良い映画を褒める会since2005

他ブログで映画記事や音楽記事も書いておりました。評価基準は演出20点演技20点脚本20点音楽10点環境10点印象20点の合計100点です。

『超高層プロフェッショナル』(1979)鉄骨職人の漢が大活躍するぜ

 この映画をはじめて見たのはテレビ放送の吹き替え版で小学生の頃でした。誰が解説していたのかも覚えていません。ただ土曜日か日曜日だったのはおぼろげに覚えているので、おそらくはフジテレビか12チャンあたりでしょうか。  題名はもちろん忘れていましたが、ヘルメットを被った職人たちが命綱をつけただけでゴツゴツした鉄骨の上を平然と歩いているシーンにぼくは驚き、このシーンのみを頼りに探してみることにしました。  Googleで映画、高層ビル、職人、建築などのキーワードで検索すると、この映画のタイトル『超高層プロフェッショナル』がヒットしました。  探ってみると1979年製作でオリジナルタイトルは単刀直入な『STEEL』、つまり鉄骨でした。高所恐怖症の僕にとってはあの高さで作業している様子を見るだけでも気が遠くなっていきますので強く記憶に残っていたのかもしれません。  見ているとジョージ・ケネディがまたまた出ているではありませんか。アーネスト・ボーグナインとともに脇役のお気に入りである彼が出演しているので、ちょっとテンションも上がってきます。すぐにヤフオクで探してみると、販売用VHSが500円で出品されていましたので迷わず落札しました。  レンタルビデオ屋さんからVHSが消えてしまってから、もうすでに10年以上は経ってしまい、有名スターが出ていない過去作品をなかなか発見しにくくなってはいますが、ヤフオクAmazonがあるおかげで昔みたいに都会の裏通りでひっそりと営業しているビデオ屋さんまで行脚して捜査する必要がなくなったのはかなりありがたい。  DVDも発売されているようですので、需要はあったみたいです。もしかするとTSUTAYAに並ぶかもと思いながらも、もし在庫されなかったら、格安を逃すかもしれないのでクリックしました。
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 『パニック・イン・テキサスタワー』『マッド・ボンバー(めでたく発売)』『ダーティ・ハンター』『白い恐怖』(ヒッチコックのヤツではない。)などもなんとか出して欲しい。しかし結局いつまでたっても出ないのでアメリカ盤で購入しました。  内容は高層ビルが舞台の映画です。高層とは言っても現在の基準で考えるとごくごく普通のテナントビル程度の高さでしかないが、予算の都合でしょうからそのへんは突っ込まないようにしましょう。  みんなが思い浮かべる『タワーリング・インフェルノ』のような超大作で使われるビルは本当に高そうです。しかしパニックを描くわけではなく、鉄骨工事の棟上げを生業にする熱い職人たちの地味な活躍にスポットを当てた渋い作品です。  「うん!?職人がビルの鉄骨を組み上げる映画!?何それ!?」「それって娯楽として成り立つ!?」とエンタメ重視のハリウッドの現状しか知らない世代の人からすると何故の嵐でしょう。  まあ、昔は日本でもダム建設を描いた傑作との誉れ高い『黒部の太陽』が超大作として公開されたこともありましたし、同じく石原裕次郎が出演した建設ものには『富士山頂』という作品もありました。ブルドーザーとネビル・ブランドを主役に据えた不思議SF『キルドーザー』というのも懐かしい。  最後のはトンデモ作品ではありますが、それでもこの『超高層プロフェッショナル』のように当時の骨太で筋肉バカで体臭とアルコール臭がキツそうな野郎たち(みんなイイ顔しています)が束になってかかってくるとリアリティと人間らしさが画面いっぱいに広がってきます。  現場監督リー・メジャースはジェニファー・オニールの要請に応じ、ジョージ・ケネディの右腕だったアート・カーニー(ピグノーズ)の支援を得ながら、リチャード・リンチ(ダンサー)、R・G・アームストロング(ケリン)、レッドモンド・グリーソン(ハリー)、アルバート・サルミ(タンク)、ロバート・テシア(チェロキー)、ハンター・ヴォン・リール(サーファー)ら“歴戦の勇士”をスカウトしてきます。
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 内容はジョージ・ケネディが社長を務める建築下請け会社がライバルとのトラブルに巻き込まれ、結果として彼はビルの建築現場から墜落死を遂げる。会社存亡の危機に愛娘が立ち上がり、父の遺志を継ぐもののライバルの妨害は熾烈をきわめるといったような内容です。  12チャン映画の常連であるジョージ・ケネディはいつものような安定感でデカイ割りに足が細い巨体をユサユサ揺らし、他の出演者を威圧します。  彼はビル工事の専門家として鉄骨工事を請け負う会社社長役で、劇中には建設途中の高層ビルの枠組みだけで剥き出しの鉄骨の上を平均台のように渡っていくシーンがあります。  前半のクライマックスとなる現場事故シーンでは、ビビリの新人作業員を救うために危険を犯し、彼を救い出すものの自身は爆発と火災が原因で最上階から落下して絶命する。  このシーンは非常にリアルでよく撮れていたなあと思っていると、これはスタントマンのリアルな決死のダイブでスタントマン本人はそのまま本当に死亡してしまいます。  それでも彼の活躍を無駄にせずに映画に最後のスタントを使っています。エンディングのテロップには亡くなったスタントマンを偲び、この映画が彼に捧げられたことを伝えています。
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 役柄上はジョージ・ケネディであり、彼の跡目を引き継いだお転婆娘は七人の侍を探すように腕に覚えのある曲者の職人たちをスカウトしてきます。  真っ先に現場監督としてスカウトしたリー・メジャースはかつての後遺症からか高所恐怖症になってしまい、職人としてはまったく使い物にならなくなっています。  自分でもそれを克服しようと陰で鉄骨を渡ろうとするシーンがありますが、同じく高所恐怖症の僕は鉄骨の下に見える地面の様子を見るだけで気が遠くなってきます。  ヒッチコック先生の『めまい』で表現された高所恐怖症の感覚は芸術的でしたが、この映画で用いられている手持ちカメラの視点がぶれていく感覚も恐怖を味合わせてくれます。  小学生の頃に一度見ただけだったので、四十年近く経っていますが、剥き出しの鉄骨の下や先端の向こうに見える奈落は心理的な恐怖映像として今でも健在でした。高所恐怖症の人々にとってはお化け映像よりも目前に迫る奈落の様子が恐ろしい。  建設業界のライバルである悪徳業者エディ(ハリス・ユーリン)の企みで賄賂をもらった輸送トラックの運転手組合にストライキを仕掛けられたり、建築現場にエディのところの若いのが鉄パイプを持って殴り込んできたり、幹部が拉致されてボコボコにされたりと荒っぽいことばかり起こりますが、すぐに警察に通報したり、弁護士を呼ぶこともなくナアナアで事は進んでいきます。
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 さまざまな運搬手段を塞がれた主人公リー・メジャースは最後にはヘリコプターで鉄骨を運んできて一気に組み上げる墨俣城作戦を決行し、納期に間に合わせる。  途中、強行突破で突貫工事を敢行する職人部隊も無事では済まず、更なる事故で仲間が減ったり、高所恐怖症のヘタレになってしまったかつての英雄に愛想を尽かす場面なども盛り込まれますが、最年少職人が新たな犠牲者になる寸前のところで恐怖を断ち切ったリー・メジャースは職人としての勇気を取り戻し、残った職人とともに工事を完遂させる。  今の目で見ると映画として成り立つかどうかは微妙ではあります。それでも見ているうちに観客を引き込む強い力がこの映画には息づいています。  なかなかレンタルで置いているところはないでしょうが、今でもヤフオクなどには昔のVHSビデオが特価で出品されていることがありますので興味のある方はご覧ください。  パニック映画でもないし、サスペンス映画でもラブ・ストーリーでもない。それでも見る者を惹き付ける何かがある。『ジャコ萬と鉄』を見たときの感覚を思い出しましたので、男同士の結び付きや義理の物語だったのだろうか。地味な素材で一品料理をこしらえるような職人技を見るのは年々難しくなってきていますので、どうしてもヤフオクAmazonに向かってしまいます。
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総合評価 75点