良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『ゼロ・グラビティ』(2013)タイトルは無重力ですが、本当に訴えたいのは重力のありがたみ。

 映画館では上映前に話題作の予告編やCM、そして映画泥棒の新ヴァージョンが流れているのが通常ですが、宣伝シーンのみしか見どころがないモノも含まれていることがある。  そんななか、予告編が流れている時点から気になっていた作品に今回観た『ゼロ・グラビティ』がありました。見た感じではたぶんSF映画っぽいし、なにか奇妙なエイリアンでも出てくるのかなあとタカをくくっていました。  それでも映像は大画面で見ても迫力がありそうだったので、特撮映画ファンの血が騒ぎだし、ついつい時間をやりくりしながら観に行くことにしました。
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 するとびっくりしました。久しぶりに3D上映を選んだのですが、これが大当たりで、はっきり言ってこの作品はのちにDVD化されるのは間違いないのでしょうが、『アバター』以来の衝撃を受けることは確実なので、できるだけ3D上映の回を選ぶことをお勧めいたします。  もちろん2Dでも楽しめるレベルには仕上がっていますが、この映画の本質は3Dでないと語り尽せないのではないだろうか。宇宙のゴミが飛んでくる速度のすさまじさは特筆すべきであり、見ていて思わず避けそうになりました。  宇宙から見る地球の映像の美しさは「地球は青かった」とのたまう人もいるでしょう。夕暮れや朝日が昇る様子も美しい。映像技術はもちろん素晴らしいのですが、それ以上に素晴らしいのはこれは宇宙という環境でのサバイヴァルを描いた映画であり、けっしてサイエンス・フィクションではないという点です。
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 当たり前に宇宙という無重力かつ無酸素の環境にあって、人類が冷静に諦めることなく、生存して地球に帰還することを目的として知恵を振り絞り続ける作品は今までになかったのではないか。しかも映画自体は無音部分も多く、とても地味なのです。  音もなく、宇宙ステーションが崩れ去っていく様子はかなり恐ろしく、ホラー映画のようでした。派手な効果音など必要としない迫力ある映像を楽しみたい。  宇宙服がないと呼吸すらできない、酸素が無くなると死亡するという分かりやすいポイントがサスペンスを盛り上げます。『救命艇』のように船でのサバイヴァルも緊迫感がありましたが、宇宙空間では溺れることすらできませんし、単純に酸素がどれだけ続くかですべてが決まってしまう。
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 同じ軌道上にアメリカ・ロシア・中国の宇宙ステーションが点在していて、お互いの機材や脱出カプセルの使い方がほぼ同じに作られているというのももし、不測の事態が発生したときに助け合えるという判断からのようです。  サンドラ・ブロックジョージ・クルーニーが共演していて、ジョージはほとんどが宇宙服のヘルメット越しにしか話せないまま死亡していってしまうのでほとんどの場面でサンドラ・ブロックの一人芝居になっています。  判断ミスや操作ミスが多く、危なっかしい彼女でしたが、徐々に落ち着きを取り戻しながら、わずかな生存及び帰還へのトライを続け、最終的には中国のカプセルを使って、大気圏への再突入を果たし、湖に落ちる。何故に湖か分かるかというと沈んでから、脱出する際にカエルがスイスイと泳いでいるからです。
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 せっかく帰ってきた地球ですが、あいにく水中も自由が利かず、またえら呼吸できない人類にとっては無酸素状態に変わりがなく、ようやく帰ってきたのに最後の苦しみに襲われる。  もし、この湖にピラニアかワニがいたならば、彼女の結末も違ったものになっていたでしょうし、食人族でもいたならばとんでもない結果になっていたでしょう。さらにようやく到着した星では猿が人間を支配していたらと思うと嫌になってしまうでしょう。  しかし最初に申しあげました通り、これはSFではありませんで、いわばパニック映画か宇宙サスペンス映画、もしくは極限環境に追い込まれた際の人類が取るべき方法は何なのかを見せてくれる頑張り屋のおばさんであるサンドラ・ブロックの勇気の物語です。
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 困難を切り抜けてきた彼女が湖を泳ぎ切り、岸辺にたどり着いたときに土をつかみ、足で陸地を踏みしめる感触が観客にも伝わってきます。  セリフは一切ない場面なのですが、空気のありがたみ、重力のありがたみ、水のありがたいなど普段の地上生活では味わえない幸せが実感できる素晴らしい作品に仕上がっています。  映像はとても綺麗で、見れば分かるのでセリフも必要ではなく、映画として成立しています。セットはどうやって組んだのかは知りませんし、おそらくCG技術を駆使しているのは承知していますが、CGで見せようとはしていません。
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 ロシアのソユーズに逃げ込み、宇宙服を脱ぐシーンが『2001年 宇宙の旅』でのスター・チャイルドのようでしたし、グルグル回る船内もあの映画ですでに見ていたような気がします。サンドラ・ブロックはけっこう年齢も重ねているはずですが、見事に体型を維持し、というよりは鍛え上げていたので驚きました。  今回の3D技術の導入は作品の表現上で欠かせないテクノロジーだから使用しているのが理解できますので、まったく嫌味はありませんし、この映画に対しては3D上映の高価格チケット代を納得できます。  力強い映画です。まだ上映中ですので、観に行っていない方はお近くの映画館に急いでください。『アバター』を見逃した時と同じ後悔をしないようにしましょう。
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 笑えるカットもあり、中国宇宙船内で無重力状態で浮いている卓球のラケットや各国の宇宙船にあるマスコットなどを見ているのも楽しい。コントロール画面が最初はロシア製に戸惑い、最後はなんと中国語って、レストランで迷ってるみたいで笑えます。  しかしまあ、なんで広大な宇宙空間に生きているのがサンドラ・ブロックだけなのだろう。あれだけ宇宙ステーションが密集しているのだから、だれかいるんじゃないかと期待しましたが、ことごとくロシア衛星爆破のチェーン・リアクションで見事に全滅しています。  たった90分間弱の上映時間内でアメリカのスペース・シャトル(?)、宇宙ステーション、ロシアのステーションと脱出カプセル、中国の宇宙ステーションがロシアの衛星爆破による巻き添えで次々に宇宙のクズと成り果て、最終的にはサンドラ・ブロックと一緒に大気圏に突入し、燃え尽きていきます。何兆を超える規模で、どれだけ多くの国家予算が消えていってしまったのだろう。
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 大気圏突入シーンも素晴らしく、摩擦熱で次々に燃え尽きていく様子がリアルに描かれています。ガンダム世代のぼくは大気圏突入シーンでは記憶の隅っこで「助けてください!シャア少佐!」の絶叫とともにザクが燃え尽きていく場面を思い出していました。  ちなみにオリジナルタイトルは『グラビティ』、つまり重力と名付けられています。ラスト・シーンでのサンドラのたたずまいを見てからでは邦題の『ゼロ・グラビティ』よりも、こちらの『グラビティ』のほうがしっくりきます。
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 総合評価 85点