良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『腹腹時計』(1999)反日極左テロリストによる天皇暗殺計画を描いた超問題作。

 渡辺文樹監督が取り上げるテーマと作品は常に大きな問題を提供します。思えば、『家庭教師』や『島国根性』などはまだまだ序の口に過ぎなかったのは後から分かることでしかない。  そのあとに続く『罵詈雑言』では原発絡みの選挙不正工作の実行者の殺害を描き、『ザザンボ』では近親相姦による精薄と家父長制(頂点は皇室だということを暗示する額縁写真の掲示。)が原因として起こる殺害事件とその隠蔽工作を描いてトラブルを引き起こす。  表現がどんどん過激になっていき、この『腹腹時計』及び『御巣鷹山』ではさまざまな陰謀説に憑りつかれた妄想的渡辺ワールドを展開する。  『腹腹時計』では実際のニュース・フィルムや新聞を挿入し、過激派一派の動向や海外テロリストとの連帯シーンに真実味を持たせていく。フィクションのシーンと実際の企業名や犯人たちの逮捕記事などをゴチャゴチャに引用するので分かりにくい部分もあるが、死傷者300名以上(うち死者8名。)を出した丸の内での爆破事件の記事を引用していて、1970年代中ごろ当時の過激派の猛威を伝えてきます。
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 オープニングで一連の革命事件を伝えた後に、KCIAによる過激派海外拠点への襲撃(テロリストの中には渡辺自身もいる。)と逃亡犯追跡のために派遣されてきた韓国からの捜査員や日本の警察の公安部による犯人追跡が描かれていきます。  最初に戸惑うのはこの映画ではナレーションが韓国語、字幕は縦に日本語が入ってくるのは分かるが、画面下に英語字幕まで入るのでなんだか画面に集中しにくいことです。海外上映を意識したのでしょうか。  またコスト削減のため、今回もプロの俳優を使わずに、素人を起用しているので、基本的に台詞棒読みばかりです。素朴であるが感情移入は難しい。これは演技に感情を持っていかれないようにして、物語のテーマに観客を集中させるための渡辺監督の狙いなのだろうか。  予算がないから、たまたまそうなっただけなのでしょうが、嘘臭いプロの俳優の狙った演技とは違う独特の雰囲気を醸し出しているのも事実です。  かなり極左的な反日思想が強く出ている作品で、まるで中国プロパガンダを見ているのかなという錯覚を受けるかもしれませんが、製作しているのは日本の渡辺文樹監督ですので、この人の個人的な見解なのでしょう。  日本に対しての恨みつらみをひたすら言い続ける外国人、アメリカと手を組んだ日本へのやっかみと反感、天皇陛下の責任問題などを前面に押し出してきているのでテレビ放送などは絶対に無理でしょうが、考えて欲しいのはこういった過激な表現であっても、弾圧せずに一応は視聴が出来る国はまだましであり、ちょっとでも政府に反対することを言えば処刑されたり、弾圧されたりする国とは次元が違うということです。  他人の国にちょっかいばかりかけてくるのは自分の国内に問題が山積していて、真の問題から目を逸らす目的で他国へ罵詈雑言を浴びせかけているのだろうと分かったうえで対応すべきなのではないか。  “狼”などの左翼セクトの名称は実在したものであり、この対企業テロの犯人たちの何人かは未だに逃亡を続けています。この作品では渡辺と若い女(永井リエコ)二人でコンビを組み、自分たちに都合が悪い人々を次々に抹殺していきます。
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 彼らの姿は政治的な革命というよりも、ただの殺人カルト集団にしか見えない。なんでもかんでも他人のせいにして、皇室や軍部、大企業のせいにするのは間違っていますし、たとえ凶悪な手段で彼らを攻撃したとしても大きな支持は得られない。  無差別テロなどは何の罪もない人々を巻き込む卑劣な犯罪であり、いかに犯行声明などで自分たちは政治であると主張してもテロリストに耳を貸す必要などない。テロリストの記念館を建てるなどは正気の沙汰とは思えない。  天皇陛下暗殺未遂を扱った本作は超問題作であり、上映はかなり難しかったようで、妨害やら拒否が相次いだようですが、それは致し方ないでしょう。オブラートに包み隠さずに反日映画をこともあろうに日本人監督が作ってしまった訳ですから、その後の活動がしづらくなるのは当然でしょうし、資金も集まりにくくなるでしょう。  テロ計画は自分たちで作った殺傷力が強いニトログリセリン爆弾を使い、天皇陛下の福島巡幸列車が通るルートに近い列車をハイジャックして体当たりさせて暗殺を謀るというかなり大胆なものです。実際に極左セクトの“狼”はこの計画を立て、実行寸前までいったようでして、この映画は彼らの遺志を継ぐものたちの行動を描いたという設定を設けています。
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 そのためには自家製爆弾を制作し、より殺傷能力を強くする必要があります。また自分だけ出来ても仕方がないので、支援者にも作れるように指導するシーンもあります。  腹腹時計とは自家製爆弾の製造方法やテロ戦術や自らの組織の在り方と意義などを体系的にまとめた冊子であり、左翼系書店には実際に並べられていたそうです。さすがに現物を手に入れるのは難しいでしょうし、あまりにも危険なので、当然ながらヤフオクなどでも出品はされていません。  ただ作中には投擲弾製造シーンがあり、薬物の混合割合や各々の薬品の取り扱い注意、また爆弾が完成するまでの詳細な工程が描かれているのでかなり問題があります。  皮肉なのは主人公渡辺と支援者の女(永井)を追い詰めるのが彼女の父親役の公安部の刑事と韓国からの捜査員であり、主犯格の渡辺を銃撃するのが彼だったことでしょう。
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 映画のラスト・シーンには自分の娘が実行犯だった公安課刑事が天皇陛下護衛という任務を終えてから、挨拶時に陛下に「戦争責任についてどうお考えでしょうか?」という無礼な言葉を投げかけた刹那に短銃を取り出して自身の頭を撃ち抜くという衝撃的なカットを持ってきますが、かなり後味が悪い。  池田純一郎が付けた音楽が決まっていて、とりわけオープニングとエンディングにかかるアコースティック・ギターのみのインストの出来が素晴らしい。怒りがこもった力強さを感じます。  かなり偏った思想のもとで製作された作品なので、嫌気がさしてくる方もいるでしょうが、作り自体は下手くそなポリティカル・アクションと割り切って見ていけば、まんざら駄作とも思えない出来には仕上がっています。  映像にもところどころに凝った構図もあり、シュールな表現を用いたカットがいくつかあります。全編通してみていくとかなりチープな銃撃戦に萎えるかもしれませんが、ゴダールが撮ったアクション・シーンもそんなのが多かったような気もしますので、お構いなく映画全体の雰囲気を掴んでいきましょう。 総合評価 70点
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