『ローズ』(1979)ジャニス・ジョプリンの壮絶な人生をモデルに描いた作品。
今年に入ってから、かつて中高生の頃に繰り返し繰り返し、何度も聴いてきたロックを再びアナログ・レコードで集め出しています。きっかけはビートルズのアルバムを数枚集めて行く中で、音圧や音の配置などがレコードとCDではかなり違いがあることに気づいたからでした。
CDにフォーマットが変化してから、かつてアナログ時代に大好きだったアルバムを購入して聴いてみると、なんだかかつて感じていたロッカーたちのテンションや魂の叫びのようなものが色褪せてきたことが腑に落ちず、感受性が低下したのが原因だろうと自分自身を納得させてきましたが、なんだかずっとモヤモヤしていました。
それがビートルズのアルバムをアナログで聴いていくうちに、レコードの良さを再発見し、ビートルズでもそうなのだから、その他のかつて聴いてきたロッカーたち、ローリング・ストーンズ、ブルース・スプリングスティーン、レッド・ツェッペリン、キング・クリムゾン、ドアーズ、そしてジャニス・ジョプリンらもそうに違いないと確信し、再度彼らの作品群のレコードを代表作を中心に集めています。
ブルース・スプリングスティーンの『明日なき暴走』はより繊細に響き、『ボーン・イン・ザ・USA』のシングルB面曲『シャット・アウト・ザ・ライト』の繊細さに打ちのめされています。
ゼップの『Ⅳ』『プレゼンス』『永遠の詩』の音の拡がりとうねりはCDを凌駕し、ミックやジム・モリソンの声はよりエロチックに耳に届き、ロバート・フリップのギターとジョン・ウェットンのボーカルはより孤高の男の世界を提示し、ジャニスの圧倒的な迫力は唯一無二で未だに成仏していないように目の前に押し出てきます。
ジャニスのアルバムはCDでも持ってはいますが、スタジオ録音盤よりもライブ盤の方が良い。最近はレコード盤でアメリカ盤の『ジャニス・イン・コンサート』や1968年のライブの海賊盤などをレコードで買い直し、改めて聴いてみると、当然のようにアナログの方が音の鳴りが良く、立体的な深みがあります。
CDも音は良いのですが、どうも平坦で、なんだか音が硬い感じがします。また音楽はサウンド・デザインも大切だと思うのですが、室内環境をキャンパスに例えると、どの楽器をどこに配置するか、ボーカルの配置や音圧をどの程度に調整するか、目立つ楽器の裏に何を持ってくるかでリスナーが受ける印象はかなり変わってきますし、何度も聴く楽しみが増えてきます。
ビートルズやキング・クリムゾン、レッド・ツェッペリンなどは典型で、メインの楽器の裏でちょこちょこ色々な技を試していて、それがまた楽しい。レコード時代は1970年代くらいまでですが、今よりも言葉に対してかなり大らかだった時代の名残があります。
僕らにはなじみが深いキング・クリムゾンの『21世紀の精神異常者』が今では『21世紀のスキッツォイド・マン』とタイトルを微妙な感じに変えられているのに愕然としました。忖度は気持ち悪い。
ジャニスの場合はアナログでは吠えるようなボーカルが前面に押し出てくるが、CDでは迫力はあるものの中央で固定されてしまっていて、自由度が減ってしまっているかで、受ける印象が違ってきます。
CDすら販売が危うくなり、配信が主流となってしまった現状では音楽はイヤホンを挟んだ、左耳と右耳の間の20cm程度の拡がりしかなくなってしまっています。
CD時代までのミュージシャンは室内(最悪車内か?)で聴いたときのサウンド・デザインを考えながら、作品を製作しているでしょうから、空間には様々な遊びや実験があるはずです。それらはイヤホン環境では本領が発揮されにくいのは当然です。また聴きづらいからという理由で、音の左右の移動や極端な配置は避けられていそうです。つまりバランスは重視されているが、面白みに欠ける感じとでも言えば、分かっていただけるかもしれない。
そんなこんなで最近はレコードにハマっていて、なかなか更新が出来ていませんが、今回はジャニス・ジョプリンの壮絶な半生をモデルに描いたベット・ミドラー主演の『ローズ』について書いていきます。
この映画を知るきっかけになったのは高校時代の英語の先生がある日の授業でこの作品について語り出し、深夜に放送されていたのを見て、なかでもベット・ミドラーが歌う『ローズ』に魅入られ、たまたま当時『ザ・ローズ』をパーラメントでお馴染みのフィリップ・モーリス(ウォーレン・バフェット翁の永久保持銘柄の一つですねwww)がCMで使っていたのを思い出し、会社に電話して、誰が歌っているのかとどのレコードを買えばいいのかを問い合わせたそうです。
彼女の行動力に感心しますが、当時はネットもなく、レコード屋さんも最近の流行りのレコードしか取り扱っていないのが普通で、いざ取り寄せようとしても数か月は掛かるというのがざらでした。さんざん待たされた挙句の果てに冷たく「もう廃盤です!」ときっぱりと言われて終わることもままありました。
たぶんこの歌は有名な曲ですし、カバーもされていますので、知っている方も多いでしょう。ジャニスの歌った曲で有名なカバーといえば、『サマータイム』ですから、おそらくこの曲の代わりに『ローズ』を使ったのであろうと推察します。ガーシュイン側がOKを出さなかったのでしょうか。
この映画のイメージが強すぎたため、一時は勘違いしていて、ジャニスのアルバムを購入していくうちに「あれ?ザ・ローズはどのアルバムに入っているのだろうか?」と思い、もしかするとシングルしか出てないのかなあなどと勝手に思い違いをしていました。
破滅的な生き方で若くしてこの世を去ったジャニスの半生を描いた作品で、どこまでが真実なのかは分かりかねますが、似たようなことがあったのでしょう。フットボール部の全員に輪姦され、薬物やアルコールに溺れ、疎外感と孤独や世間の偏見と戦いながら、散って行った彼女の人生から今の若い人たちは何を感じるのでしょうか。
実際のジャニスがどのような生き方をしていたのかは分かりかねますし、これも死後にオーバーに語られる部分もあるかとは想像できますが、かなり感情の起伏が激しく、あたりかまわず怒鳴り散らしたかと思えば、急に泣き出してしまうということの繰り返しで、まさに"酔っ払ったベイビー"状態になっています。
周りにいる人たちは彼女の病的なまでのアップダウンに付き合わされ、時には瓶で殴られるなどの暴力行為やヘロインをはじめとする薬物接種とアルコールでベロベロになりながら、ステージをこなしていく破天荒な姿をどう見ていたのだろうか。
一番有名なのはこの映画のタイトル曲にもなった『ザ・ローズ』でしょうが、この曲はラストシーンで限界を超えてしまい、ステージ上で崩れ落ちたあとに流れるので、劇中ではしっかりと歌われることはありません。出来れば、歌い終わってから崩れ落ちる演出を取って欲しかっったのですが、このシーンの余韻があるからこそのこの映画であるともいえるので、何とも言えない。
製作は1970年代後半ではありますが、映画の流れはいわゆるアメリカン・ニュー・シネマのような悲しいエンディングを迎えます。今回は近所のレンタルにはなかったので、Amazonでお取り寄せをして見ましたが、劇中で掛かる曲を聴きながら、これは『クライ・ベイビー』や『ダウン・オン・ミー』『心のかけら』などを意識しているなあとか、『ザ・ローズ』は『サマータイム』を思い出させるなあとか想像しながら、見ていました。
総合評価 78点