良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『巨大アメーバの惑星』(1959)コウモリ蜘蛛。あとは特に…。火星はセピア色がイイ感じ。

 『シン・ゴジラ』を先月末に記事にして以来、ずっと特撮モノが続いておりますが、今回もその流れかもしれません。じっさい最近DVDで見たのは今回の『巨大アメーバの惑星』『戦慄!プルトニウム人間』『巨人獣 /プルトニウム人間の逆襲』『ダーク・スター』などどちらかというとマイナーな特撮作品ばかりです。  意外とよく出来ていたのはアイデア一発かと思っていたら、まさかの続編(?)まで飛び出したプルトニウム人間シリーズジョン・カーペンターが細かいこだわりを出して、すでに才能の芽が芽吹いている『ダーク・スター』などそれぞれが数十年の歴史に埋没することなく、カルトとして生き続けています。  そのなかで今回は印象に残った『巨大アメーバの惑星』を取り上げました。ストーリー展開は単純で四人の宇宙飛行士を乗せたまま消息を絶った火星ロケットが突如地球に戻ってきて、生き残りの二人のうち、無傷だったが記憶を無くしている植物学者のオネエチャンと彼女からなんとか記憶を取り戻させようとする米軍所属のアメリカ人医師たち。  あたまが良さそうには見えないマッチョな科学者たちのやり取り、特にオネエチャンはやたらと触られるし、食事準備も引き受けているようで家政婦、もしくはセクハラ対象にしか見えない。そして何かに感染し、意識を無くしている男の宇宙飛行士を治癒する様子が現在のこととして描かれる。彼女だけが頼みの綱なので、まさに“家政婦は見た”の状況です。
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 記憶を取り戻すため、催眠療法が用いられ、記憶を呼び覚ますと彼女が火星で経験したことが甦ってくるという今の感覚で考えるとありきたりな展開が続きます。ただこれが撮影されたのは1950年代なので当時の感覚ならば、それほど古臭いというストーリー展開ではないであろうし、細かい積み重ねでSFも進化していくので違和感はない。  メリエスの『月世界旅行』から突然変異で『スター・ウォーズ』にたどり着くわけではありません。数十年かけて表現やアイデアが蓄積されていってはじめて突然変異としての傑作が生まれるのでしょう。  さて作品に戻りますと、人類がようやく科学の進歩により火星に辿り着いたもののそこにはすでに地球を圧倒する科学力を持つ火星人が存在していて、我々人類に自分達の星で未熟な冷戦を繰り広げるのは勝手だが、くだらない争いを火星に持ち込むなと警告されて戻ってきます。円谷プロ作品でよく出てきそうです。  彼らは直接手を下すわけではなく、火星に棲息するコウモリ蜘蛛(原語ではRAT BAT SPIDERと言っているので“ねずみ”“こうもり”“くも”の三位一体!しかも嫌われ者ばかりです。ついでにゴキブリを加えても良かったかも。)やジャバみたいな巨大アメーバを使って、犠牲者を増やしていきます。
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 コウモリ蜘蛛の造形が素晴らしく、身体の特徴はコウモリの羽根の代わりに蜘蛛の八本の脚がくっついていて、しかも眼が狂ったような恐ろしげな形相ですので、かなりのインパクトがあります。  巨大アメーバ自体はそんなに恐くはないですが、なんだか気色悪い。それらを盛り上げるのは火星空間でのセピア色がかったフィルターでしょう。ロケット内でのシーンではカラーですが、異空間に出るとセピア色に変わります。これが様々な効果を生んでいて、オレンジ色っぽいフィルターがかかっていて、まるでフィルムのネガを見ているようで、粗が目立たない。  低予算映画、なおかつ当時は子供が見るために製作されたであろうキワモノとしての特撮作品の宿命としてまず第一なのは大がかりな美術セットが組めないことでしょう。  数ヵ所に満たないセット、製作日程や予算の都合で追加シーンなど撮れないなど物語世界の設定を画面で強化できないために台詞で観客に伝えなくてはならない。
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 コント要素としての説明的なセリフや平面的で奥行きなどない書き割りだとはっきり解る背景で芝居(コントみたいとか言わないで!したくてやっているわけではないが、お金がないのだ。)をして、尺を構成しなければいけないという涙ぐましい努力に対し、チャチだとか言い放つのは間違えています。  セピアもしくはオレンジ色っぽい画面構成は火星異空間の雰囲気を盛り上げるだけでなく、特撮のお粗末さもカバーしています。そりゃあ、ハリウッドの巨大メジャーの予算がたっぷりと注ぎ込まれる作品と比べることが不毛です。  最新鋭の設備を使うことなど叶わないマイナーかつお子さま向けという偏見に晒されてきたジャンル映画に重厚なセットが組めるわけはない。そこを熱意と工夫、お金がなくてもなんとかアイデア勝負で仕上げる素晴らしさを味わいたい。
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 この作品にはコウモリ蜘蛛と巨大アメーバという2つのキャラクターが主役級になります。見た目のインパクトは圧倒的にコウモリ蜘蛛に軍配が上がりますが、手強いのは巨大アメーバとなります。  邦題ではアメーバが採用されていますが、実はオリジナルタイトルの直訳は“怒れる赤い惑星”なのでそっちの方がカッコ良かったかもしれない。火星の画像は赤い感じのモノが多いが、青空が広がる画像もあり、そちらのほうが自然に見えるなあと思いながら眺めていました。慌ててNASAが訂正したため、陰謀論好きは色々と言っていました。  貶そうと思えばどこにでも批判が出来そうな作品でしょうが、どこか最近のCGや過激表現に頼りきった映画的商品群にはない暖かみがあります。こうしたら面白そうだとか、ああしたら新鮮なんじゃないかという製作者たちの取り組み姿勢、それが暖かみでしょう。  まあ、楽しいかと言われれば、退屈だと答えますし、見るべき作品であるとは言えませんが、歴史的な価値がある作品として特撮ファンならば、こういった表現もあったのだなあという感慨に浸れます。 総合評価 40点
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