良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『女ドラキュラ』(1936)タイトルはテキトーですが、中身はしっかりした『魔人ドラキュラ』の続編

 この作品『DRACULA'S DAUGHTER』には『女ドラキュラ』という身も蓋もない邦題が付けられていますが、オリジナルタイトルも和訳すると『ドラキュラの娘』なのでそう大差はない。  ホラーの老舗、ユニバーサル映画の古典となる、トッド・ブライニング監督でベラ・ルゴシ主演の『魔人ドラキュラ』の続編という括りの中編です。
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 オープニング直後には『魔人ドラキュラ』でベラ・ルゴシの胸に杭を突き刺したヴァン・ヘルシング(エドワード・ヴァン・スローン)が登場し、ドラキュラ伯爵の遺体も杭を突き立てられたまま、棺に横たわっている。  観客はヴァン・ヘルシング教授の活躍によって、吸血鬼が退治されたことを知っているが、いつも通りに間が抜けている警察は彼を殺人犯として逮捕(裁判にかけられたマシュマロマンみたい。)する。
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 だれもこの刺殺された亡骸が500年前に死んだ化け物だとは信じないので、彼が釈放されるには精神異常者であると証明するしかない。半分は製作サイドによるナンセンスな悪ノリなのでしょう。  ドラキュラ伯爵の遺体は死体安置所に運ばれて、暗い部屋に安置されるが、ここへ尋ねてくる黒づくめの謎の美女がグロリア・ホールデン演じるドラキュラの娘です。  ここを守るのは頼りなく、臆病な下っ端のオジサンで、彼の登場シーンはまるでドリフのお化けコントなのでクスクス笑ってしまいます。
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 そこへ現れる、美しいグロリア・ホールデンは催眠術の使い手で看守を眠らせ、まんまと父親の遺体を奪還していく。ただここからが凡庸ではなく、彼女は吸血鬼の血筋を嫌悪していて、伯爵を生き返らせない。  すぐに火葬し、伯爵と彼の一族にかけられた呪いを解こうと神に祈る。しかしヴァンパイアの血筋と吸血の衝動には逆らえず、夜な夜な歓楽街を物色し、犠牲者を増やしていく。
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 父親と一人娘の葛藤が描かれているのは興味深い。精神科の博士であるオットー・クルーガーはヴァン・ヘルシングの依頼に応じ、彼が退治したのは吸血鬼であり、人殺しをしたのではないと証明しようとする。  その過程でグロリア・ホールデンに言い寄られるが、拒絶する。結果、グロリアは彼の秘書を誘拐し、トランシルバニアの居城に彼を誘い込む。
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 永遠の命を与えようとした刹那、従順だった下僕の裏切りにあい、心臓を矢で射抜かれて絶命する。主なストーリー展開はこんな感じです。  ドラキュラは女であれば誰でもいいような浮気男の象徴で、夜な夜な若い女性の寝室に忍び込むような遊び人男性のメタファーでしょうから、この女ドラキュラも夜遊びに明け暮れ、翌日にはそんな自分への嫌悪感が充満しても、夜が来ればまた男遊びを繰り返す淫乱な女性のメタファーなのでしょうか。
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 しかもグロリア・ホールデンが襲うのは若い男だけではなく、若い女性まで毒牙にかける両刀使いなので、よりショッキングだったのでしょう。  この映画の魅力は悲劇的な最期を迎えるグロリア・ホールデンその人に依るところが大きい。美しい彼女が呪われた運命に翻弄されながら、悲劇的な最後を迎える結末は哀れです。
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 またイヤイヤこの役を引き受けたと言われる彼女が見せる嫌悪感がかえって血の呪いを嫌う役柄とマッチしているので、今の目で見ても、真実味がありとても新鮮に映ります。  下僕役を務めたアーヴィング・ピシェルも存在感たっぷりに怪奇な印象を観る者に与える。優れた出来映えで上映時間も70分程度で見やすいので、なぜこれまであまり話題にすらならなかったのかが不思議な作品でした。
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 これまであまり知られていなかったこの不遇な作品はつい最近リリースされたDVDボックス『ドラキュラ対ミイラ男』に収録されている10タイトルのうちの一本ですが、1780円で10本のホラー映画の古典が見られるスグレモノですので、ホラー好きには買い揃えてもらいたい。  本邦初の収録となる作品も多数収められていて、今年の夏は吸血鬼映画とミイラ男映画を見続けそうです。 総合評価 70点