良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『獣人雪男(アメリカ公開版)』(1958)“HALF HUMAN”というタイトルで公開されていました

 円谷プロが『ゴジラの逆襲』のあとに製作した『獣人雪男』はわが国では現在でもソフト化はされておらず、10年以上前にはグリフィン絡みのビデオが出回って、マニアの間では話題になっていましたが、じつは『怪獣王ゴジラ』と同じく、アメリカ公開版の『HALF HUMAN』という珍品が存在します。  ビデオのジャケットがカラーなのはともかく、裏パッケージでもカラーで紹介されているので驚きます。オリジナル版はモノクロ映画だったのですが、もしかするとカラーライズされて、アメリカでは商品化されたのだろうかとも思いました。  いざ見ていくとオリジナルと同様にモノクロでした。ジャケットまでモノクロにしてしまうと地味な印象を与えてしまうからでしょうか。ただし、カラーで紹介されていると言っても、まるで“総天然色”という感じの大昔の嘘くさい雰囲気が出ていて、なかなか笑えます。
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 日本ではいまだに商品化されていませんが、このビデオテープは海賊版ではなく、アメリカではちゃんとVHSフォーマットで商品化されています。  内容はだいぶんとオリジナル版とは違っていて、もちろんアメリカ販売用ですので、セリフはすべて英語ですし、日本語字幕もありません。  1955年に公開されたオリジナル版『獣人雪男』の上映時間は95分だったのがこのアメリカ公開版(1958)では65分間弱に短縮されています。その代わりの追加シーンに登場するのはわれらがジョン・キャラダインです。  ジョン・キャラダイン博士が来日時に田中教授(プロフェッサー・タナカ)から聞かされた奇妙な出来事の回想とアメリカ人研究者たちとの質疑応答に多くの時間が割かれる。
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 ジョン博士は見世物小屋の怪しげなオヤジのように、彼が見聞きした東北地方の山奥に住む雪男の存在を証明するために小出しに類人猿関連の証拠品の数々(最初が雪男の毛髪。次が雪に残された足跡を石膏で固めたもの。極めつけが雪男ジュニアの遺体。親が最初に人前に姿を現すのは20分を過ぎてから。)を研究者に出していく。  これらのシーンがさらにオリジナル版の本編を圧迫していきますが、馴染みのない米国民に東洋の神秘を理解させるにはこれくらいの前置きが必要だったのでしょう。  一通りの説明を済ませると、いよいよジョン博士は殺風景な研究所に運んできた雪男ジュニアの遺体を検死官に見せる。しばらく眺めていた検死官の医師は「こいつは半分は獣で、もう半分は人間だ!」と驚愕の表情を浮かべるが、見れば誰でも分かることしか言わない。  そもそも雪男ジュニア(撮影で使用された実物のスーツらしい。)が冷凍保存すらされている形跡もないままに、広大な太平洋を渡って、白人たちの研究対象という好奇の目に亡骸を晒されるきっかけとなったのは子供と仲良く暮らしていた雪男(親)の噂を聞き付けてきた悪徳興行主による貪欲さのためでした。
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 密猟者たちは麻酔薬や銃を使って、一時は雪男(親)を生け捕りに成功するものの助けに来た雪男(子供)の決死の行動により、親は脱走に成功する。しかし代償として大切な子供を撃ち殺されてしまう。  激怒した雪男の攻撃を受け、悪徳興行主たち一味は全員断崖絶壁から突き落とされる。このへんの特撮はよく出来ています。  キングコングとは大きさが随分と違っていますし、猿人ジョー・ヤングよりも小さい。スケールの小ささはいかんともしがたいが、体長3メートル弱、体重は1800ポンド(プロレスみたい。)というのはかえって現実的で恐ろしく感じます。
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 また女を傷つけないという理由付けには種の保存のためであると断言しています。気になるのは研究者たちがしきりにモンキー・ファミリーと連呼する点で、イエロー・モンキーは日本人への蔑称ですのでついつい反応してしまう。  合計すれば15分以上はアメリカ公開用の追加シーンが入ってくるので、オリジナル版からのカットは45分間程度になります。話を分かりやすくするために状況説明が必要だったことがジョン・キャラダインたちの研究所シーンのアイデアとなっています。  残念ながら、オリジナル版のほぼすべてのシーンがナレーション・ベースになってしまっているのはあたまでは理解できるものの映画本来が持つ迫力や山岳映画独特の雰囲気を破壊しています。それでも見られるだけでもありがたいのかもしれません。
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 ちなみにこの『HALF HUMAN』のビデオテープの背ラベルには『HAUNTED HOLLYWOOD』というシリーズ物のリリースとして扱われていて、この作品はVOL.14と番号が打たれています。  いったいボリューム1から13にはどんなマニアックな作品が並んでいたのだろうか。わが国のマウントライト社と同じような嗜好を持つ経営者がアメリカにもいたのだろうか。なんだか気になります。  それでも獣人の特撮シーンなどは使われているので、作品の資料的価値は貴重ですし、円谷特撮の素晴らしさは消えてはいません。
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 円谷プロも身売りを経て、無視し続けてきた歴史に終止符を打つべく、雑誌メディアなどではようやく存在を認めるようになってきています。  『ノストラダムスの大予言』『獣人雪男』『遊星より愛をこめて』『狂鬼人間』などの封印作品群にも光を当てて欲しい。VHSビデオの『HALF HUMAN』はたまにヤフオクで出品されていますので定期的にチェックしていれば、結構な確率でゲット出来ると思いますが、そろそろオリジナル版が解禁されるのではないかという期待もあります。  総合評価 60点
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