム帰還兵モノのアクション映画が80年代にちょくちょくテレビ放送されていました。
もともとは1980年に公開され、当時もそこそこヒットしていたそうです。しかし公開時に小学生だったぼくらの間ではまったく話題にもならずに、数年後に12チャンのテレビ洋画枠やフジ系列のゴールデン洋画劇場に流れてきたときに何度も見ました。
その後も局を変えて放送されたりしましたので一体どれだけ放送されてきたのかは定かではない。今回リリースされたDVDにはゴールデン洋画劇場での吹き替え版も収録されています。
けっこうファンが多い映画ですが、1980年代のアクション映画スターだったシルヴェスター・スタローン、チャック・ノリスやメル・ギブソンらと違い、この映画の主役ロバート・ギンティはちっともカッコ良くはありませんでした。泣き出しそうでたれ目なのでとってもアクション・スターには見えない。
それでも多くのシーン、オープニングのベトナムでの首切り処刑、チンピラをバーナーで焼き殺すシーン、変態メガネ親父が少女娼婦を焼きゴテで拷問するプレイ、全身麻痺の戦友の生命維持装置を外すシーンなどが記憶に残っています。
つまり興行を大きく左右するであろう演者という要素ではパッとしません。それでも映画自体の見た目のインパクトは素晴らしいのは演出と脚本という映画の根幹となる残り二つがしっかりしていたからこそ、長い間に渡り、ぼくの記憶に残っていたのでしょう。
こんな映画のタイトルは『エクスタミネーター』で主演はロバート・ギンティでした。何度見ても忘れてしまうほどインパクトのないその顔。今にも泣き出しそうな情けない顔つきはいじめられっ子か、嫁に逃げられた甲斐性無しのようで憧れる存在ではけっしてありません。
しかし何故かずっと気になる不思議な男がロバート・ギンティなのです。街の厄介者どもを大掃除するベトナム帰りの殺し屋が彼の役どころです。
情けない顔をしているくせにやることはけっこう過激で、次々に街のヤクザたちを消していきます。しかも焼き殺したり、ギャングを人間ミンチにしたりとやりたい放題のオンパレードで、放送時には何気なく見ていたのが、いつの間にか引き込まれていったのを覚えています。
おかしな突っ込みどころは満載で、西部劇の世の中ではないのにあちこちの殺害現場で顔を見られ、素手で空き巣に入ってしまい、血液や指紋をあちこちに残したまま立ち去って行く。思わず「おいおい、ギンティ!」と言いそうになるシーンがてんこ盛りです。
そんな正しいB級映画ではありましたが、放送時にビデオ録画していたわけでもなく、タイトルをはっきりと記憶していたわけでもなく、他にも思い出に残る映画の洗礼を受け続けたためにいつかギンティの存在自体も忘れていきました。
そんな彼を思い出すきっかけとなったのがレンタルビデオ屋さんのアクション映画コーナーの下段の棚に押し込められていた『エクスタミネーター』でした。
ひょいとビデオをつまみ上げ、解説を読んでいくと「ああ、あれだ!」と一気に記憶が甦り、すぐに借りました。内容としては昔見た通りの内容ではありましたが、今回はノーカット字幕版でしたのでずいぶんと雰囲気が違いました。
時は経ち、メディアはDVDに変わったのを機にDVDを購入し、今回の記事を書いています。ランボーやマックス・ロカタンスキーのようにクールでカッコ良い訳ではありませんし、やることも無茶苦茶です。
それでもまた見たくなる男がロバート・ギンティなのです。恋愛映画におけるジェレミーのような等身大のタフガイ、もしくは劣化版アンチ・ヒーローか彼なのだろうか。
だからこそなんだか共感できるのかも知れない。ランボーやマックスにはなれないけど、ギンティだったら成れるかもしれない。
このへんの映画は深夜に何も考えずにボンヤリ見るのが一番良い。家族が寝静まってから、ごそごそとDVDを取り出し、こっそり見ましょう。
もし見つかっても、「エロビデオちゃうで!!」と家族に言い訳しやすいし、大昔の夜更かしするのがウキウキしていたころの気分がよみがえってきます。思えば、『マッドマックス』や『ターミネーター』も深夜に見た方が楽しい。
家族みんなで昼下がりに見ても、なんにも楽しくない。ジャンル映画は深夜かサボったときの昼下がりに限る。そう思えば、12チャン映画は最高でした。
なんだかよく分からないスカが大半を占めていましたが、思い出に残るのもこのチャンネルでした。まだ元号が昭和だったころ、寝小便した証である世界地図(ふとん)を好きな女の子に見られたくない一心で全力で走り続けた『ある勇気の物語 孤独のマラソン・ランナー』がもう一度見たいなあ。
総合評価 68点