良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『コンラック先生』(1974)何気なく借りてきたDVDでしたが、丁寧な出来に引き込まれました!

 今ではアンジェリーナ・ジョリーのパパだよと教えたら、若い娘たちに「えーっ!そうなんですか!?」と言われてしまうジョン・ヴォイト金八先生のような熱血先生役(ヒッピー風の長髪を現地人に呆れられる!)で主演したのが『コンラック先生』です。  実話をもとに製作された作品で、南部に根強く残る差別をじつは被害を受けている黒人たちもそれを当たり前のこととして受け入れてしまっているというある意味、かなりショッキングな内容です。
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 しかしながら、ただ衝撃的というのではなく、南部の郷愁を誘う美しい自然やそこで暮らす子供たちの純粋な気持ちが丁寧にかつコミカルに描かれている。  もっとも教育水準に関しては悲惨と言って良い。大人になっても大半の住民は文字が読めず、1+1=2レベルの単純な計算すら出来ず、そもそも数字の順番すら分かっていない。
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 パット・コンロイという役名で出ているジョン・ヴォイトですが、この島の子供たちはアルファベットの発音すらきちんと出来ていないために、彼を“コンラック”と呼ぶ。校長先生ですら、なぜか彼の名前を“ペンロイ”と呼び続ける。  さらに衝撃的なのは自分たちがどの州の何という町に暮らしているのかも知らず、自分たちがどんな国に住んでいるのかすら理解していない。舞台はサウス・カロライナ州です。
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 つまり小さな島に住む彼らは完全に外世界から隔離されていて、アメリカ合衆国国民であることを知らないのです。いっさいの教育を受けておらず、白人に服従することを学校で強要されていて、それが教育だと白人主体の市の教育委員会も当たり前だと認識している。  黒人に対しては鞭と恫喝で黙らせるのを教育だと言って憚らない。しかもそういった教育を主導しているのが黒人女性の校長なのです。
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 ただし彼女には彼女の理由があり、どうせ自由な教育を受けたところで、まともな職業には就けず、どこへ行っても差別される現実を嫌というほど味わってきたきた結果として、自らが余計なトラブルを引き起こさない、新たな単純労働力になる世代を調教している。  そんな状況が1970年代まで続いていることを告発していくのがこの映画の真のテーマなのでしょう。作品自体はヒッピー上がりの教師であるジョン・ヴォイトと子供や島の住民との心暖まるエピソードが綴られていきます。
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 着任した最初はまったく相手にされず、敵対視されていた彼がアメフトえお教え、水泳を教え、ギターを奏で、ハロウィンを体験しにはじめて海を渡って街に出て、徐々に子供たちや住民との絆を深めていくうちに一気に教育水準を引き上げていくというサクセス・ストーリーが描かれていきます。  ただし、ここからは腑抜けた1980年代以降の映画とは一線を画しています。黒人全体が知的になり、学習の喜びを得て、法的に理論武装して自分達の立場や仕事場を荒らされることを何よりも恐れる旧世代の白人にとっては黒人たちを教育していくジョン・ヴォイトは厄介者でしかない。
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 また校長もしょせん社会に出れば差別される自分たちを楽観視しておらず、結果としては本来の敵であるはずの旧世代の白人に彼を売り渡す。  かなりの知識を身に着けだした彼らにさらなる教養を身に付けるべく、校内に保管されていたレコードを引っ張り出し、ベートーベンらのクラシック音楽を聴かせ、情操教養を行っていく。 また映画のフィルムも活用し、教室で上映会を開き、彼らにシンドバッド映画(?)を見せる。
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 はじめて見る映画に目を輝かせながら、スクリーンに見入る様子が真夏の盆踊りの後に開かれた子供会の映画上映みたいで懐かしくなりました。  最後の別れとなるシーンでは桟橋で見送る際にベートーベンの『運命』をポータブル・レコード・プレーヤーで掛ける。映画はこの別れのシーンで終わってしまうため、その後に何が起こったのかは描かれていません。
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 アメリカン・ニュー・シネマの時代、多くの主人公たちは殺害されるか(『イージー☆ライダー』など)、事故で死ぬか(『バニシング・ポイント』など)、薬物やアルコール中毒で死亡するか(『真夜中のカウボーイ』など)でした。  この映画では教師役なので死ぬということはさすがにありませんでしたが、解雇という社会的な“死”の宣告をされてしまいます。社会派監督マーティン・リットならではのストーリーの選択と演出だったのかもしれません。  実話ではその後にこの先生は自伝としてこの島での教師生活を出版します。現在の姿なども伝わってきていないので、彼らのその後がどうなったのかに興味があります。 総合評価 80点