良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『バッド・テイスト』(1987)ピーター・ジャクソン監督がやりたい放題やってしまったデビュー作。

 昨日から今日にかけて、近畿地方には台風11号が長い間居座り続け、各所で交通網に影響が出ているようです。  さいわいウチの近所では大きな被害はないようですが、近くの河川の水位や勢いはかなり強く、普段の穏やかな様子を見慣れている者からすると信じられないような荒い表情を見せています。自然には敵わないなあと実感しながら、普段からよく歩いている川沿いの道を見ていました。
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 さて、映画の話に戻ります。今ではハリウッド大作映画を任される大立て者となったピーター・ジャクソン監督も最初から大規模な予算に恵まれていたわけではありません。  ハリウッドに招かれる前のニュージーランド時代には少ない予算の中、支出を遣り繰りしながら、自分がどうしても撮りたいシーンと重要ではないシーンとで金銭面の折り合いをつけねばならない局面があったはずです。
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 彼の初期作品を見れば、そういった諸事情をアイデアとセンスでいかに乗り切ってきたのかを見られるかもしれない。ニュージーランド映画といってもピンと来るのは『UTU/復讐』くらいで、同じく暴力と火薬による爆破シーンが満載のオーストラリア映画と混同しそうです。  そんな彼が大ブレイクする前に撮ってきたのは『ミート・ザ・フィーブルズ』『ブレインデッド』、そして今回記事にした『バッド・テイスト』などです。
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 この作品は過去にDVD化がされて、通常版と『グッド・テイスト』というインディーズ映画作りのアイデアを披露した特典映像を追加したコレクターズ・エディションがあります。  しかしながらAmazonなどで検索してみるとコレクターズ・エディションは1万円超えが普通になっていて、気軽に楽しめるという値段ではない。
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 さて内容はと言うと題名が表すように悪趣味極まりない残虐描写が特盛でひたすらスプラッター・シーンの連続です。思わず「うえぇー!!」となるカットばかりですが、慣れてくるとこれは『遊星からの物体X』と同じようなジョークなのだなあと理解できますし、製作サイドが悪ノリを楽しんでいるのが分かります。  もともとが自主映画なので、こつこつと4年半をかけて製作しただけあり、ラリったり、酔っぱらいながら、その現場の雰囲気だったり、夜遅くのノリで撮影したのかなあと思い巡らせながら見ていくとより楽しめます。
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 そうはいっても人の姿に化けた(低予算なのでそのほうが都合が良い。もっとも最後には正体を現す。)エイリアンによる強烈なカニバリズム場面、特にまるでポーチドエッグを食べるように脳みそをスプーンで旨そうに口に運ぶシーンの悪趣味ぶりはショッキングではあります。  悪名高いのは有名な脳みそをスプーンでかき回して美味そうに食べるシーンですが、それだけではなく、もうひとつ宇宙シェフが体内で作るゲロ・スープの回し飲みシーンがあります。
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 これもかなり気持ち悪く、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に出てきそうなゾンビみたいなエイリアンたちが御馳走を待ちかねるようにスープをすする。スープが緑色というのも胃のあたりが嫌な感じになる原因でもあります。まあ、緑豆スープは翡翠色でかなり美味いですが。  ほかにも人間をさらってきて、特製スパイスに漬け込み、より美味しく食べられるように工夫するなどの他とは一線を画す表現も多い。
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 スパイスというのがミソで、この映画に登場するエイリアンたちは宇宙界のファースト・フード・チェーンの新味捜索部隊で、彼らの味覚に合った人類を食肉として新しいハンバーガーの材料にするために日々研究しているというふざけた設定なのです。  そのため出てくる描写はミンチ肉になった人類や食肉標本として脂肪だけを抜き取られて箱詰めにされてしまった町中の住民の変わり果てた姿は悪趣味なのでしょうが、徹底された残虐表現がもはやブラック・ジョークにしか見えない。
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 衛生状態もかなり悪く、あちらこちらに処理しきれなかった人肉や血液が施設内に飛び散ったままにされている。まるで中国の食肉工場のような不衛生極まりない状態で、エイリアン退治に基地に踏み込んだ人類部隊は血で滑ったりしています。  じっさい、かなりおふざけのギャグやスベリ気味のオヤジギャグ全開の作風は巨匠的地位にまでのし上がってしまった現在の彼からは想像できない。
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 『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』時代のビートルズのパネルが飾られた車に乗ったり、ジョンとポールのところにエイリアンの返り血が飛んできたりとここでも悪趣味全開です。  またエイリアンたちは大音響のロックが大嫌いで、人類の車に乗った時に間違ってステレオのボタンを押してしまい、狭い車内で全開のロックを聴かされる羽目になります。
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 個人的にはこういうギャグセンスは大好きなので、あちこちに小ネタを仕込んでくる彼がニヤニヤしながら製作していたのであると想像すると楽しい。  『ブレインデッド』などでもさらにスプラッター描写をパワーアップしていて、このころの彼の攻撃的な製作姿勢こそが彼らしいと思っていますので、最近の彼がおとなしくなってしまったのは少々寂しい。そんな昔の彼の作品群を知る映画ファンならば、ガンガン攻めてくるスプラッター描写を堪能できるでしょう。
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 ピーター・ジャクソン本人も重要な役柄で出演しています。彼はエイリアン退治をする部隊に所属していて、豪快に侵略者を撃ち殺していくが、彼自身も脳みそが飛び散るほどの大怪我をしてしまう。  何度も後頭部が裂けて、中身が飛び出すが、ペタペタと落ちた脳みそを頭部に戻したり、ベルトで固定したりします。エイリアンもとうとう正体を現すが、彼らに対して人類は“ペニス顔”と蔑みます。個人的には“ペニス顔”というよりは“ちんこ頭”のほうがしっくりくるが、どっちでもいいでしょう。
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 侵略に失敗したエイリアンのラスボスは家型宇宙船(かなり間抜けで本当にただの一軒家が宇宙へ向かって飛んでいきます。)で脱出を図るが、ピーターがすでに宇宙船(ただの民家。積水ハウスみたいな感じで飛びます。)に侵入しています。  ピーターはしまいにはチェーンソーで敵のラスボスに挑みかかり、口から切り裂き、お尻から出てきます。そのときに彼が叫ぶ一言が「また生まれたぜ!」というお下劣なものでした。
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 さらにピーターはファースト・フード本店(宇宙のどこか?)に向かって、宇宙船(くどいですが、ただの民家。)の無線(昔懐かしのじーころダイアル式の電話)で敵本部への進撃を宣言してこの物語は閉じられる。  暇が出来たら、スケールアップした『バッド・テイスト』を見たいものです。そのときはまたピーターに主演してもらい、血液と肉片まみれになって欲しい。
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タイトルは『ワースト・テイスト』なんかでどうでしょうか。または中指立てたエイリアンのように『ファック・オフ』なんかでもいいかもしれない。攻撃性を取り戻すためにもお願いしたい。  なかなか見られないこの作品を知るにはスチール写真しかない。そしてこの作品について、よく掲載されるのはこれらのシーンばかりなのは裏返せば、それくらい見る者に与えたインパクトが強烈だったからでしょう。
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 自主製作映画らしく、荒々しいカットや編集が多いが、それらが塊になると、フィルムは躍動的でかなり楽しめる。高低差やニュージーランド大自然に囲まれた広大な風景にもセンスを感じます。  まあ、何はともあれ、ピーター・ジャクソン監督にはこのころに見せていたバカ丸出しの表情で、ノリノリのバッド・テイスト(悪趣味)な作品を遊びの気持ちで出して欲しい。 総合評価 90点  
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